2017年03月13日

世界が注目する國村準、韓国映画「哭声 コクソン」で圧倒的存在感「現場はどこも変わらない」

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 一方では山に住み着いた得体の知れない“よそ者”、一方では自殺志願の人に寄り添う元警察官――。韓国映画「哭声 コクソン」とベルギー・フランス・カナダ合作映画「KOKORO」で正反対のキャラクターを演じた國村隼が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017」を訪れた。2作品の上映のほかにトークショーも開催され、観客のアンケートで選ぶファンタランド大賞では「人物賞」を受賞。さながら「國村準祭り」の様相だ。國村と「哭声」のナ・ホンジン監督に話を聞いた。

不気味な“よそ者”

 「チェイサー」「哀しき獣」で韓国の社会問題を下敷きに犯罪と暴力を描いたナ・ホンジン監督が、「哭声 コクソン」では被害者に焦点を当て、小さな村の混乱を描き出す。

 ある山村に一人の“よそ者”が現れてから奇妙な殺人事件が続き、人々は恐怖に陥る。ナ監督は物語のモチーフを新約聖書から得た。「エルサレムに向かうイエスをユダヤ人がどう見たのか」という視点から“よそ者”のキャラクターが誕生。外見上は村人たちと似ていながら異質である点を強調するため設定を日本人としたが、キャスティング時に監督の頭に真っ先に浮かんだのが國村だった。最後まで観客を惑わせる“よそ者”役にふさわしいと思ったという。オファーを受けた國村も「彼が撮るなら面白くないわけがない。この役をほかの人に取られたくない」と即決した。

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 ミステリー、スリラー、ファンタジーと多くのジャンルを取り入れ、宗教的要素も盛り込んだ作品。ナ監督は「構想から完成まで6年かかった。一生かけてもできないかもしれないと思った」と、生みの苦しみの日々を振り返った。

 ロケは半年に及んだ。妥協を許さないナ監督の撮影現場は國村にとって「経験したことがないほどタフな現場」。ふんどし一丁で岩山を走り回るのは序の口(シナリオでは全裸という設定だったとか)で、過酷な撮影に耐えた。「滝に打たれるシーンは2テイクで終えてほしいと監督に頼んだ」ものの、結局はその倍ほどのテイクを要したという。そのかいあってか“よそ者”は圧倒的な迫力でスクリーンを支配し、映画に緊張感を与えている。

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 國村は韓国の「青龍賞」で日本人初の男優助演賞と人気スター賞をW受賞。人気スター賞の5人の中には女優ペ・ドゥナもいて、「ファンなので一緒に受賞できたのはうれしかった」。知名度も急上昇したそうで「韓国の街を歩いていて『悪魔だ!』と声をかけられ、一緒に写真を撮ってほしいと頼まれるのには驚いた」と笑う。

 ナ監督は「日本にはこのようなジャンルの映画が多いので、受け入れられるかどうか心配もある。面白く見てくれればうれしい。なぜ主人公が被害にあわなければならなかったのかを考えてもらえれば」と日本の観客にメッセージを送った。

ジョン・ウー、タランティーノ作品も

 「KOKORO」はベルギーの女性監督の作品で、島根県隠岐島の雄大な自然を背景に生きる希望を見出す人々の物語だ。フランス人女性アリス(イザベル・カレ)が、亡き弟がしばらく滞在していた日本の海沿いの村を訪ねる。この村では絶壁から海に身を投げる人が後を絶たない。女性はこの村でさまざまな過去を持つ人々と出会い、ゆっくりと癒やされていく。國村の役どころは、自殺を思いとどまらせる活動をする元警察官。自らも心に傷を負いながら絶望した人々に寄り添う、懐の深いキャラクターだ。

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 「KOKORO」の上映後には國村のトークイベントが開かれ、熱心なファンが詰めかけた。國村は車好きがこうじて進んだ高等専門学校を辞め、バイト生活中に劇団の研究生に応募したことをきっかけに演技の道に足を踏み入れる。リドリー・スコット監督が大阪で撮影した「ブラック・レイン」のオーディションに参加したことが転機となった。その後、ジョン・ウー監督やクエンティン・タランティーノ監督の映画にも出演。「KOKORO」では、ほとんどのせりふを英語でこなしている。

 外国映画の仕事にも抵抗はまったくない。「映画の現場でやるべきことは同じ。同じ道具建ての中で、いかに映画の世界観を立ち上げるかが俳優の仕事」。文化や言葉は違っても同じ映画人だという言葉に、外国人の監督や共演者に愛される理由が見えた。

(文・写真 芳賀恵)

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「哭声 コクソン」(2016年、韓国)

監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ

2017年3月11日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kokuson.com/

作品写真:(C)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

写真:
1:(右から)「哭声 コクソン」のナ・ホンジン監督、國村隼
2と3:國村準トークイベント
4:(右から)「KOKORO」のヴァンニャ・ダルカンタラ監督、國村準=いずれも北海道夕張市で3月4日〜5日
5:「哭声 コクソン」

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6:「KOKORO」

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2017年01月19日

「キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち」パク・デミン監督に聞く「愉快で軽快、豊かな映像表現で」

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 韓国の伝説的詐欺師を描く映画「キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち」がいよいよ1月20日より公開される。公開を前に来日したパク・デミン監督は「愉快で軽快な詐欺師を、豊かな映像表現で描きたかった」と語った。

 人気若手俳優のユ・スンホが主人公のキム・ソンダルを演じ、アイドルグループ「EXO」のシウミンが映画初出演。脇を実力派のコ・チャンソク、チョ・ジェヒョンらが固め、見ごたえある娯楽作品に仕上がった。

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 パク監督との主なやり取りは以下の通り。

 ──キム・ソンダルを題材に、スケールの大きい娯楽作品を作ろうと思ったきっかけは。

 私一人の発想ではなく、製作サイドと一緒に作り上げてきた。キム・ソンダルは当初のシナリオでは脇役だったが、主人公にすればずっと愉快で軽快になると思い、設定を変えた。

 キム・ソンダルの魅力は単なる悪党ではないところ。石川五右衛門のように、貴族階級の両班(ヤンバン)による搾取で苦しむ庶民のヒーローだった。しかし、詐欺師を中心に作品を広げるのは難しかった。詐欺師は口で相手をだますもの。話としては面白いが、映像を見て面白く、豊かな表現でなければならない。

 伝説のキム・ソンダルは単独行動で、エピソードは断片的だった。映画は大きな一つの物語にしなければならない。チームにして個々の詐欺行為も規模を大きくした。劇中登場する「大河(大同江)を売り飛ばす」話も、もともとは単純な詐欺だった。物語を複雑にし、大きな堤防を築いたりして、スケールを大きく見せる工夫をした。

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 ──主演のユ・スンホについて、監督は「真面目で固い」イメージを持っていたと聞いた。起用の経緯は。

 脚本は彼を念頭に書いたわけではない。もともとキム・ソンダルは中年の設定だったが、映画なら若くてセクシー、面白い人物にしようと決めた。執筆中、ユ・スンホは兵役中で念頭になかったが、書き上げてから除隊の記事を読み、彼に決めた。

 ──監督から見たユ・スンホ、シウミンの魅力は。

 ユ・スンホのセクシーさ、シウミンのかわいらしさは、それぞれのキャラクターにおいて望まれるもので、表現してほしかった。持って生まれた要素もあり、二人ともうまく表現してくれた。ユ・スンホは子役出身。除隊した後に深みが出てきたと思う。行き過ぎず、自然に醸し出される要素でうまく演じた。シウミンも自分自身のかわいらしさを生かしていた。

 ユ・スンホは詐欺師役で、撮影序盤はぎこちない部分もあった。撮影を重ねるごとに能力を上げ、自然に詐欺師の姿を見せられるようになった。変化を感じた。

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 ──作品から「仕事も人生も楽しむ」メッセージが伝わってくる。監督も楽しんで撮影できたか。

 長編デビュー作「影の殺人」(09)ではプレッシャーを感じ、本当に大変だった。今回は俳優もスタッフも現場で楽しんでくれた。怒号が飛び交うこともなく、むしろ体重が増えてしまったぐらいだ。

 次回作は現代もの、女性が主人公のアクションを考えている。アイデアを練っているところだ。

(聞き手・写真 岩渕弘美)

「キム・ソンダル 大河を売った詐欺師たち」(2016年、韓国)

監督:パク・デミン
出演:ユ・スンホ、コ・チャンソク、ラ・ミラン、シウミン、チョ・ジェヒョン

2017年1月20日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kimseondal.jp/

作品写真:(C)2016 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

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2016年12月15日

「フィッシュマンの涙」薬を飲んだら魚になった 平凡なフリーターを襲った悲喜劇

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 病院で寝ているだけで報酬30万ウォン(3万円弱)がもらえる――。おいしい条件につられて参加した製薬会社の臨床実験。ところが、薬の副作用で上半身が魚へ突然変異してしまう。「フィッシュマンの涙」は、泣くに泣けない悲劇に見舞われた若者パク・グをめぐる物語だ。

 人魚(マーメイド)とは逆に、上半身が魚。シュルレアリスムの画家ルネ・マグリットの作品「共同発明」に想を得たという造形は不気味ではあるが、ギョロッとした目と厚い唇に愛嬌がある。モンスターというより、着ぐるみの“ゆるキャラ”といった感じ。とはいえ、本人にとっては深刻な事態である。

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 なのに、父親もガールフレンドのジンもパクに同情するどころか、金もうけの手段としか考えようとしない。自宅にかくまってくれた新人記者サンウォンも、製薬会社相手に戦う人権派弁護士も、あくまで自分たちの仕事が第一。どこまで親身になってくれているのか分からない。世間もパクに同情する人々がいるかと思えば、排除しようとする者もいる。

 面白いのは、父親やジンをはじめ、魚人間のパクを目にする誰もが大して驚かないことだ。それどころか、父親は対面するや開口一番「勉強もしないで何してる!」と息子の魚顔にビンタを食らわす。内容はシリアスだが、こういうコミカルな演出が全編にあふれていて、笑いが途切れない。

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 平凡なフリーターのパク。無名大学卒のサンウォン。ネットの投稿マニアであるジン。いずれも、社会の片隅でひっそり生きてきた人々だ。だから、金や地位に目がくらむのも仕方ないのだろう。各キャラクターに納得できるバックグラウンドがあるので、ストーリー展開に無理がない。

 製薬会社を相手取った訴訟での敗訴。パクの魚化の進行。そんな中、サンウォンも、ジンも、そしてパク自身も、気持ちに変化が生じていく。そして、最終的にパクが下した決断とは。

 格差社会、拝金主義、メディアの暴力──。日本はもちろん、どの先進国にも共通する問題をえぐり出し、各国の映画祭をにぎわせた話題作。「オアシス」、「ポエトリー  アグネスの詩」の巨匠、イ・チャンドン監督が脚本に惚れ込み、エグゼクティブ・プロデューサーとして参加している。

(文・沢宮亘理)

「フィッシュマンの涙」(2015年、韓国)

監督:クォン・オグァン
出演:イ・グァンス、イ・チョニ、パク・ボヨン

2016年12月17日(土)、シネマート新宿、HTC渋谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://fishman-movie.jp/

作品写真:(C)2015 CJ E&M, WOO SANG FILM
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2016年12月07日

映画祭を振り返る(2)混迷する釜山映画祭 求心力を取り戻せるか、正常化への道遠く

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 2016年10月6日から15日まで、10日間にわたり開かれた韓国の釜山国際映画祭。上映作品数は69カ国・地域の299本で昨年並みだったが、観客数は16万5149人と昨年を6万人以上も下回った。接待や金品授受を厳しく規制する法律(通称「金英蘭法」)の施行や開幕式前日に釜山地域を襲った台風も動員に影響した可能性があるが、最大の原因は韓国の映画人のボイコットだろう。釜山映画祭はこの2年間、「表現の自由」と「独立性」をめぐってスポンサーの釜山市と対立してきた。今年は開催こそしたものの、映画人の不満はいまだ解消されていない。

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 今月に入り、釜山映画祭に対する政府や行政の圧力に青瓦台(大統領府)が関与したことをにおわせる証拠の存在が明らかになった。朴槿恵(パク・クネ)大統領の友人による国政介入疑惑で社会が大きく揺れるなか、表現者の危機感はいっそう強まっている。

「独立性」訴える映画人
 映画祭期間中の週末、韓国独立映画協会が主催する「独立映画人の夜」に出向いた。前執行委員長のイ・ヨングァン氏を支援する集いだ。スピーチに立ったキム・ドンホ理事長は「独立映画が死ねば韓国映画は死ぬ」と力強く訴えた。

 メーン会場「映画の殿堂」の1階ロビーには、イ氏と釜山映画祭を支援する映画人たちのメッセージが展示されていた。「表現の自由のために」と書かれた手書きのボードを持つパク・チャヌク監督をはじめ、多くの監督や俳優が参加している。台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督、日本の黒沢清監督や是枝裕和監督も自筆のメッセージを掲げていた。愛着のある映画祭を守ってほしいという思いが伝わる。

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釜山市との対立
 映画祭と市の対立の発端は2014年。旅客船セウォル号の沈没事故をめぐる政府の対応を批判したドキュメンタリー「ダイビング・ベル」の上映だった。事前に組織委員長であるソ・ビョンス釜山市長が「政治的偏向がある」として上映中止を求めたが、映画祭側は要請をはねつけた。政治的・社会的規制にしばられないことをモットーとしてきた映画祭としては当然の決定だった。しかし映画祭の終了後、釜山市は不正経理を理由にイ・ヨングァン執行委員長に辞任を勧告した。

 映画祭側は執行委員長の2人体制を提案し、国際的にも知名度が高い女優のカン・スヨン氏を新執行委員長に迎えて翌15年の映画祭をなんとか終えた。だが市側のイ委員長への圧力は激しさを増し、年末には業務上横領での告発に踏み切る。これに猛反発した映画人らが映画祭ボイコットを宣言する事態となった。

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 映画祭の中断を避けるための模索が続いた。執行委員会と組織委員会は、民間の理事会に運営を移管し、映画祭の定款を改正することで合意。今年の映画祭の開催が正式に決定したのは5月だった。理事長に就任したのは、政界や行政に太いパイプがあり映画関係者からの信頼も厚い初代執行委員長のキム・ドンホ氏。改正された定款には「作品選定は執行委員長とプログラマーの権限」との項目が盛り込まれ、キム理事長は「自立性と独立性を100%保障するもの」と胸を張った。

 それでも、すべてが解決したわけではなかった。映画関連9団体でつくる映画団体連帯会議が映画祭参加の可否を問う投票を行ったところ、ボイコット派とボイコット撤回派が同数(1団体は保留)となり、参加は個々の判断に委ねられた。ボイコット撤回派は作品発表の場であることを重視し、ボイコット派はイ・ヨングァン氏の名誉回復と市の謝罪が参加の前提だと主張したという。

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 オープニングのレッドカーペットに韓国人監督や俳優の姿が少なかったのは、こうした経緯からだ。例年は身動きできないほど混雑するカメラマン席には比較的余裕があり、レッドカーペットイベントも拍子抜けするほど早く終了。映画祭の独立性を訴えるメッセージボードを掲げていたのは俳優キム・ウィソンだけだった。抗議の意思をもつ多くの映画人が、晴れの舞台を拒絶したのだろう。

 映画祭の波乱を映し出すかのように、開幕前日の朝には台風18号が釜山地域を襲った。スターを目当てに一般客が詰めかける海辺の舞台が大破し、イベント会場は急きょ「映画の殿堂」の野外スペースに移動した。

 行政からの補助金が減った上に企業スポンサーも減り、一般客が楽しめるイベントは激減。さらに金英蘭法の影響で、韓国4大映画会社のパーティーは軒並み中止となった。映画祭の華となるイベントの縮小や中止で、お祭りムードが冷え込んだことは否めない。

有罪判決に反発強まる
 10月26日、釜山地方裁判所でイ・ヨングァン氏の判決公判が開かれた。俳優ユ・ジテやキム・ウィソンも駆けつけ傍聴席は支援者で埋まったが、下された判決は懲役6カ月、執行猶予2年という予想外のものだった。ともに起訴された元副執行委員長や事務局長も有罪判決を受けた。

 映画誌「シネ21」によると、判決理由は「イ氏が2750万ウォン(約248万円)をケーブルチャンネル業者に提供し映画祭に損害を与えた」というもの。裁判所は「決済に直接かかわっていなかった」とするイ氏側の主張を退けたが、担当弁護士は「私的流用ではなく、すでに補てんされている」と反論。イ氏はただちに控訴した。

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 イ氏はキム・ドンホ氏らとともに釜山映画祭をアジア最大級の規模に育てた初代スタッフの一員。筆者は昨年の映画祭で、執行委員長だったイ氏と共同通信社のインタビューに通訳として同席した。答えにくい質問もあったはずだが、イ氏はひとつひとつの質問に丁寧に答えた。立花珠樹記者の記事(http://www.47news.jp/47topics/tsutaeru/post_20160617135016.html)にあるとおり、彼は「大学教授として30年間、学生を教えてきた。自分が(映画祭の)独立性を守れなければ学生に言う言葉がない」と静かに、しかしきっぱりと言った。その姿がいまも印象に残っている。

「民主化前に逆戻り」の危機感
 今年の韓国映画のラインアップに政治的なテーマの作品がほとんどなかったのは自主規制による結果ではないのか。昨年まで積極的に招待していた中国映画の数が日本映画より少なかったのは中韓関係の冷え込みを反映したためではないのか。韓国国内ではこうした憶測も飛び交っている。

 1996年に産声をあげた釜山映画祭がアジア最大級と言われるまでに成長した要因は、まさに規制に縛られず多様な映画を受け入れてきたことにある。なんといっても日本大衆文化の解禁以前から日本映画を紹介し、政治的・社会的理由で一般公開が困難とされる映画も上映してきた映画祭なのだ。今年は調整役としてキム・ドンホ氏が再登板し開催にこぎつけたが、映画人の間にはその対応に満足していない雰囲気もある。

 12月2日、韓国のメディア業界の労働組合「全国言論労働組合」は釜山映画祭への圧力の背後に青瓦台があったことを示す資料として、2014年に青瓦台に勤務していた幹部のメモを公開した。釜山日報によるとメモには「ダイビング・ベル」の関係者や映画祭関係者の名前、映画祭への補助金の額などが記されていた。青瓦台の関与はある程度予想されていたとはいえ、やはり衝撃的だ。政治不信は極限まで膨らみ、来年以降の釜山映画祭の形はまったく見えてこない。

(文・写真 芳賀恵)

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1:キム・ドンホ理事長(右)とカン・スヨン執行委員長(今年10月)
2:レッドカーペットでメッセージを掲げる俳優キム・ウィソン
3:「映画の殿堂」に展示された監督や俳優のメッセージ
4:パク・チャヌク監督
5:是枝裕和監督
6:黒沢清監督
7:ポン・ジュノ監督(上)、イム・スルレ監督(下)
8:侯孝賢監督
9:ゲストを迎えるイ・ヨングァン前執行委員長(右、昨年10月)
10:イ氏を支援するステッカー


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2016年11月13日

「華麗なるリベンジ」ファン・ジョンミン×カン・ドンウォン 検事と詐欺師のバディ・ムービー

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 韓国の人気俳優ファン・ジョンミン、カン・ドンウォン共演の“バディ・ムービー”「華麗なるリベンジ」。無実の罪で収監された検事とイケメン詐欺師がコンビを組み、巨大な権力に立ち向かう。

 リゾート開発に反対する過激な環境保護団体が、警察と激しく衝突した。正義感が強く苦労人の検事ピョン・ジェウク(ファン・ジョンミン)は、背後に開発側の関与を疑う。一方、政界進出を狙う次長検事のジョン・ギル(イ・ソンミン)にとってジェウクは邪魔だった。捜査から手を引くよう命じるが、ジェウクは無視して取り調べを強行する。ところが容疑者が取調室で死亡。ジェウクは疑われて15年の実刑判決を受け、収監される。

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 刑務所生活も5年が過ぎた。受刑者から一目置かれる存在となっていたジェウクの前に、巧みな話術とルックスで人をだます詐欺師ハン・チウォン(カン・ドンウォン)が現れた。ふとした会話からチウォンが5年前の事件にかかわっていたことを知るジェウク。真相を知り自らの汚名をすすぐため、チウォンに取引を持ちかける。「出所を助けるから自分の計画を手伝ってくれないか」

 チウォンはジェウクの提案に同意。しかし、二人は性格も行動も正反対。あくせく働くのが嫌いなチウォンだったが、ジェウクにとっては命綱。いやいやながらもチウォンは手足となって動き、詐欺師の才能を発揮。5年前の事件の核心に迫っていく──。

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 ファン・ジョンミンは静の演技。塀の中で腰を据え、内面に炎をたぎらせ、少しずつ真実に近付いていく。閉ざされた空間で重厚感を見せる。対するカン・ドンウォンは動の演技。口八丁手八丁、表情豊かに軽妙に詐欺師になりきる。時間とともに頼りになる相棒へ変わっていく。

 対照的な二人の男が、手を組んで巨悪と戦う。ありがちなストーリーだが、主演二人のメリハリある演技で見ごたえある娯楽作品となった。

(文・岩渕弘美)

「華麗なるリベンジ」(2015年、韓国)

監督:イ・イルヒョン
出演:ファン・ジョンミン、カン・ドンウォン、イ・ソンミン、パク・ソンウン、シン・ソユル

2016年11月12日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kareinaru-revenge.com/

作品写真:(C)2016 SHOWBOX, MOONLIGHT FILM AND SANAI PICTURES CO., LTD ALL RIGHTS RESERVED.

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