2018年04月20日

「タクシー運転手 約束は海を越えて」韓国民主化運動弾圧・光州事件 名優ソン・ガンホが再現

1.jpg

 1980年5月。韓国・ソウルのタクシー運転手マンソプ(ソン・ガンホ)は、ドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せ、一路光州を目指していた。「通行禁止時間前に着きたい」と言われ、何としてもタクシー代を受け取りたいマンソプは、機転を利かせて検問を切り抜け光州に入る──。

 韓国光州市で起きた民主化運動弾圧「光州事件」を、ドイツ人記者とタクシー運転手の視線で描く「タクシー運転手 約束は海を越えて」。出演は「殺人の記憶」(03)のソン・ガンホ、「戦場のピアニスト」(02)のトーマス・クレッチマン。監督は「義兄弟 SECRET REUNION」(10)、「高地戦」(11)のチャン・フン。記者の身分を隠したドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターと、タクシー運転手キム・サボク。2人の実在した人物をモデルに、改めて光州事件をひも解いていく。

2.jpg

 幕開けでマンソプの人物像と背景が軽妙な語り口で描かれる。平和なソウル。11歳の娘を男手ひとつで育てるマンソプは、滞納した家賃も払えぬほど困窮している。ある日、大金がもらえる光州行きチャーター運転の話を聞き、後先を考えずに引き受けてしまう。

 大金目当てのマンソプは「光州行き」の意味を理解していなかった。片言の英語を駆使してドイツ人記者を乗せ、ソウルを出るが、進めば進むほど雲行きがあやしくなる。裏道を走ると軍の検問所が待ち構えている。得意の口八丁と強運で難所をかいくぐり、戒厳令下の光州へ到着。待っていたのは想像を絶する光景だった。

3.jpg

 韓国の負の歴史である光州事件に、いわば部外者のタクシー運転手とドイツ人記者が巻き込まれ、目撃者となった経緯が明確に描かれる。通訳をかって出た大学生、地元光州のタクシー運転手たちの協力。胸を熱くするエピソードも盛り込まれる。

 光州事件を内から描くのではない。ソウルから来たマンソプと、東京から来たピーター、外から来た2人の視点で描いたことで、改めて全世界の観客に事件を検証してもらおうとしているようだ。

 デモ参加者を暴徒とみなし、軍が人民に向けて浴びせる銃弾。ピーターの潜入取材に気付いた公安警察の執拗な追跡。光州の惨状を明確に伝えぬ国内の実情。マンソプの心の葛藤やピーターとの友情。実話をベースに物語として脚色し、観客を光州事件の目撃者にしていく。映画的な醍醐味も合わせ持ち、韓国映画の底力を感じた。

(文・藤枝正稔)

「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2017年、韓国)

監督:チャン・フン
出演:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル

2018年4月21日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://klockworx-asia.com/taxi-driver/

作品写真:(C)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.
posted by 映画の森 at 23:47 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月09日

「ザ・キング」チョ・インソン×チョン・ウソン、悪に染まった検事熱演 極上の韓国犯罪エンターテインメント 

1.jpg

 けんか好きの貧しい青年パク・テス(チョ・インソン)は、権力で悪を制する検事に憧れ、猛勉強の末に夢を実現。新人検事として地方都市で多忙な日々を送るが、ソウル中央地検のエリート部長ガンシク(チョン・ウソン)と出会って人生が一変する。ガンシクは他人を踏み台に成り上がり、大統領選を利用して権力をつかんだ「1%の成功者」だった──。

 テス役に「露花店(サンファジョム)運命、その愛」(08)以来の映画出演となるチョ・インソン。ガンソクに「愛のタリオ」(14)、「アシュラ」(16)のチョン・ウソン。テスの先輩検事役にペ・ソンウ。監督・脚本は「観相師 かんそうし」(13)のハン・ジェリム。

2.jpg

 1980年〜2010年の韓国現代史をバックに、テスの激動の半生を描く。監督の語り口は軽妙で饒舌。韓国事情にうとい日本の観客をうまく作品世界へいざなう。まず成功したテスの姿を見せる。さかのぼって貧しい少年が検事を目指す道のりを、スローモーションや静止画像、ナレーションを多用して紹介する。マーティン・スコセッシ監督「グッドフェローズ」(90)を思わせる。緑がかったスタイリッシュな映像は「セブン」(95)のデビッド・フィンチャー監督の影響か。

 歴史的事実の裏で、権力を握った検事たちが、裏工作で国民をあざむき、社会を動かしていく。史実と創作のさじ加減が絶妙でリアルだ。フィクションのはずが、見ているうちに真実味が増してくる。脚本と演出のなせる技だろう。

 ガンソクと出会い、悪事のうまみを知るテス。一方、テスの幼なじみのチェ・ドゥイル(リュ・ジョンユル)は、暴力団員として裏街道まっしぐら。スタートラインは一緒だった二人が交差する瞬間、運命が動き出す。

3.jpg

 俳優たちが実に魅力的だ。10代から40代まで、髪型と衣装を変えて柔軟に演じ分けたチョ・インソン。ダンディーで渋い二枚目のチョン・ウソンは、怒りやダンス、歌と静と動を自在に使い分け、二面性ある腹黒い男を魅力的に演じている。欲に染まった男二人と対照的に、正義の道を突き進む女性検事のヒヨン(キム・ソジン)。達観した視点が物語のスパイスになっている。

 小刻みなテンポでリズムを作り、大きなうねりにつなげる監督のセンス。極上の韓国犯罪エンターテインメントだ。

(文・藤枝正稔)

「ザ・キング」(2017年、韓国)

監督:ハン・ジェリム
出演:チョ・インソン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、リュ・ジュンヨル、キム・ウィソン

2018年3月10日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://theking.jp/

作品写真:(C)2017 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & WOOJOO FILM All Rights Reserved.

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 00:09 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月09日

「コンフィデンシャル 共助」水と油の南北刑事、極秘捜査でタッグ ヒョンビン、体当たりアクション

1.jpg

 北朝鮮の特殊部隊に所属するエリート刑事イム・チョルリョン(ヒョンビン)は、米ドル偽造組織の摘発任務にあたっていた。チャ・ギソン隊長(キム・ジュヒョク)の待機命令を無視して突入したものの、謎の武装集団が現場を制圧。偽造用の銅板を盗み出していた──。

 「コンフィデンシャル 共助」は、北朝鮮のエリート刑事と韓国の庶民派刑事がタッグを組み、北朝鮮から盗まれた銅板を回収するため、史上初の極秘任務「南北共助捜査」に挑む姿を描いたアクション映画だ。主演は「王の涙 イ・サンの決断」(14)のヒョンビン、「ベテラン」(15)のユ・ヘジン。監督は「マイ・リトル・ヒーロー」(13)でデビューしたキム・ソンフン。

3.jpg

 平昌五輪への南北合同チーム参加が話題となる中、非常にタイムリーな題材といえる。北朝鮮から銅板が盗まれ、国際社会に知れれば一触即発の緊急事態に。極秘に結成された南北合同「刑事チーム」の任務を、韓国らしい骨太アクション、コミカル描写で娯楽作として見せる。

 分断された朝鮮半島。南北のカラーの違いがキャラクターに投影されている。ヒョンビン演じる北朝鮮の刑事は戦闘・運動能力に長け、超人的に優秀だ。逆にユ・ヘジン演じる韓国の刑事は、妻の尻に敷かれるダメ男。水と油の二人が任務を通じ、国を超えた絆を育む。

2.jpg

 実現不可能な「南北共助捜査」に、融和を望む監督の思いが込められているようだ。ヒョンビンの接近戦、カースタントに臨む体を張った演技は見事の一言。ユ・ヘジンの三枚目に徹した人間臭い演技が、緊張感あるドラマのガス抜きになっている。

 犯罪がらみのリアル描写から、ホームドラマ場面のコミカルな演出まで、バランスが取れた監督の手腕が光る。五輪で友好ムードがわく今、非常にタイムリーな作品だ。

(文・藤枝正稔)

「コンフィデンシャル 共助」(2017年、韓国)

監督:キム・ソンフン
出演:ヒョンビン、ユ・ヘジン、キム・ジュヒョク、ユナ、チャン・ヨンナム

2018年2月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kyojo-movie.jp/

作品写真:(C)2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 11:18 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月17日

「消された女」彼女はなぜ監禁され、精神異常者にされたのか 鋭く饒舌な社会派サスペンス

1.jpg

 大都会の真昼間、通りを一人歩いていたカン・スア(カン・イェウォン)は、突然誘拐され、精神病院に監禁された。待っていたのは強制的な薬物投与、無慈悲な暴力、非現実の世界だった。狂気の中、スアは病棟での出来事を手帳に記録し始める──。

 韓国で実際に起きた拉致監禁事件がモチーフの「消された女」。主演はカン・イェウォンとイ・サンユン。監督は「愛なんていらない」(06)、「廃家」(10)のイ・チョルハ。

2.jpg

 韓国には保護者2人、精神科医1人の同意があれば、本人の同意なしで強制的に「保護入院」させられる法律があるという。スアはこの法律を根拠に精神病院に監禁された。一方、干されかけのテレビプロデューサー、 ナ・ナムス(イ・サンユン)に1冊の手帳が届く。手帳の内容に驚き、送り主のスアに会いに行くナムス。スアが巻き込まれた事件の背景にある衝撃の事実、渦巻く闇を暴くために動き始める。

 再起をかけたテレビプロデューサーが、精神異常者にされた女性の記録・証言をもとに、法律の矛盾に真正面から切り込む。シャープで饒舌な社会派サスペンスだ。スアの手帳をきっかけに、ナムスのジャーナリスト魂が目覚め、事件を暴く原動力になる。

 分かりやすい設定、テレビの制作現場の裏側を軽妙に描いた導入部。観客の心をつかんだうえで、事件の真相に切り込んでいく。知的好奇心をくすぐる構成がうまい。並行して描かれる精神病院の悪行は、嫌悪感を誘う醜悪さ。暴力描写も徹底的で、法の矛盾と社会の闇を暴き出す。

3.jpg

 韓国映画でよく見られる実際の事件を下敷きにした作品。「殺人の追憶」(03)、「殺人の告白」(12)、「トガニ 幼き瞳の告白」(11)など秀作が多く作られてきた。コンパクトな91分の上映時間に、あっと驚くラストのどんでん返し。一気に見せる手腕が光る。

(文・藤枝正稔)

「消された女」(2017年、韓国)

監督:イ・チョルハ
出演:カン・イェウォン、イ・サンユン、チェ・ジノ

2018年1月20日(土)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.insane-movie.com/

作品写真:(C)2016 OAL, ALL RIGHTS RESERVED

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 21:24 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月19日

「LUCK-KEY ラッキー」韓国映画の名脇役ユ・ヘジン、主演コメディーで縦横無尽

l1.jpg

 韓国で2016年に大ヒットしたコメディー映画「LUCK-KEY ラッキー」(イ・ゲビョク監督)が公開中だ。原案は、堺雅人と香川照之の共演で話題を集めた日本映画「鍵泥棒のメソッド」(12、内田けんじ監督)。名バイプレーヤーのユ・ヘジンの起用が大当たりし、コメディー映画としては韓国映画史上最高の約697万人を動員した。重厚で骨太な映画が人気を集める中での異例の快進撃だった。

 眼光鋭い殺し屋の男が銭湯で石鹸を踏んづけて転倒し、記憶を失う。居合わせた貧乏役者は、脱衣所で男の財布に大金が入っているのを見ていた。そして男のロッカーの鍵を自分のものとすり替え、ふたりの人生が入れ替わる──。この「鍵泥棒のメソッド」の基本設定はそのまま生かし、大幅に脚色を加えて新たな世界を作り出している。

l2.jpg

 主演ユ・ヘジンの特徴的な風ぼうは、韓国映画ファンにはおなじみだろう。舞台俳優出身。スクリーンデビュー当時はチンピラややくざ者のイメージが強かったが、次第に重要な役どころを任されるようになり、「里長と郡守」(07)でチャ・スンウォンとのダブル主演に抜てきされる。

 「チョン・ウチ 時空道士」(09)では変化自在な犬、「ベテラン」(14)では財閥家に仕える従順で卑屈な社員、「極秘捜査」(15)では心優しい占い師、「共助」(16)では北朝鮮の刑事とチームを組む落ちこぼれ刑事と、演じる役柄は多種多様。物語にリアリティーを与える強力な存在でありながら、自らの役割をわきまえて決して主役を食うようなことはしない。いまや韓国映画になくてはならない俳優だ。

l3.jpg

 そんな彼のワンマンショーが堪能できるのが「LUCK-KEY ラッキー」。ユ・ヘジン演じる殺し屋ヒョンウクは記憶を失い、自分を駆け出しの役者と思い込む。銭湯で倒れた自分を助けてくれたレスキュー隊員リナに支えられ、地道な努力を重ねてエキストラからセリフのある役へと着実に進化していく。一方、貧乏役者ジェソンは殺し屋への電話を受けて仕事に足を突っ込んでしまう。そこに美貌の女性ウンジュが絡み、事態は予想外の展開を見せる。

 ユ・ヘジンはスクリーンを縦横無尽に駆け回り、コメディーにミステリー、アクションにロマンスと、ごった煮になりかねない要素をすっきり整理する。冷徹な殺し屋、駆け出しの役者、さらには劇中劇の登場人物といくつものキャラクターを演じ分け、カメレオン俳優の本領を存分に発揮。まるで彼自身の演技人生が投影されているかのような物語のクライマックスは、劇中劇のラストシーンとシンクロし、観客の心を震わせる。この映画が発信するのはまさしく「演技とは」、「人生とは」というメッセージなのだ。

 人気グループ・MBLAQ出身で、演技のキャリアを順調に重ねているイ・ジュンがジェソン役を好演。キュートなレスキュー隊員リナ役のチョ・ユニ、謎めいた美貌の女性ウンジュ役のイム・ジヨンが華を添える。

(文・芳賀恵)

「LUCK-KEY ラッキー」(2016年、韓国)

監督:イ・ゲビョク
出演:ユ・ヘジン、イ・ジュン、チョ・ユニ、イム・ジヨン

2017年8月19日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://klockworx.com/movie/m-405151/

作品写真:(C)2016 SHOWBOX AND YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED.
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 08:41 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする