2016年09月19日

「歌声にのった少年」ガザの希望、姉への思い胸に 実在歌手の半生

uta_main.jpg

 パレスチナのガザ地区。1948年のイスラエル建国以来、数多の紛争を経験してきた町は、2007年に封鎖され、人々の自由はさらに制限された。そんなガザを歌声で勇気づけた青年歌手の半生を、米アカデミー賞外国語映画賞候補作「パラダイス・ナウ」(05)、「オマールの壁」(13)のハニ・アブ・アサド監督が映画化した。

 05年、ガザ。少年ムハンマド・アッサーフ(カイス・アタッラー)は姉のヌール(ヒバ・アタッラー)と友人の4人でバンドを組んでいる。楽しく歌えれば満足のムハンマド。一方、ヌールはカイロのオペラハウスで歌うことを夢見て、魚売りや結婚式での演奏で資金を集めていた。ところが、中古の楽器を手にして夢に一歩近づいた矢先、ヌールは腎不全で倒れてしまう。ムハンマドは手術費を工面しようと奔走するも、ヌールは力尽きた。残されたムハンマドの胸には、姉の言葉と夢が秘められていた。

uta_sub2.jpg

 12年、イスラエルの封鎖によってガザは激変していた。成長したムハンマド(タウフィーク・バルホーム)は亡き姉の夢をかなえるため、スカイプを通じてオーディションを受けるも失敗。友人の言葉に背中を押され、検問所を突破してカイロを目指す――。

 作品のモデルとなったのは、13年に人気オーディション番組「アラブ・アイドル」で優勝したムハンマド・アッサーフ。二人の俳優が二つの時代を映すように演じる。少年期の05年と青年期の12年で、ガザはまったく別の町のように変わっている。封鎖を受けてがれきの山が目立ち、ガザで夢を追うことの難しさを見せつけられる。

uta_sub1.jpg

 しかし、ガザの表情は一つではない。メディアで目にする町とは異なる映像に出合える。過酷な環境にも負けず、生活する人々の姿がある。白熱するストリート・サッカー。にぎやかな結婚式。テレビを囲む家族。

 オーディション番組に登場するムハンマドのプレッシャーははかり知れない。寄せられた「ガザの希望」という期待は重い。亡き姉との約束を抱き、重圧に耐えながら響かせる力強い歌声に胸を打たれる。

(文・魚躬圭裕)

「歌声にのった少年」(2015年、パレスチナ)

監督:ハニ・アブ・アサド
出演:タウフィーク・バルホーム、カイス・アタッラー、ヒバ・アタッラー、ディーマ・アワウダ、アハマド・ロッホ

2016年9月24日(土)、新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://utagoe-shonen.com/

作品写真:(C)2015 Idol Film Production Ltd/MBC FZ LLC /KeyFilm/September Film

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 08:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | パレスチナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月17日

「オマールの壁」パレスチナの分断、踏みにじられる信頼と友情

omar_main.jpg

 パレスチナ自治区を縦横に横切る壁。イスラエル兵の監視をすり抜け、青年オマール(アダム・バクリ)は高さ8メートルの壁をよじ登り、向こう側に住む友人に会いに行く──。ハニ・アブ・アサド監督の新作「オマールの壁」は、壁で分断されるパレスチナの若者たちの友情、裏切り、葛藤を描く。

 ヨルダン川西岸地区に住むオマールは、パン屋で働いている。幼なじみのタレク(エヤド・ホーラーニ)、アムジャド(サメール・ビシャラット)に会うため、命がけで壁をよじ登る日々。タレクの妹ナディア(リーム・リューバニ)と交際し、結婚を夢見ていた。

omar_sub1.jpg

 自由を求めるオマールたちは、武装組織から銃を手に入れ、イスラエル軍を襲撃する。しかし、イスラエル秘密警察はオマールを逮捕。「恋人も地獄行きになる」と脅しをかける。スパイになるよう強要されたオマールは、承諾したふりをして釈放される。反撃を狙う3人だったが、秘密警察はさらに上を行く「情報戦」を仕掛けてくる。

 パレスチナの壁と分断、イスラエルによる支配。浮かび上がるのは、人間の尊厳、友情、希望を踏みにじる占領政策の狡猾さだ。秘密警察はオマールたちの個人情報を把握し、時にアメをちらつかせながら、仲間同士を対立させる。暴力と情報操作でじわじわと精神と肉体を支配し、骨抜きにする。

omar_sub2.jpg

 監督は言う。「作品の主題は信頼だ。人間関係でいかに信頼が重要で、かつ不安定なものか。信頼は愛と友情のかなめ。非常に強いものだが、もろくもあり、幻覚のようでもある」

 壁で分断され、傷つけられた若者たち。自分を取り戻すため、オマールが最後に選んだ手段に、胸ふさがれる。

(文・遠海安)

「オマールの壁」(2013年、パレスチナ)

監督:ハニ・アブ・アサド
出演:アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ、サメール・ビシャラット、エヤド・ホーラーニ

2016年4月16日(土)、角川シネマ新宿、渋谷アップリンクほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/omar/
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 11:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | パレスチナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月09日

「自由と壁とヒップホップ」 パレスチナの現実と希望、音楽に乗せて 

自由と壁とヒップホップ.jpg

 「Who's the terrorist?(誰がテロリストだ?)」。2001年、1本の動画がインターネット上に公開された。パレスチナのヒップホップ・グループ「DAM」が歌ったこの曲は、瞬く間に100万を超すダウンロードを記録。中東の若者たちの支持を集める。「自由と壁とヒップホップ」は、DAMを中心としたパレスチナのヒップホップ事情を追ったドキュメンタリーだ。

 DAMは1990年代後半、イスラエルのパレスチナ人地区で結成された。メンバーは3人。占領、貧困、差別。生きる希望を見出せない若者たちのため、DAMは歌い続ける。親が服役中で行き場を失った子供たち。社会的に虐げられる女性たち。歌声はあらゆる理不尽に疑問を投げかけ、闘う人々の背中を押す。

自由と壁とヒップホップ2.jpg

 DAMの音楽は壁で隔てられたガザ、ヨルダン川西岸地区に「囲い込まれた」人々へも伝わっていく。絶望的な現状に立ち向かい、自由を手にするため、若者たちは声を上げる。抑圧と差別で麻痺していた感情が、歌うことで刺激され、思考が呼び覚まされる。ヒップホップのリズムに乗った声は、大きなうねりとなり広がっていく。

 しかし、そんな彼らの思いを、壁が容赦なく遮断する。ほんの数キロの移動も、検問所通過に手間取り、何時間もかかる現実。DAMが準備したパレスチナ初の音楽フェスティバルに、出演者は集まれるるのか──。

自由と壁とヒップホップ3.jpg

 監督はパレスチナ人、シリア人の両親を持つ米国人女性、ジャッキー・リーム・サッローム。今回が長編デビューとなる。パレスチナでの撮影は困難を極めたという。「パレスチナ系米国人の私が、イスラエルに入るというだけで大変だった。何の説明もなく故郷へ戻ることを禁じられる。(撮影した)テープを取り上げられた仲間もいた」と振り返る。

 完成までに5年。それでも監督は「私たちに連絡をくれたコミュニティー、個人、文字通り何千ものつながりに興奮している」と話す。音楽は壁を越え、人々をつないだ。映画はパレスチナから遠く離れた日本にも、現地の熱をダイレクトに伝えてくれる。

(文・遠海安)

「自由と壁とヒップホップ」(2008年、パレスチナ・米)

監督:ジャッキー・リーム・サッローム
出演:DAM、アビール・ズィナーティ、PR(パレスチニアン・ラッパーズ)

2013年12月14日、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.cine.co.jp/slingshots_hiphop/

タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 16:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | パレスチナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする