2018年05月06日

全州国際映画祭2018 韓国インディペンデント作品を発信 現代人の閉塞感や不安、内面掘り下げる傾向

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 韓国の全州市で5月3日から「全州国際映画祭2018」が開かれている。長短編246本を上映し、日本映画は19本がラインアップ入り。開幕作にも日本映画「焼肉ドラゴン」(鄭義信監督)が選ばれ、6月22日の日本封切りを前にワールドプレミア上映された。「焼肉ドラゴン」は高度経済成長期の関西で生きる在日コリアン一家の喜怒哀楽を描いた作品。セレモニーには鄭監督のほか、父親役の韓国俳優キム・サンホらが登場した。

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開幕作品「焼肉ドラゴン」 「在日コリアンの歴史を知ってほしい」

 映画「焼肉ドラゴン」は、「月はどっちに出ている」の脚本などで知られる鄭監督が脚本・演出を手掛けた同名の演劇(2008年初演)を原作にしている。演劇は日本で各種の演劇賞を受賞したほか、ソウルでも2度にわたり日韓合同公演が行われて好評を博した。

 関西の集落にある小さな焼肉店が舞台。戦後、さまざまな事情で祖国に戻ることができず日本に定住することになった夫婦と三人の娘、一人息子の一家が織りなす物語だ。

 上映に先立つ記者会見で、鄭監督は「(初演から)10年たったいま、映画が韓国の映画祭の開幕作に選ばれたのは光栄。多くの韓国の人に見てもらいたい」と話した。日本では忘れられかけ、韓国ではほとんど知られていない在日コリアンの物語を記録しなければ、という使命感が強かったという。

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 焼肉店を経営する夫婦役は、韓国のテレビドラマや映画でおなじみのキム・サンホとイ・ジョンウンが務めた。二人とも日本語は話せないが、関西弁のせりふ回しを見事にこなしている。鄭監督は在日コリアンの心理について説明しただけで、日本語指導は専門家に任せたという。

 三女が結婚したいといって連れてきた男は日本人。猛反対する母に、父は結婚を許してやろうと言う。このあと父が三女と日本人男性に向かって、苦労の連続だった半生を静かに語る。ワンテイクで撮られたこの長いせりふが圧巻だ。監督は「サンホは日本語のせりふを完璧に覚え、さらにそこに感情をのせてきて、スタッフみんなが大感激した」と振り返った。技術的な問題もあってテイクを重ね、このシーンの撮影は8時間に及んだという。

 会見では、撮影現場で日韓のキャストやスタッフがスマートフォンの翻訳機を片手に交流し、家族のように過ごしたエピソードも紹介された。

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韓国の若手映画人、問題意識に変化

 全州映画祭は例年、社会風潮や権力を批判する先鋭的なドキュメンタリーが多く上映されるが、今年は劇映画中心のラインアップとなった。

 韓国インディペンデント映画のトレンドを垣間見られるのが、韓国コンペティション部門だ。今年は深刻な就職難と熾烈(しれつ)な競争にさらされる若者の閉塞感を描く作品や、事情をかかえた人間の内面を掘り下げた作品が目立った。直接的な社会批判ではなく、現代人の不安を多様な方法で描こうとする視点に、若手映画人の問題意識の変化を感じる。

 映画祭は12日まで、全州中心部で開催される。

(文・写真 芳賀恵)

写真:
1.レッドカーペットに登場した「焼肉ドラゴン」の鄭義信監督(右から2人目)
2.「焼肉ドラゴン」の(右から)イ・ジョンウン、イム・ヒチョル、キム・サンホ
3.開幕式で舞台あいさつする「焼肉ドラゴン」の(右から)イ・ジョンウン、キム・サンホ、鄭義信監督=全州国際映画祭事務局提供 
4.「焼肉ドラゴン」=同
5.メーン会場「映画の通り」

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2018年04月20日

「タクシー運転手 約束は海を越えて」韓国民主化運動弾圧・光州事件 名優ソン・ガンホが再現

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 1980年5月。韓国・ソウルのタクシー運転手マンソプ(ソン・ガンホ)は、ドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せ、一路光州を目指していた。「通行禁止時間前に着きたい」と言われ、何としてもタクシー代を受け取りたいマンソプは、機転を利かせて検問を切り抜け光州に入る──。

 韓国光州市で起きた民主化運動弾圧「光州事件」を、ドイツ人記者とタクシー運転手の視線で描く「タクシー運転手 約束は海を越えて」。出演は「殺人の記憶」(03)のソン・ガンホ、「戦場のピアニスト」(02)のトーマス・クレッチマン。監督は「義兄弟 SECRET REUNION」(10)、「高地戦」(11)のチャン・フン。記者の身分を隠したドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターと、タクシー運転手キム・サボク。2人の実在した人物をモデルに、改めて光州事件をひも解いていく。

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 幕開けでマンソプの人物像と背景が軽妙な語り口で描かれる。平和なソウル。11歳の娘を男手ひとつで育てるマンソプは、滞納した家賃も払えぬほど困窮している。ある日、大金がもらえる光州行きチャーター運転の話を聞き、後先を考えずに引き受けてしまう。

 大金目当てのマンソプは「光州行き」の意味を理解していなかった。片言の英語を駆使してドイツ人記者を乗せ、ソウルを出るが、進めば進むほど雲行きがあやしくなる。裏道を走ると軍の検問所が待ち構えている。得意の口八丁と強運で難所をかいくぐり、戒厳令下の光州へ到着。待っていたのは想像を絶する光景だった。

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 韓国の負の歴史である光州事件に、いわば部外者のタクシー運転手とドイツ人記者が巻き込まれ、目撃者となった経緯が明確に描かれる。通訳をかって出た大学生、地元光州のタクシー運転手たちの協力。胸を熱くするエピソードも盛り込まれる。

 光州事件を内から描くのではない。ソウルから来たマンソプと、東京から来たピーター、外から来た2人の視点で描いたことで、改めて全世界の観客に事件を検証してもらおうとしているようだ。

 デモ参加者を暴徒とみなし、軍が人民に向けて浴びせる銃弾。ピーターの潜入取材に気付いた公安警察の執拗な追跡。光州の惨状を明確に伝えぬ国内の実情。マンソプの心の葛藤やピーターとの友情。実話をベースに物語として脚色し、観客を光州事件の目撃者にしていく。映画的な醍醐味も合わせ持ち、韓国映画の底力を感じた。

(文・藤枝正稔)

「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2017年、韓国)

監督:チャン・フン
出演:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル

2018年4月21日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://klockworx-asia.com/taxi-driver/

作品写真:(C)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.
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2018年03月09日

「ザ・キング」チョ・インソン×チョン・ウソン、悪に染まった検事熱演 極上の韓国犯罪エンターテインメント 

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 けんか好きの貧しい青年パク・テス(チョ・インソン)は、権力で悪を制する検事に憧れ、猛勉強の末に夢を実現。新人検事として地方都市で多忙な日々を送るが、ソウル中央地検のエリート部長ガンシク(チョン・ウソン)と出会って人生が一変する。ガンシクは他人を踏み台に成り上がり、大統領選を利用して権力をつかんだ「1%の成功者」だった──。

 テス役に「露花店(サンファジョム)運命、その愛」(08)以来の映画出演となるチョ・インソン。ガンソクに「愛のタリオ」(14)、「アシュラ」(16)のチョン・ウソン。テスの先輩検事役にペ・ソンウ。監督・脚本は「観相師 かんそうし」(13)のハン・ジェリム。

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 1980年〜2010年の韓国現代史をバックに、テスの激動の半生を描く。監督の語り口は軽妙で饒舌。韓国事情にうとい日本の観客をうまく作品世界へいざなう。まず成功したテスの姿を見せる。さかのぼって貧しい少年が検事を目指す道のりを、スローモーションや静止画像、ナレーションを多用して紹介する。マーティン・スコセッシ監督「グッドフェローズ」(90)を思わせる。緑がかったスタイリッシュな映像は「セブン」(95)のデビッド・フィンチャー監督の影響か。

 歴史的事実の裏で、権力を握った検事たちが、裏工作で国民をあざむき、社会を動かしていく。史実と創作のさじ加減が絶妙でリアルだ。フィクションのはずが、見ているうちに真実味が増してくる。脚本と演出のなせる技だろう。

 ガンソクと出会い、悪事のうまみを知るテス。一方、テスの幼なじみのチェ・ドゥイル(リュ・ジョンユル)は、暴力団員として裏街道まっしぐら。スタートラインは一緒だった二人が交差する瞬間、運命が動き出す。

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 俳優たちが実に魅力的だ。10代から40代まで、髪型と衣装を変えて柔軟に演じ分けたチョ・インソン。ダンディーで渋い二枚目のチョン・ウソンは、怒りやダンス、歌と静と動を自在に使い分け、二面性ある腹黒い男を魅力的に演じている。欲に染まった男二人と対照的に、正義の道を突き進む女性検事のヒヨン(キム・ソジン)。達観した視点が物語のスパイスになっている。

 小刻みなテンポでリズムを作り、大きなうねりにつなげる監督のセンス。極上の韓国犯罪エンターテインメントだ。

(文・藤枝正稔)

「ザ・キング」(2017年、韓国)

監督:ハン・ジェリム
出演:チョ・インソン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、リュ・ジュンヨル、キム・ウィソン

2018年3月10日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://theking.jp/

作品写真:(C)2017 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & WOOJOO FILM All Rights Reserved.

タグ:レビュー
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2018年02月09日

「コンフィデンシャル 共助」水と油の南北刑事、極秘捜査でタッグ ヒョンビン、体当たりアクション

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 北朝鮮の特殊部隊に所属するエリート刑事イム・チョルリョン(ヒョンビン)は、米ドル偽造組織の摘発任務にあたっていた。チャ・ギソン隊長(キム・ジュヒョク)の待機命令を無視して突入したものの、謎の武装集団が現場を制圧。偽造用の銅板を盗み出していた──。

 「コンフィデンシャル 共助」は、北朝鮮のエリート刑事と韓国の庶民派刑事がタッグを組み、北朝鮮から盗まれた銅板を回収するため、史上初の極秘任務「南北共助捜査」に挑む姿を描いたアクション映画だ。主演は「王の涙 イ・サンの決断」(14)のヒョンビン、「ベテラン」(15)のユ・ヘジン。監督は「マイ・リトル・ヒーロー」(13)でデビューしたキム・ソンフン。

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 平昌五輪への南北合同チーム参加が話題となる中、非常にタイムリーな題材といえる。北朝鮮から銅板が盗まれ、国際社会に知れれば一触即発の緊急事態に。極秘に結成された南北合同「刑事チーム」の任務を、韓国らしい骨太アクション、コミカル描写で娯楽作として見せる。

 分断された朝鮮半島。南北のカラーの違いがキャラクターに投影されている。ヒョンビン演じる北朝鮮の刑事は戦闘・運動能力に長け、超人的に優秀だ。逆にユ・ヘジン演じる韓国の刑事は、妻の尻に敷かれるダメ男。水と油の二人が任務を通じ、国を超えた絆を育む。

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 実現不可能な「南北共助捜査」に、融和を望む監督の思いが込められているようだ。ヒョンビンの接近戦、カースタントに臨む体を張った演技は見事の一言。ユ・ヘジンの三枚目に徹した人間臭い演技が、緊張感あるドラマのガス抜きになっている。

 犯罪がらみのリアル描写から、ホームドラマ場面のコミカルな演出まで、バランスが取れた監督の手腕が光る。五輪で友好ムードがわく今、非常にタイムリーな作品だ。

(文・藤枝正稔)

「コンフィデンシャル 共助」(2017年、韓国)

監督:キム・ソンフン
出演:ヒョンビン、ユ・ヘジン、キム・ジュヒョク、ユナ、チャン・ヨンナム

2018年2月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kyojo-movie.jp/

作品写真:(C)2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

タグ:レビュー
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2018年01月17日

「消された女」彼女はなぜ監禁され、精神異常者にされたのか 鋭く饒舌な社会派サスペンス

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 大都会の真昼間、通りを一人歩いていたカン・スア(カン・イェウォン)は、突然誘拐され、精神病院に監禁された。待っていたのは強制的な薬物投与、無慈悲な暴力、非現実の世界だった。狂気の中、スアは病棟での出来事を手帳に記録し始める──。

 韓国で実際に起きた拉致監禁事件がモチーフの「消された女」。主演はカン・イェウォンとイ・サンユン。監督は「愛なんていらない」(06)、「廃家」(10)のイ・チョルハ。

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 韓国には保護者2人、精神科医1人の同意があれば、本人の同意なしで強制的に「保護入院」させられる法律があるという。スアはこの法律を根拠に精神病院に監禁された。一方、干されかけのテレビプロデューサー、 ナ・ナムス(イ・サンユン)に1冊の手帳が届く。手帳の内容に驚き、送り主のスアに会いに行くナムス。スアが巻き込まれた事件の背景にある衝撃の事実、渦巻く闇を暴くために動き始める。

 再起をかけたテレビプロデューサーが、精神異常者にされた女性の記録・証言をもとに、法律の矛盾に真正面から切り込む。シャープで饒舌な社会派サスペンスだ。スアの手帳をきっかけに、ナムスのジャーナリスト魂が目覚め、事件を暴く原動力になる。

 分かりやすい設定、テレビの制作現場の裏側を軽妙に描いた導入部。観客の心をつかんだうえで、事件の真相に切り込んでいく。知的好奇心をくすぐる構成がうまい。並行して描かれる精神病院の悪行は、嫌悪感を誘う醜悪さ。暴力描写も徹底的で、法の矛盾と社会の闇を暴き出す。

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 韓国映画でよく見られる実際の事件を下敷きにした作品。「殺人の追憶」(03)、「殺人の告白」(12)、「トガニ 幼き瞳の告白」(11)など秀作が多く作られてきた。コンパクトな91分の上映時間に、あっと驚くラストのどんでん返し。一気に見せる手腕が光る。

(文・藤枝正稔)

「消された女」(2017年、韓国)

監督:イ・チョルハ
出演:カン・イェウォン、イ・サンユン、チェ・ジノ

2018年1月20日(土)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.insane-movie.com/

作品写真:(C)2016 OAL, ALL RIGHTS RESERVED

タグ:レビュー
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