2017年01月11日

「ブラインド・マッサージ」触覚、嗅覚を駆使した濃密な“ふれあい” 盲人のリアルな世界に迫る

bm_main.jpg

 盲人たちの世界をリアルに描いた中国映画「ブラインド・マッサージ」。生々しい作品だ。彼らのコミュニケーションのありようである。欠落した視覚を補うため、聴覚だけでなく、触覚や嗅覚も駆使した濃密なコミュニケーション。そのありようが生々しいのだ。

 健常者であれば相手との間に一定の距離を取るのが普通。だが、彼らは遠慮なく密着して、触り合い、かぎ合う。“ふれあい”という言葉が比喩ではなく、本当に肌を触れ合わせる。過剰なまでの接触ぶりは何とも生々しい。エロティックと言ってもいい。

bm_sub1.jpg

 舞台は南京のマッサージ院。マッサージ師の資格を持った盲人たちが、住み込みで働いている。ある日、院長のシャーを頼って、同級生のワンと恋人のコンが転がり込んでくる。若いシャオマーは、あだっぽいコンにのぼせ上がるが、相手にされず意気消沈。そんなシャオマーを、先輩マッサージ師が行きつけの風俗店に誘う。シャオマーは初めて体を重ねたマンにのめり込み、店の常連となる。

 風俗嬢であるマンに熱を上げるシャオマー。その純情にほだされるマン。盲人と風俗嬢。ともに日陰の存在だ。そんな2人が強くひかれ合う。彼らの恋ははたして成就するのか――。

bm_sub2.jpg

 美人でありながら盲目ゆえに、その価値が理解できないドゥ・ホン。結婚に憧れ何度も見合いをするが、ことごとく破談となる院長のシャー。サラ金に手を出した弟の尻ぬぐいに奔走するワン。それぞれが悩みや苦しみをかかえながらも、希望を失わず人生を生きている。盲目という現実を恨むことも、他人に甘えることもなく、自らの運命を受け入れ、懸命に生きている。

 描かれるのは、恋、セックス、家族、夫婦、キャリア。同情も啓蒙もなく、ただただ、盲人のリアルな世界に肉薄したい。そんな監督の情熱が全編を貫く力作だ。

(文・沢宮亘理)

「ブラインド・マッサージ」(2014年、中国・フランス)

監督:ロウ・イエ
出演:ホアン・シュエン、チン・ハオ、グオ・シャオトン、メイ・ティン

2017年1月14日(土)、アップリンク渋谷、新宿K's cinemaほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/blind/
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 23:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月09日

夏の香港・中国エンターテイメント映画まつり 今人気の映画そろい踏み 質と勢い知る貴重な特集上映

モンスター・ハント.jpg

「モンスター・ハント」(15)中国

 その昔、妖怪と人間は共存していた。しかし人間が天下を独占すると妖怪は山奥に追いやられ、やがて妖怪の世界は内乱状態に。新王は先王一族を一掃。王子は妊娠中の王妃、忠臣たちと命からがら人間界へと逃げ、人里離れた小さな村の村長テンイン(ジン・ボーラン)に出会う。追いつめられた王妃は、テンインに自分の子供を託す。なんとテンインは男でありながら妖怪の王子をお腹に宿してしまう──。

 中国で過去最高の興行収入を記録した「モンスター・ハント」。監督は「シュレック3」(07)でクリス・ミラーと共同監督を務めたラマン・ホイ。美術総監督はクエンティン・タランティーノ監督「キル・ビルvol.1」(03)、「ヘイトフル・エイト」(15)の種田陽平が務めている。

 人間と妖怪の間に生まれる友情と絆を描く。最新の3DCGとワイヤーアクション、カンフーをミックスした娯楽作だ。核となる妖怪のキャラクターデザインが「かわいい系CGアニメ風」過ぎて現実感に乏しいが、逆にそこが中国の観客に受けたのかもしれない。子供から大人まで楽しめる作品だ。

作品写真:(C)2015 EDKO FILMS LIMITED, DREAM SKY PICTURES CO., LTD., SHENZHEN TENCENT VIDEO CULTURE COMMUNICATION LTD., HEYI PICTURES CO., LIMITED, BEIJING UNION PICTURES CO., LTD. ,ZHEJIANG STAR RIVER ARTISTE MANAGEMENT COMPANY LIMITED, SAN-LE FILMS LIMITED, ZHEJIANG FILMS & TV (GROUP) CO., LTD., EDKO (BEIJING) FILMS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

西遊記 孫悟空 vs 白骨夫人.jpg

 「西遊記 孫悟空VS白骨夫人」(16)中国・香港合作

 孫悟空(アーロン・クォック)が五行山に閉じ込められて500年後。経典を得るため天竺へ向かう三蔵法師(ウィリアム・フォン)は道中虎に襲われる。危機を救うため封印を解かれた孫悟空は猪八戒、沙悟浄らと三蔵法師のお供をすることに。三蔵法師は恐ろしい妖怪・白骨夫人(コン・リー)に命を狙われていた──。

 「西遊記 孫悟空VS白骨夫人」は、同じ「西遊記」を題材にした「モンキーマジック 孫悟空誕生」(15)に続くシリーズ第2弾だ。前作が孫悟空が五行山に閉じ込められるまでを描いたのに対し、今回は孫悟空が三蔵法師のお供をして猪八戒、沙悟浄と天竺を目指す。

 監督は前作に引き続きソイ・チェン。アクション監督はジャッキー・チェン、ユン・ピョウらと「七小福」として活躍し、日本では「燃えよデブゴン」(78)で人気を得たサモ・ハンが務める。音楽には「ヘルレイザー」(87)などハリウッドでホラー、ファンタジー映画を得意とする大御所クリストファー・ヤングが担当している。

 日本人にはテレビドラマ「西遊記」(78〜80)と共通する親しみやすい物語。ハリウッドのスタッフを招いたVFX満載、迫力アクションの連続で楽しい。孫悟空役のアーロン・クォックの猿らしいコミカルな仕草、ダイナミックなアクション。コン・リーが冷酷非情な悪役で凄味をみせる。観音菩薩で日本でも人気ある女優ケリー・チャンまで登場。ビジュアル重視、豪華絢爛の21世紀版「西遊記」として楽しめる。

作品写真:(C)2016 FILMKO FILM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

ドラゴン・クロニクル.jpg

 「ドラゴン・クロニクル 妖魔塔の伝説」(15)中国
 
 1974年、崑崙山の洞窟。古代の巨獣とみられる未確認生物の骨が発見され、大規模な発掘調査が始まった。調査隊として洞窟の奥に進んだフー・バーイ(マーク・チャオ)とヤン・ピン(ヤオ・チェン)らは、1万年前に地球を支配しようとした異星人が封印されている宮殿“妖魔塔”に到達。しかし、突如現れた火炎コウモリの群れに襲われ、フー・バーイ以外全員が消息不明になる。

 SFミステリーとモンスター・パニックを融合させた「ドラゴン・クロニクル 妖魔塔の伝説」は、「ミッシング・ガン」(02)でデビューを果たしたルー・チューアン監督が初めて手掛けた娯楽作だ。脚本には米テレビドラマ「プリズン・ブレイク」「LOST」の演出で知られるボビー・ロス、その息子で俳優兼脚本家のニック・ロス。VFXアドバイザーに「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのジョン・シールズ、「シン・シティ 復讐の女神」(14)のマイケル・グローブが参加している。

 巨大未確認生物発掘の歴史をひも解く記録フィルムをつなげたタイトルで幕開け。「セブン」(95)のタイトルデザインを手がけたカイル・クーパー風のミステリアスなもので、断片的な記録フィルムを使い、観客のイマジネーションを刺激し、つかみとしてうまい。作品は大きく分けて3つのパターンで構成されている。

 フー・バーイが未確認生物調査隊として参加する冒頭は火炎コウモリ、巨大生物、妖魔塔が登場する冒険アクションミステリー風。調査から唯一生還したフー・バーイの現在を描いた中盤は一転、妖魔塔の謎を検証する濃厚なミステリードラマに変貌。途中コミカルな描写をはさみつつ、巨大生物が登場するシーンは、元祖「キングコング」をリスペクトした。後半は行方不明となったヤン・ピンとうり二つの女性シャーリーと共に、調査隊に参加したフー・バーイが魔族が放った巨大モンスターと壮絶な死闘を展開。モンスターパニックへと変貌する。

 冒険活劇、ミステリードラマ、VFXで作られた俊敏な巨大モンスターと調査隊の戦い。一つで何度もおいしい。サービス精神旺盛で、観客を楽しませる作家の心意気。ハリウッド映画を見慣れた観客も納得のCGモンスターが大暴れするクライマックス。ひねりを利かせた意表突いたオチまで見どころ満載だ。

 3本通して見ると、現在の中国、香港エンタメ映画のクオリティーと勢いを知れる貴重な特集上映だ。

(文・藤枝正稔)

作品写真:(C)2016 CHINA FILM CO., LTD. DREAM AUTHOR PICTURES (BEIJING) CO., LTD. LE VISION PICTURES (BEIJING) CO. LTD.

2016年8月6日(土)、シネマート新宿ほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://asian-selection-movie.com/

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 09:09 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月01日

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016特別招待作品「I PHONE YOU」重慶からベルリンへ 中国娘の恋の結末は?

ip_main.jpg

 中国・重慶で花束の宅配サービスをしている若い女性、リン。ベルリンからきた中国人ビジネスマンと一夜をともにし、熱を上げてしまう。帰国した後も、彼から贈られたiPhoneで連絡を取り合っていたが、もう一度会いたい気持ちを抑えられず、一人、ベルリンへと旅立つ。

 空港で出迎えたのは、彼の部下でマルコというドイツ人の男。とりあえず手配されたホテルで一晩過ごすと、翌日また男が現れる。彼女の世話をするよう命じられているのだろう。しかたなく行動を共にするが、いつまでたっても、彼には会わせてもらえない。「仕事で忙しいから」と言い訳するが、本当にそうなのか。業を煮やしたリンは、自力で彼に会おうと、ベルリンの街にさまよい出るが――。

ip_sub1.jpg

 言葉の通じない大都会で、恋する人を探し求めるヒロインの奮闘をコミカルに描く「I PHONE YOU」。主人公のリンに扮するのは、「レイン・オブ・アサシン」(2010)などに出演した中国の人気女優ジャン・イーエン。チンピラに絡まれたり、警察に捕まったり、数々のピンチに陥りながらも、決してくじけず、目標に向かって邁進する行動派のヒロインを、生き生きと演じている。

 そんなリンのボディガードとして付き従うマルコ役には、「アイガー北壁」(2008)のフロリアン・ルーカス。気の強いリンに手を焼きながらも、徐々に彼女を好きになっていく中年男を、クールに演じている。この2人の関係が、エンディングに向かってどう進展していくかが大きな見どころだ。

 メガホンを取ったのは、ドイツ在住の中国人女性監督タン・ダン。これまで多くのドキュメンタリー映画を撮ってきた手腕が、ベルリンの街のロケ撮影に発揮されている。大通りから小さな路地まで、さまざまなエリア、スポットを紹介しながら、その中に描き込まれる移民たちの姿。ドイツの現状が鮮やかに写し取られている。

 中国の映画プロデューサー、ワン・ユーが、タン・ダン監督と組んだ、初の中独合作映画。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016では特別招待作品として上映された。ぜひとも劇場公開してほしい秀作である。

(文・沢宮亘理)

「I PHONE YOU 」(2011年、中国・ドイツ)

監督:タン・ダン
出演:ジャン・イーエン、フロリアン・ルーカス、ヒー・ビン、デイヴィッド・ウー、ワン・ハイゼン

作品写真:(C)Ray International (Beijing) LTD.

posted by 映画の森 at 07:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月22日

「ラサへの歩き方 祈りの2400km」チベット五体投地の巡礼の旅 「他者のため」大地にひれ伏す人々

rasa_main.png

 チベット東端の村から西端の聖なる山へ。約2400キロを1年かけ、村人11人が仏教の礼拝方法「五体投地」で歩く。中国映画「ラサへの歩き方 祈りの2400km」は、チャン・ヤン(張楊)監督が現地に赴き、チベットの人々の暮らし、生と死、信仰に密着。村人を俳優として起用して忠実に再現した。

 中国チベット自治区東端のマルカム県プラ村。兄を亡くした70歳のヤンペルは「死ぬ前にラサへ行きたい」と願う。甥(おい)のニマはその思いを受け、家族に「巡礼に出る」と宣言。村の3家族11人で西へ向かうことになった。トラクターにテントや食料を積んでニマが運転。一行は手に板を付け、皮の前掛けをして、五体投地で進んでいく。

rasa_sub2.png

 五体投地は仏教で最も丁寧な礼拝の方法だ。まず合掌。両手、両ひざ、額を大地に投げ出してうつぶせになり、立ち上がる。この動作を繰り返して進む。ずるをしてはいけない。なにより「他者のために」祈らなければならない。

 巡礼の先々でさまざまな人に出会う。トラクターのオイルタンクのネジが外れた時は、近くの村の元村長が泊めてくれた。一行はお礼に畑を耕す。すれ違った巡礼夫婦は「ロバも家族同然。ラサに着いたらロバに福があるよう祈る」と言う。さらに病人を乗せた車に衝突され、トラクターが壊れてしまうが、ニマたちは相手を責めずに「早く病院へ」と促す。

 落石にあっても、道が冠水しても、五体投地の歩みは止まらない。一行の中の若い女性ツェリンは、途中で産気づいて出産。生まれた子供を抱きかかえ、再び旅に合流する──。

rasa_sub1.png

 映像はとても自然にみえる。まるでドキュメンタリーのようだが、綿密に計算されたフィクションなのだ。チャン監督はチベットの村に3カ月間住み込み、まずは村の日々の暮らしを映像に記録した。村人の中から事前に想定した年齢、性別の人たちを選び、一緒に巡礼に出発。ラサまでの約1200キロはすべて収録した。

 歩きながら撮り、撮りながら考える。チャン監督は振り返る。「私は思考の幅を広げ、その時々につかんだものを脚本家として映画の物語にはめ込んだ。次に脚本家から抜け出し、監督の手法で表現した。撮影の過程で意識的に取捨選択、再構築する必要があった」。ドキュメンタリーとフィクションの境界を行く映像が、臨場感とリアリティーを高めた。

 監督が現地に「入り込んだ」感触は、実際の手触り、息づかいとして伝わってくる。日本には断片的にしか知らされないチベットの人々の日常、宗教観。「祈りはまず他者のため」であり、道端の生き物や自然にさりげなく心を配る彼ら。全身全霊で大地にひれ伏す姿に、思わず利己的な我が身を振り返る。

 約2400キロの旅を経て、たどり着いた聖なるカイラス山。白く雪をかぶった山肌を見ながら、一行は祈ることをやめない。巡礼に到達点などないのだ。それは人生そのものだから。

(文・遠海安)

「ラサへの歩き方 祈りの2400km」(2015年、中国)

監督:チャン・ヤン(張楊)
出演:チベット巡礼の旅をする11人の村人たち

2016年7月23日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.moviola.jp/lhasa/

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 11:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月22日

「山河ノスタルジア」ジャ・ジャンクー監督、チャオ・タオ会見「中国の急激な発展に翻弄される人々描いた」

「山河ノスタルジア」会見.jpg

 1999年、2014年、2025年という3つの時代を背景に、一人の女性の半生を描いた中国映画「山河ノスタルジア」。ジャ・ジャンクーと主演女優のチャオ・タオがこのほど来日し、東京都内で記者会見した。ジャ監督は「中国社会の急激な発展に翻弄される人々の姿を描いた」と語った。

社会の激変に翻弄される人々

 暴力的な表現が目立った前作「罪の手ざわり」と比べると、かなり穏やかな印象を与える「山河ノスタルジア」。だが、ジャ監督は「中国社会の急激な発展に翻弄される人々の姿を描いた点は共通している」という。

 「たとえば99年にジンシェン(チャン・イー)と結婚したタオ(チャオ・タオ)は、2014年には離婚していて、息子の親権はジンシェンに渡してしまっている。裕福なジンシェンと暮らしたほうが、息子はよい人生を歩めると考えたからだが、このタオの判断には、中国社会の価値観が大きく影響している」

 タオとしては、よかれと思っての選択だったろう。だが、それによって彼女は大切なものを失ってしまう。

 「僕自身も社会の影響を受け、大事な人と過ごす時間を削るなど、人間的な感情をないがしろにしてきたという思いがある。この映画では、26年という長い時間の中で、タオが自分本来の姿から遠ざかっていく。多くのものを手に入れるが、その代償として感情を失っていく。そのプロセスを映画にしたかった」

sanga_main.jpg

26年間を一人で演じるチャレンジ

 そんなジャ監督の意を受けて、ヒロイン役を演じたチャオ・タオ。「プラットホーム」(00)以来、ジャ監督の全作品に出演してきたが、25歳から50歳まで3つの年齢を演じ分けるのは初めて。大きなチャレンジだったが、2つの経験が演技上の助けとなった。

 「00年に『プラットホーム』で若者の一人を演じた。13年にはイタリアのアンドレア・セグレ監督作品『ある海辺の詩人 小さなヴェニスで』で、母親役を演じた。この2つの役柄を経験していたことが、タオを演じるうえで大きな参考になった。興奮しやすく喜びをストレートに表現する若き日のタオと、情感豊かだが身体的には若さが失われていく中年期のタオ。情感と身体をそっくり入れ替えるような演技を目指しました」

 脚本にはタオの人生がすべて書かれているわけではない。空白部分は想像で補ったという。

 「撮影前に、タオがどんな人生を歩んできたかという、彼女の伝記のようなものを書いてみた。それによってタオが自分の中で熟成し、撮影現場に入ったときには、私の中にタオという女性が出来上がっていました」

sanga_sub1.jpg

時代を象徴する音楽、記憶と結びついた風景

 冒頭ディスコのシーンで流れるのは、ペット・ショップ・ボーイズのヒット曲「Go West」。ジャ監督は99年という時代を象徴するものとして選んだという。

 「99年は、中国にとって2回目の大きな経済改革がスタートした年。その年、若者は何をしていたかと考え、最初に頭に浮かんだのがディスコだった。中国でディスコが流行り始めたのは、90年代の半ばぐらい。後半になると、大都市から小さな町へも波及していった。僕もよく通っていたが、当時とても人気のあったのが「Go West」。あの時代の若者の気持ちを反映した曲だった。“前進していこうよ、きっと何かが変えられるよ”。そんな内容の詞だったと思う」

 音楽とともに重要な役割を果たしているのが風景だ。99年のパートでは山西省・汾陽(フェンヤン)の風景、そして25年のパートでは息子が夫とともに移住したオーストラリアの風景が映し出される。2つの風景には明らかな違いがある。

 「風景は人間の記憶と結びついている。たとえば、僕は黄河の風景を見ると、大学時代に黄河のほとりで花火をした記憶が蘇る。99年の背景となっているのは、まさにそういう風景。登場人物たちが生まれ育ち、愛情を育んだ記憶が染みついている。人間と風景との関係は濃密だ。一方、25年のオーストラリアは、仮住まいのような、よそよそしい風景。故郷から隔絶した場所で、人間との関係も希薄だ」

父の死によって、家族の一員と改めて意識

 14年のパートでタオは父親を亡くすが、ジャ監督も06年に父親と死別している。

 「父が生きていた時は、家族のことなど気にとめなかった。しかし、父が死んで、自分は家族の一員だということを改めて意識させられた。実家から帰るときのことだった。母が家の鍵を手渡してくれた。僕が実家の鍵を持っていないことを、母は知っていたのだ。これはつらかった」

 タオと同様に、若い時は気づかなかった家族の有り難さ、人間的な感情の大切さを噛みしめるジャ監督。

 「人生はある年齢に達しないと分からないこともある。しかし、映画ではその年齢にならなくても、それを体験できる。だから若い人にもぜひこの映画を見てもらいたい」

(文・沢宮亘理)

「山河ノスタルジア」(2015年、中国・日本・フランス)

監督:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、チャン・イー、リャン・ジンドン、ドン・ズージェン、シルヴィア・チャン、

2016年4月23日(土)、Bunkamuraル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.bitters.co.jp/sanga/

作品写真:(c)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano
posted by 映画の森 at 12:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする