2020年02月09日

チベット映画「巡礼の約束」ソンタルジャ監督&主演のヨンジョンジャに聞く「国や地域を問わず、人間の情や愛は変わらない」

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 チベットの聖地・ラサ巡礼を目指す家族の道のりを描いた映画「巡礼の約束」が2020年2月8日から公開されている。チベット人監督として初めて日本で作品が劇場公開された「草原の河」のソンタルジャ監督が、チベット人歌手・ヨンジョンジャを主演に迎えた人間ドラマだ。監督は「国や地域を問わず、人間の情や愛は変わらない」と語った。

 チベット文化圏の四川省ギャロン地域。女性ウォマは、夫のロルジェ、義父と暮らしている。病院で医師にあることを告げられたウォマは、ロルジェに「ラサへ五体投地で巡礼する」と宣言する。4反対を押し切り出発したウォマを、ロルジェが追い、前の夫との息子のノルウも会いに来た──。

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 主なやり取りは以下の通り。

 ──ヨンジョンジャさんの故郷・ギャロンの文化の特徴を教えて下さい。

 ソンタルジャ監督:ギャロンは村ではなく、広い地域を指します。四川省所属しており、その地域一帯に住むギャロン語を話す人たちがギャロンと呼ばれています。

 ヨンジョンジャ:私の実家はギャロンにあります。チベット民族として、ギャロンの村からラサへ巡礼に行く風習は古くからありました。全員が行けるわけではなく、仕事や体の具合などの都合で一部の人々しか行けません。

 私の故郷にいた小学校の先生が、五体投地でのラサ巡礼を長い時間をかけて実現しました。その話を監督にしたことが、企画のきっかけです。映画のストーリーとはかなり異なっています。監督が映画的に脚色してくれました。

 ソンタルジャ監督:共通しているのは(途中で巡礼に加わる)ロバの存在ですね。

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 ──映画のキーワードである「約束」「運命」「縁」は、チベットの人たちの生活の中では重要な意味を持つのでしょうか。

 ソンタルジャ監督:はい、その通りです。私たちが信じる仏教の考え方と一致します。漢民族は比較的、縁を宿命的で、悲観的にとらえる傾向がありますが、私たちチベット人は、豊かな人間関係の一つと考えます。「約束」「運命」「縁」は、チベットの人々の普遍的な価値観の象徴と思いますね。

 また、チベット人は、世の中のいろいろな場所に魂が宿ると信じています。人間関係について考える時も、簡単には判断を下しません。「縁」を大事にするのです。

 ──死についてはいかがですか。一般的に日本人は死ぬことに対して悲観的です。チベットの人たちはどうでしょう。

 ソンタルジャ監督:チベット人は死は生まれ変わりと考え、それほど悲観的にはとらえません。北京に一時期に住んでいた時、お年寄りが毎日身体を鍛えるのを見ました。老いへの抵抗ですね。チベットでは歩きながらお経を唱えたりします。都市の人は死にあらがおうとしますが、チベット人は普段の生活から死に向けて準備し、死に向かうことを当たり前と考えますね。

 ──お二人もそうですか。

 ソンタルジャ監督:まだその時期ではないですが、そう死にたいとは思います。その時になってみないと分からないです(笑)。

 ヨンジョンジャ:仏教徒として輪廻を信じています。死は新たな生の始まりだと考えます。

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 ──「巡礼の約束」を見て、チベットの人たちの間にはさまざまな言語、文化があると知りました。ギャロンの特徴はどんなところでしょうか。

 ヨンジョンジャ:宗教や信仰はほかの地域と一緒ですね。

 監督:建築や服飾が独特です。建物は石造りなんですよ。

 ヨンジョンジャ:そう、私もちょうど家を建てている最中で、すべて石で作るギャロン式です。チベットでもラサとギャロンは農耕文化。定住するので石造りの家。アムドやカンバなどは移動する遊牧民の土地で、人々はテントに住んでいます。

 監督:(チベット高原の)アムドやカンバの人たちは、モンゴル草原と同じようにゲルを住んでいます。

 ──映画を見てチベット文化に触れる外国人の観客に、どんな部分に注目してほしいですか。

 監督:「巡礼の約束」はチベットの映画ですが、どこの国であろうと、生きている人間の関係、親子の情は変わらないことを感じてほしいです。

 ヨンジョンジャ:政治的なレッテル、宗教の違いを取り払えば、残るのは人と人の心の通い合いです。「巡礼の約束」はギャロンの話ですが、民族や地域に関係なく、人間は愛が大事だと伝えています。包容力、豊かな広い心で、人を受け入れることや、約束を守ることが、とても大事だと感じてもらえればいいな、と思います。

(文・写真 遠海安)

「巡礼の約束」(2018年、中国)

監督:ソンタルジャ
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ、ジンバ

2020年2月8日(土)、岩波ホールほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/junrei_yakusoku/

作品写真:(C)GARUDA FILM
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2018年02月08日

「マンハント」白い鳩、二丁拳銃、スローモーション ジョン・ウー監督、大阪舞台にアクション自在 

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 実直な国際弁護士ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)が目を覚ますと、女の死体が横たわっていた。状況証拠はドゥが犯人と示しており、殺人事件に巻き込まれる。何者かに陥れられたと逃走するドゥ。一方、孤高の敏腕刑事の矢村(福山雅治)は独自捜査でドゥを追う──。

 中国で大ヒットした高倉健主演の「君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ」(佐藤純彌監督、76)。西村寿行の原作小説を再映画化したのが「マンハント」だ。日本版のリメイクではなく、ジョン・ウー監督が原作を現代流に大胆に解釈。日中韓のキャスト、大阪など日本でロケ撮影した中国アクション映画だ。

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 高倉健版の「君よ憤怒の河を渉れ」と物語の骨格は同じだが、全体像はかなり違う。日本版では、高倉演じる罪を着せられた検事が、真犯人を探して日本中を逃げ回る。一方、「マンハント」は派手なアクション満載で、ウー監督のカラーを前面に押し出した。大阪ロケはリドリー・スコット監督で高倉も出演した「ブラック・レイン」(89)に通じる。

 幕開けは港町の小料理屋。女将(ハ・ジウォン)とドゥが談笑している。二人のひと時の心の交流は、のちの展開で重要になる。意外な仕掛けであっと驚くアクションシーンへ。二丁拳銃にスローモーション、ウー監督得意のアクションが素晴らしい。バックには「君よ憤怒の河を渉れ」のテーマ曲が流れる。しびれるような演出で、観客の心をわしづかみにし、日本版との方向性の違いをはっきり提示する。

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 ドゥは陰謀に巻き込まれ、逃亡を始める。長尺だった日本版と違い、構成がかなり簡略化されている。日本版で男くさい原田芳雄が演じた矢村は、福山雅治がスマートで洗練された刑事に変えた。矢村の登場シーンは、テロリストを相手に「ダーティハリー」(71)ばりに男気あふれている。

 香港からハリウッドへ、そして中国へ。トム・クルーズ主演の「ミッション・インポッシブル2」(00)、中国の歴史二部作「レッドクリフ」と大作が続いたが、「マンハント」はフットワークの軽さが際立つ。監督のシンボルでもある白い鳩、二丁拳銃、スローモーション。ヒッチコックばりの推理劇。手腕健在でうれしく、荒唐無稽さも圧巻だ。

 音楽・岩代太郎、美術・種田陽平に加え、國村隼、池内博之、竹中直人、桜庭ななみ、倉田保昭ら日本人キャストも大活躍する。アジアの才能が集結した注目の中国アクション映画だ。

(文・藤枝正稔 写真・岩渕弘美)

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「マンハント」(2018年、中国)

監督:ジョン・ウー
出演:チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン、國村隼

2018年2月9日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/manhunt/

作品写真:(C)2017 Media Asia Film International Ltd. All rights Reserved

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2018年02月02日

「苦い銭」中国ドキュメンタリー監督ワン・ビン最新作 急発展支える底辺の人々

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 中国・雲南省出身の少女シャオミンは15歳。縫製工場で働くため、バスと列車を乗り継ぎ、遠く離れた浙江省湖州へ向かう。出稼ぎ労働者が80%を占める街にも、胸に響く一瞬がある。初めて街で働き始める少女たちのみずみずしさ。稼げず酒に逃げる男。仕事がうまくいかず、ヤケになって工場を移る青年──。

 「三姉妹 雲南の子」(12)、「収容病棟」(13)などの中国ドキュメンタリー映画監督、ワン・ビンの「苦い銭」は2016年、第73回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で脚本賞、人権の重要性を問う最も優れた作品に与えられる「ヒューマンライツ賞」を受賞した。

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 故郷・雲南省を離れて出稼ぎに向かうシャオミンら3人の若者たち。約2200キロ離れた浙江省の省都・杭州まで列車で20時間。カメラは縫製工場に着いたシャオミンを追いながら、同じ工場で働く他の出稼ぎ労働者を、枝分かれするように並行して写し始める。

 子供を故郷に置き、夫と出稼ぎに来た25歳のリンリン。夫のアルゾは工場で右手を切断してしまい、今はインターネットや麻雀ができる雑貨店を経営しているが、商売は芳しくない。そこへリンリンが「金を入れてほしい」と言い出し、店内で壮絶な夫婦喧嘩が始まる。

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 真っ当な妻の言葉を、夫は頭ごなしに否定。怒りを露わに反論を続けた挙句、暴力をふるう。店の外から監督は撮影を続ける。仲間が仲裁に入るが、アルゾの怒りは収まらない。ほかにも出稼ぎの低賃金に嫌気がさし、マルチ商法に興味を示す者。酒やギャンブルに溺れる者。カメラは出稼ぎ労働者の人間模様を収め続ける。

 説明的な描写は一切ない。観客は映像から判断する。長回しを多用した撮影スタイルで、低賃金で働く人たちの過酷な労働環境や人間関係が見えてくる。低賃金でも黙々と縫製作業を続ける少女たちと対照的に、嫌気がさしてぼやく男たち。歯に衣着せぬ出稼ぎ労働者の正直な姿。長回しでの夫婦喧嘩の映像。外から聞こえる鳴りやまない車のクラクション。観客も劣悪な労働環境を疑似体験させられ、相当なストレスと忍耐を強いられる。

 急速に発展する中国を、底辺で支える出稼ぎ労働者たち。富裕層の夢の生活とは無縁の人々の人生を、映像として明確にとらえたことに感心する。

(文・藤枝正稔)

「苦い銭」(2016年、仏・香港)

監督:ワン・ビン

2018年2月3日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.moviola.jp/nigai-zeni/

作品写真:(C)016 Gladys Glover-House on Fire-Chinese Shadows-WIL Productions

タグ:レビュー
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2017年12月23日

「カンフー・ヨガ」63歳ジャッキー・チェン、サービス精神満点の娯楽アクション

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 約1000年前の古代インドと中国で、争乱の末に伝統の秘宝が消えた。考古学者のジャック(ジャッキー・チェン)は秘宝を探すため、同じ考古学者でヨガの達人のインド人美女アスミタ(ディシャ・パタニ)らと旅に出る。まずは秘宝へ導く“シヴァの目”を探さすが、手がかりは古い地図だけ。しかも謎の一味が秘宝を奪おうと迫る──。

 ジャッキー・チェン主演の中印合作冒険活劇「カンフー・ヨガ」。監督、脚本、製作、アクション指導は「ポリス・ストーリー3」(92)、「レッド・ブロンクス」(95)など、ジャッキーとは何度も組んだ実績のあるベテラン、スタンリー・トンだ。

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 インパクト絶大のタイトルが示す通り、最近のヒット作を徹底的に研究している。出だしは中印が秘宝をめぐって争う様子を、フルバージョンのCG(コンピューター・グラフィックス)アニメで描く。巨大な象が暴れまわる中、アクロバティックに展開する騎馬戦。「ロード・オブ・ザ・リング」(01)のようにファンタジックだ。

 舞台は中国、インド、ドバイに広がる。スティーブン・スピルバーグ監督作「インディ・ジョーンズ」シリーズさながらに、ジャッキーは大学教授で冒険家。さらに自宅では「木人」を相手に体を鍛えている。そんなお茶目な学者が、秘宝探しの冒険に出る。

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 ジャッキー作品らしく、コミカルな描写をちりばめながら、随所にアクションと投入していく。中盤のドバイでは高級スポーツカーをぜいたくに壊し、「ワイルド・スピード」さながらの展開。ライオンを乗せた車をジャッキーが運転するなど、予想を超える楽しさだ。僧院を舞台にしたり、大道芸人を巻き込んだり、ジャッキーが自虐的に言う通り「インディ・ジョーンズ」顔負けの活躍。

 今年63歳になったジャッキー。「レイルロード・タイガー」、「スキップ・トレース」、「カンフー・ヨガ」と今年だけで主演作が3本、日本で公開された。中でも「カンフー・ヨガ」はノンストップで繰り広げられる冒険アクションで、老若男女楽しめるはずだ。若い俳優たちのアクションもふんだんに盛り込まれた。敵役ランドル(ソーヌー・スード)の冷酷で二枚目な悪役ぶりも物語を盛り上げる。

 エンドロールはまるでインドのボリウッド映画。敵味方が一緒に締めくくるダンスシーンだ。スタッフと俳優たちが一体になり、いいものを作り出すサービス精神。全体にやや荒削りで大味だが、エンタメ要素は満載で、屈託のない、楽しい娯楽作品だ。

(文・藤枝正稔)

「カンフー・ヨガ」(中国・インド、2017年)

監督:スタンリー・トン
出演:ジャッキー・チェン、アーリフ・リー、レイ、ソーヌー・スード、ディシャ・パタニ

2017年12月22日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kungfuyoga.jp/

作品写真:(C)2017 SR MEDIA KHORGOS TAIHE SHINEWORK PICTURES SR CULTURE &
ENTERTAINMENT. ALL RIGHTS RESERVED.

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2017年08月11日

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017 監督賞受賞「中国のゴッホ」本物との出会いが運命を変えた レプリカ職人の人生に迫るドキュメンタリー

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 ゴッホの複製画を描くことを生業(なりわい)としている男を追ったドキュメンタリー「中国のゴッホ」。画集やテレビでしかゴッホの絵画を見たことのなかった男が、オランダ人のバイヤーからの誘いでアムステルダムに渡って、初めて本物に接し、衝撃を受ける。

 色が全然違う。入念にコピーしてきたつもりだったが、実物とは大違いだった。そのショックが、男の芸術家魂に火をつけた。ゴッホの描いたカフェを発見するや、「あの絵のとおりだ」と興奮し、その場でキャンバスを立て写生を始める。

 生活のために複製画を描き続けてきた。これからは自分のオリジナルを描こう。男は決意を胸に帰国する――。

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 中国・深セン市近郊の大芬(ダーフェン)村。世界で流通する複製画の半分がここで生産されているという。多数のスタッフが分担しながら、ゴッホの複製画を製作している風景は、日本のアニメ製作現場を彷彿とさせる。

 スタッフはみな地方からの出稼ぎ者らしい。美術学校どころか、主人公の男は家が貧しく小学校しか行っていない。だが、独学で身につけた技術は確かだ。自分の手になるレプリカが世界中に流通しているという自負もある。だからこそ、本物を見たいという気持ちは、人一倍強かったろう。

 バイヤーの援助はあるものの、渡欧には多くの出費が伴う。妻は後ろ向き。それを懸命に説得し、何とか夢をかなえる。生活のこと、息子の教育のこと。芸術と人生との両立に苦闘する男の姿は、シリアスであったりユーモラスであったり。自作の複製画がアムステルダムの土産物屋で売られているのを見て落胆する様子は、さすがに気の毒である。

 思わず感情移入してしまう、愛すべきキャラクター。そんな主人公の素顔に迫り、本音を語らせ、人生の転機を迎える瞬間を切り取って見せたドキュメンタリーである。

(文・沢宮亘理)

「中国のゴッホ」(2016年、中国・オランダ)

監督:ハイボー・ユウ、キキ・ティエンチー・ユウ

作品写真:(c)YU Haibo
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