2014年05月16日

「黒四角」 日中つなぐ永遠の恋 70年の時空越え 奥原浩志監督、初の合作作品

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 空飛ぶ黒い物体。忽然と現れる裸の男。奥原浩志監督の新作「黒四角」は、のっけから荒唐無稽な展開で、見るものをギョッとさせる。リアルな日常を淡々と描いた「タイムレス・メロディ」(99)や「青い車」(04)など、従来のスタイルからは考えられない監督の新境地である。

 北京郊外の芸術家村。画家のチャオピンは、ある画廊で一点の絵画に目を奪われる。全面真っ黒に塗られた、「黒四角」というタイトルの抽象画。翌日、チャオピンは、その絵がそのまま飛び出したかのような、黒い四角の板が空を飛んで行くのを目撃し、後を追う。黒い板は地面に着陸して屹(きつ)立。しばらくすると、そこから全裸の男が現われる――。

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 シュールな映像に思わず身構える。いったいこれから何が起こるのか? だが直後の展開に波乱はない。チャオピンは裸の男に衣服を与え、自宅へ連れ帰る。裸の男もチャオピンの好意を受け入れ、“こちら”の世界にすんなり溶け込んでしまう。

 チャオピンは男を「黒四角」と名付ける。黒四角は日本人で、過去の記憶をなくしていた。そんな黒四角に、チャオピンはなぜか懐かしげな感情を抱く。やがて黒四角はチャオピンの妹リーホワと恋愛関係になる。

 急展開はここから。ある日、黒四角はリーホワの前から突然姿を消してしまう。黒四角にしか見えない一人の日本兵に誘われるように、黒い板を通って“あちら”の世界へと戻ってしまうのだ。

 そこは70年前、日中戦争の時代。黒四角は日本軍の衛生兵として中国人の女を治療する。リーホワはこの女の生まれ変わり、チャオピンは女の兄の生まれ変わりなのだろう。つまり、3人は戦時中に出会っていた。兄妹が「黒四角」に懐かしさを覚えたのは、そのためだ。黒四角とリーホワは前世でも愛し合っていた。

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 70年の時を超える恋の物語。“あちら”と“こちら”を行き来しながら抒情を醸し出す手法は、ロマン主義的でもある。「聊斎志異」など中国怪異譚のムードも漂う。しかし甘いだけ、妖しいだけの物語ではない。中盤からは戦争を背景に死の影が濃厚となり、前半のイメージにも影響してくる。監督は仏教的な輪廻の世界を描こうとしたのかもしれない。

 監督初の日中合作映画。日中戦争というデリケートなテーマを扱っているため、中国での公開が未定なのは残念だ。製作過程でも困難に見舞われたようだが、完成された作品を見る限り、結果的に日中のコラボレーションは大成功ではないか。「黒四角」を演じた中泉英雄が、中国人俳優たちと見事なアンサンブルを見せている。

(文・沢宮亘理)

「黒四角」(2012年、日本・中国)

監督:奥原浩志
出演:中泉英雄、ダン・ホン、チェン・シーシュウ、鈴木美妃

2014年5月17日(土)、新宿K’s cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.u-picc.com/black_square/


作品写真:(C) 2012 Black Square Film Gootime Cultural Communication Co., Ltd
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2014年04月03日

「罪の手ざわり」ジャ・ジャンクー監督来日会見 “四つの事件”で切る中国 「映画は人の心つなぐ」

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 2013年の第66回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した中国映画「罪の手ざわり」のジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督と出演女優のチャオ・タオ(趙濤)が4月2日、東京都内で記者会見した。中国で実際に起きた四つの事件をモチーフに、激変する社会のきしみをあぶり出す作品。ジャ監督の来日は「四川のうた」(08)以来5年ぶり。「映画は人と人の心をつなぐことができると思う」と語った。

 中国の山西省、重慶市、湖北省、広東省で起きた殺人、強盗、自殺などの事件をもとに、四つのエピソードでつないで描く。登場するのはいずれも経済成長と社会変化の波にもまれ、もがきながら生きる人々。ジャ監督は「中国では経済が急速に成長したため、出稼ぎなどで人が絶えず動きながら生きている。移動が作品の大きな要素だ。初めて手持ちカメラを使い、漂泊感を出した。(作品で語られる)四つの個人の悲劇だが、観る人は自分のこととして受け止められるのではないか」と話した。

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 すべてのエピソードに共通するのが「暴力」の存在だ。ジャ監督は「中国の映画界では長年、暴力を語ることが許されなかった。だから語ってみたかった」と動機を説明。「貧富の差、精神的な貧困、孤独、人間の尊厳などに触れつつ、撮影をしながら暴力を理解していった。暴力はどこから来るのか。事件に対する法的な結論はさておき、別の方法でとらえたかった。人としての本質が表れるものだと感じた」と述べた。

 さらに、カンヌ映画祭での受賞後、世界40カ国以上で配給が決まったことに対し、インターネットの影響力の大きさを指摘。「世の中は変わり続けている。人と人のつながり方もネットの出現で変わった。私も(中国の短文投稿サイト)『微博(ウェイボー)』の力を利用した。映画は人々が共通の問題を意識できる手段。人と人の心をつなぐことができると思う」と話した。

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 また、中国の若い世代について「地方からの出稼ぎ者の場合、故郷を出る漂泊感がある。さらに都市では単純な労働力とみなされ、上を目指そうとしても抑えられる。二重の漂泊感で帰属意識を得られない。それが目に見えない、暴力的な何かを生むのではないか」と分析していた。

(文・写真 遠海安)

「罪の手ざわり」(2013年、中国)

監督:ジャ・ジャンクー(賈樟柯)
出演:チャオ・タオ(趙濤)、チァン・ウー(姜武)、ワン・バオチャン(王宝強)、ルオ・ランシャン(羅藍山)

2014年5月31日(土)、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.bitters.co.jp/tumi/

作品写真:(C)2013 BANDAI VISUAL, BITTERS END, OFFICE KITANO

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2014年02月21日

「最後の晩餐」 中韓合作で過去最高ヒット エディ・ポン&バイ・バイホー、約束と再会の恋

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 中韓合作映画として過去最高のヒットを記録した映画「最後の晩餐」。台湾の人気若手俳優エディ・ポン(彭于晏)、中国の新進実力派女優バイ・バイホー(白百何)が主演。韓国映画「ラスト・プレゼント」(01)のオ・ギファン監督がメガホンを取った。中国を舞台にした甘く切ないラブストーリーだ。

 北京の高校。料理上手のリー・シン(エディ・ポン)は、思いを寄せる同級生・チャオチャオ(バイ・バイホー)のため、毎日弁当を手作りしていた。シェフを目指すリー・シンと、食器デザイナーを目指すチャオチャオ。やがて二人は付き合い始め、リー・シンがプロポーズ。しかし、チャオチャオは予想だにしない提案をする。

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 「お互いに夢をかなえていない今、一緒になるのはいや。5年後に再会し、まだ独身同士なら結婚しましょう」。呆然とするリー・シンだったが、やむなく一方的な申し出を受け入れる。チャオチャオはリー・シンを残し、一人上海へ旅立った。

 5年後。チャオチャオは上海で食器デザイナーとして独立し、北京で個展を開くまでになっていた。リー・シンも夢を実現。イケメン料理人として高級レストランで腕をふるっている。メディアにも引っ張りだこだ。5年前の「約束」を忘れていないチャオチャオに、リー・シンから電話が入った。

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 2度めのプロポーズを期待するチャオチャオだったが、リー・シンの言葉は残酷だった。「婚約者と近く式を挙げるんだ」。混乱したままリー・シンに再会したチャオチャオ。初めて会う美しい婚約者に心が張り裂けそう。一方のリー・シンには、口に出さない秘密があった──。

 リー・シン役のエディ・ポンは、台湾青春映画「ジャンプ!アシン」(11)、香港アクション映画「激戦」(13)と演技の幅を広げている。チャオチャオ役のバイ・バイホーは11年、中国で爆発的にヒットした恋愛映画「失恋33天 Love is not blind」で人気急上昇。中華圏の旬な若手二人を、オ・ギファン監督が繊細な演出で生かしている。

 別離契約、5年後の再会、心尽くしの料理、夢と恋愛と結婚。レトロな雰囲気を残す北京と、急速に発展する上海。中国の変化を象徴するさまざまな要素と、韓国メロドラマの王道的展開が自然に融合した。しみじみとした余韻、監督の優しい視線が味わい深い。

(文・遠海安)

「最後の晩餐」(2013年、中・韓)

監督:オ・ギファン
出演:バイ・バイホー(白百河)、エディ・ポン(彭于晏)、ペース・ウー(呉佩慈)、ジアン・ジンフー
(蒋勁夫)

2014年3月1日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://bansan-movie.com/
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2014年01月12日

「グォさんの仮装大賞」 老人ホームを抜け出して 中国の名優ずらり 温か人間ドラマ

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 中国映画「グォさんの仮装大賞」が1月11日、公開された。老人ホームのお年寄りたちが、人気テレビ番組への出演を目指し、こっそりホームを抜け出す物語。「こころの湯」(99)などのチャン・ヤン(張揚)監督最新作だ。

 出演は「古井戸」(87)の名優ウー・ティエンミン(呉天明)、「孔子の教え」(09)のシュイ・ホァンシャン(許還山)ら。舞台は中国北西部。妻を亡くしたグォさん(シュイ)は、チョウさん(ウー)を頼って老人ホームへ入る。気力を失うグォさんを励ます入居者たち。ある日、チョウさんがテレビの人気番組「仮装大賞に出よう」と提案。一行はおんぼろバスに乗り、こっそりホームを抜け出す――。

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 ホームの入居仲間には「初恋のきた道」(99)の女優リー・ビン(李濱)、「活きる」(94)のニウ・ベン(牛犇)、中国パントマイム界の先駆者ワン・ダーシュン(王徳順)ら、ベテラン俳優がずらり。笑って笑って、ほろりとさせる人間ドラマに深みを与えている。

 「胡同のひまわり」(05)では親子の葛藤を描いたチャン監督。「グォさんの仮装大賞」では、一人っ子政策に伴う中国の高齢化に焦点を当てた。

 チャン監督は製作の動機を「両親との関係が良好でなかった私は、家族、特に父と子の関係を問う作品を作ってきた。彼らが年老いた今、身近な高齢者である両親が何を考えてきたか、理解したいと強く思うようになった」と説明。中国の高齢者を取り巻く環境について「受け皿の老人ホームは十分役割を果たせていない。お年寄りの孤独死も起きている。彼らの思いに触れ、高齢者問題にスポットを当てたかった」と話している。

(文・遠海安)

「グォさんの仮装大賞」(2012年、中国)

監督:チャン・ヤン(張揚)
出演:シュイ・ホァンシャン(許還山)、ウー・ティエンミン(呉天明)、リー・ビン(李濱)、ワン・ダーシュン(王徳順)

2014年1月11日(土)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://guosan.jp/


作品写真:(c)2012 Desen International Media Co., Ltd
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2014年01月08日

「ドラッグ・ウォー 毒戦」 ジョニー・トー、初の中国アクション大作 大規模麻薬取引の裏描く

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 中国大規模麻薬取引の闇を描く「ドラッグ・ウォー 毒戦」。“香港ノワール”の顔、ジョニー・トー(杜[王其]峰)監督が、中国本土で初めて撮った犯罪アクション大作である。

 中国・津海。コカイン製造工場で爆発事故が起き、香港人のテンミン(ルイス・クー=古天楽)が車で逃亡。途中で衝突事故を起こし、病院に運ばれる。公安警察の麻薬捜査官・ジャン(スン・ホンレイ=孫紅雷)は、テンミンが麻薬取引にかかわっていると判断。テンミンを利用し、犯罪組織に大規模な架空取引を仕掛ける。

 主な舞台は原料供給地の粵江と、完成した麻薬の積み出し港となる津海。2カ所の警察は合同捜査チームを組み、潜入捜査で組織壊滅を試みる。ジャンは捜査の過程で、組織が韓国、日本の裏社会と連携していると知る。さらに、テンミンの部下の麻薬工場に踏み込んだ際、警察側は予想外の反撃を受け、多くの死傷者が出る。いぶかしんだジャンが追求すると、テンミンは「本当の黒幕は“香港の七人衆”だ」と話し始める──。

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 「ザ・ミッション 非情の掟」(99)、「エレクション」(05)、「エグザイル 絆」(06)など、香港を舞台に数々の傑作犯罪映画を生んだトー監督。今回は常連俳優ルイス・クーに加え、中国を代表する演技派の1人、スン・ホンレイを起用した。

 粵江から津海へ。いずれも架空の都市だが、粵江は中国南部の珠海、津海は北東部の天津を思わせる。文字通り中国を縦断する大規模摘発作戦だ。しかし、舞台は広がったものの、監督の持ち味が発揮されたとは言いがたい。超高層ビルが林立する香港は「縦」の空間。中国大陸はどこまでも広い「横」だ。湿った香港に乾いた大陸。狭い路地や人ごみでは切れ味鋭い監督の演出が、大陸では空を切るようだ。香港と中国の違いを改めて感じさせられる。

 中国当局の検閲も少なからぬ影響を与えた。監督は語っている。「香港とは異なる手法をとらざるを得なかった。公安は言う。『あまり人を死なせるな。銃を撃つな』と。要求に応えているうち、私の考えていたものとは全然違う作品になってしまった。“大陸で撮ったジョニー・トー映画”だと思ってほしい。申し訳ない」

 とはいえ、警察と組織の息詰まる取引、銃撃戦など見ごたえ十分。スン・ホンレイの演技にも凄味と味わいがある。名監督が迷いつつ撮った、珍品といえるかもしれない。

(文・遠海安)

「ドラッグ・ウォー 毒戦」(2013年、香港・中国)

監督:ジョニー・トー
出演:ルイス・クー、スン・ホンレイ、クリスタル・ホアン、ウォレス・チョン、ラム・シュー

2014年1月11日(土)、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.alcine-terran.com/drugwar/

作品写真:(C)2012 Beijing Hairun Pictures Co., Ltd. All Rights Reserved.

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