2013年10月17日

「マッキー」 ハエに感情移入できるか? インド発CG大作、人間ドラマと見事な融合

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 君はハエに感情移入できるか。インド映画「マッキー」の見どころはずばり、主人公がCG(コンピューター・グラフィックス)で作られたハエであることだ。

 物語は分かりやすい。貧乏青年のジャニ(ナーニ)が、向かいに住む美少女ビンドゥ(サマンサ・ルサ・プラブ)に恋をする。両想いになったのもつかの間、悪徳社長スディープ(スディープ)の横やりが。ジャニはスディーブに殺されるが、ハエとして生まれ変わる。愛するビンドゥを守り、憎きスディーブに復讐するため、ハエになったジャニは孤軍奮闘する──。

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 体調数ミリの小さなハエが、大スクリーンをところ狭しと飛び回る。ハエは言葉を話せない。身ぶり手ぶりで意志を表すほかない。自分がジャニの生まれ変わりだと伝えるため、あの手この手でビンドゥに思いを伝えようとする。机に落ちた水滴で文字を書いたり、スディープにまとわりついて困らせたり。リアルな造形とスピード感が素晴らしく、知らず知らず感情移入させられる。無表情のはずのハエに、喜怒哀楽があるように見えてくる。

 VFX(視覚効果)を手がけたのは、インドのSFアクション大作「ロボット」(10)の製作チーム。インド映画史上最多のカットを費やし、実写の人間ドラマとCG(コンピューター・グラフィックス)のハエを融合させた。ハエの細部にいたる作り込み、視界360度を存分に使った空間描写。インドCG技術の底力を感じさせる。

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 インド南東部の言語・テルグ語映画であることも興味深い。多言語国家のインドでは、ヒンディー語、タミル語、テルグ語、マラヤーラム語など、地域ごとにさまざまな言葉で映画が作られている。「マッキー」のメガホンをとったのは、テルグ語映画界の人気監督S.S.ラージャマウリ。ハエの敵役スディーブを演じたのは、インド南西部・カンナダ語映画界のスター、スディープだ。ムンバイを中心としたいわゆる“ボリウッド”発のヒンディー語映画だけでなく、別言語の映画世界をのぞく意味でも興味深い。

 ハエを相手に戦うスディーブは、悪役ながら滑稽で愛嬌すらある。あっけなく殺されてしまうナーニも、かわいらしく健気なサマンサも魅力的。観客を楽しませることではピカ一のインド映画が、サービス精神たっぷりに送り出す娯楽作だ。

(文・遠海安)

「マッキー」(2012年、インド)

監督:S.S.ラージャマウリ
出演:ナーニ、スディープ、サマンサ・ルサ・プラブ

2013年10月26日、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://masala-movie.com/makkhi/

作品写真:(c)M/s. VARAHI CHARANA CHITRAM
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2013年10月07日

最新インド映画を一挙上映 「インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン」、11日開幕 ジャンル幅広く 

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 最新のインド映画を紹介する「インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン」が10月11日、東京・オーディトリウム渋谷をメーン会場に開幕する。昨年から今年に公開された17作品を一挙上映。インド映画ファンのみならず、幅広い観客の心をつかむラインナップだ。

 日本でも大ヒットした「きっと、うまくいく」のシャルマン・ジョーシー主演「フェラーリの運ぶ夢」。公務員の父と息子、祖父が家族の夢に挑戦する物語。落ちぶれた歌手が女性スターを育てる「愛するがゆえに」。90年代ヒット作のリメイクで、再び大きな反響を呼んだ悲恋のストーリー。

 インド映画100周年記念で作られた映画も紹介される。テント小屋の巡業映画館を営む女性の奮闘記「移動映画館」は、映画への情熱と愛情あふれる作品。インド南西部で話されるマラヤラム語映画の誕生秘話「セルロイド」は、言語別に発展したインド映画の源流が垣間見られる。さらに大金を賭けたゲームに挑む夫婦のサスペンス「テーブル21番」にも注目だ。

 「インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン」は2013年10月11〜18日にオーディトリウム渋谷(東京)、12〜14日にSKIPシティ(埼玉)19〜25日にシネ・ヌーヴォ(大阪)で開催。作品の詳細、上映スケジュールは公式サイトまで。

http://www.indianfilmfestivaljapan.com/

(文・遠海安)

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2013年06月18日

「きっと、うまくいく」 公開1カ月、右肩上がりの快進撃 笑いあり涙あり、観客がっちり “インド映画ブーム”再来に期待

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 インド映画史上最高の興行成績を残した大ヒット作「きっと、うまくいく」が、日本公開から1カ月たった今も快調に動員数を伸ばしている。かつて一大インド映画ブームを巻き起こした「ムトゥ 踊るマハラジャ」(98)を彷彿させる快進撃。笑いあり涙あり、観た人を勇気付ける人間ドラマは、日本人の心もがっちりつかんだようだ。

 「きっと、うまくいく」は、インド理系大学の最高峰を舞台に、エリート学生3人の青春模様をつづる。インドのトップスター、アーミル・カーン演じる主人公ランチョーを中心に、物語は笑いに涙にロマンスあり、インド得意のダンスシーンありと盛りだくさん。一方で10年後の現在も同時進行。姿を消したランチョーの秘密、居場所を追うミステリーにもなっている。高度成長期を迎えたインドの教育システムへの疑問、貧富の差などの社会問題に触れつつ、観客が登場人物に感情移入し、一喜一憂できるドラマに仕上がった。

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 日本では特集企画「ボリウッド4」の1作として5月18日に公開。単館でのスタートだったが、公開5週目に入った今も右肩上がりの動員を継続。6月からは上映館を増やして拡大公開している。観客は老若男女幅広く、各映画サイトの「満足度ランキング」でも上位に食い込む健闘。日本での興行収入はすでに昨年公開されたインド超大作「ロボット」(7000万円)を突破し、関係者は「過去最高の『ムトゥ 踊るマハラジャ』(2億円)に追いつき追い越せ」と期待を寄せている。

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 日本以外でもすでに公開され、世界興行収入は約75億円の大ヒット。スティーブン・スピルバーグ、ブラッド・ピットも絶賛して注目を集め、各国でリメイクが決定した。主演のアーミル・カーンはシャー・ルク・カーン、サルマン・カーンとともに“インド三大カーン”と呼ばれる大スター。米タイム誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」にも選出された。作品を観て感動した米マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏がインドに赴きカーンと対面するなど、各方面で話題を呼んでいる。

(文・遠海安)

「きっと、うまくいく」(2009年、インド)

監督:ラージクマール・ヒラニ
出演:アーミル・カーン、カリーナ・カプール、R・マーダビン、シャルマン・ジョーシー

2013年5月18日、シネマート新宿ほかで全国拡大公開。作品の詳細は「ボリウッド4」公式サイトまで。

http://bollywood-4.com/

作品写真:(C)Vinod Chopra Films Pvt Ltd 2009. All rights reserved
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2013年03月15日

「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」 時の流れと人間の再生 笑いと涙でボリウッド流に

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 人間が前世、現世、来世と再生を繰り返す様子を、ボリウッド流に歌と踊りで描く「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」。ロマンスとコメディーをベースに、輪廻にまつわるファンタジーを加えた。メガホンを取るのはインド映画界でただ一人、娯楽ヒット作を量産する女性監督ファラー・カーンだ。

 インド映画にはおなじみの長尺で、上映時間は3時間弱。前世=脇役俳優オーム(シャー・ルク・カーン)と、現世=トップスターに生まれ変わった現在の2部構成。“1本で2度おいしい”映画になっている。

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 幕開けはディスコダンス全盛の1977年。映画スターを夢見るオームは、トップ女優のシャンティ(ディーピカー・パードゥコーン)に憧れる。2人は友人になったものの、シャンティの夫ムケーシュ(アルジュン・ラームパール)の陰謀で命を落としてしまう。

 一方、オームを車ではねてしまった男性は、間もなく生まれた長男に「オーム」と命名。ここで前世と現世が切り替わり、オームの魂が引き継がれる。

 時は流れて2007年。人気俳優のオームは撮影で大忙し。前世は貧乏でダサかったが、すっかり洗練された金持ちに変身している。

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 しかし、現世のオームは原因不明の幻影に悩まされていた。前世で体験した火事などの記憶が、フラッシュバックとなって襲い来るのだ。そこへ憎きムケーシュが登場。オームは自分が“生まれ変わった”ことを知り、前世の恨みを晴らすためムケーシュへの復讐を誓う──。

 ダンスするオームの変貌ぶりが見ものだ。前世では70年代ディスコダンス。現世ではMTV風の最先端ダンスを披露する。ボリウッドのスーパースター、カーン自身が肉体改造に取り組み、腹筋の割れた体を作り上げたそうだ。

 観客を楽しませるためには、努力と労力を惜しまない。インド映画の底力を感じる作品だ。日本の映画ファンにもおなじみの豪華絢爛ミュージカルを随所に挿入。古代思想の輪廻を取り込みながら、笑いと涙、ロマンス、ファンタジーをうまく散りばめている。

(文・藤枝正稔)

「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」(2007年、インド)

監督:ファラー・カーン
出演:シャー・ルク・カーン、ディーピカー・パードゥコーン、アルジュン・ラームパール、シュレーヤス・タラプデー、キラン・ケール

2013年3月16日、渋谷シネマライズ、シネ・リーブル梅田ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/oso/

作品写真:(C) Eros International Ltd
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2012年11月27日

「ボス その男シヴァージ」 インド映画のスーパースター・ラジニ、大作ひっさげ現る

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 日本でも大ヒットした「ムトゥ踊るマハラジャ」(95)の主演でインド映画のスーパースター、ラジニカーント。その後日本でのインド映画人気は低迷していたが、今春公開された「ロボット(10)がヒットを飛ばし、第2の“ラジニ・ブーム”が起きた。「ボス その男シヴァージ」(07)は製作費約21億8000万円(当時)、上映時間3時間5分の超大作だ。監督は「ロボット」のシャンカール。

 主人公のシヴァージ(ラジニカーント)が警察に逮捕され、護送されるシーンで映画は幕を開ける。護送車を待ち受けるのは町を埋めた騒乱状態の群衆で、「ラジニカーントが逮捕された」と勘違いしているらしい。時はさかのぼり、米国帰りの実業家シヴァージの人生が描かれる。米で手にした資金を元手にシヴァージは親戚のおじさん(ヴィヴェク)と、南インドの故郷チェンナイで貧しい人々のため、無料の学校や病院建設を計画する。

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 そこに悪徳企業家アーディセーシャン(スマン)が登場。裏金を使って計画を中止に追い込もうとする。これに並行してシヴァージの嫁さん探しに奮闘する両親らの話が展開。シヴァージは街でタミル(シュリヤー)を見かけて一目ぼれ。家族総出でタミルの家への押しかけてお見合い、結婚にいたる。順調に計画を進めていたシヴァージだったが、アーディセーシャンの裏工作で破産に追い込まれる。丸裸にされたシヴァージはスキンヘッドの別人に化け、人々の前に再び登場。手段を選ばずのし上がる道を選択する。貧しい人々から「ボス」と呼ばれたヒーローはアンチヒーローとなり、悪徳企業家に復讐の刃を突き付ける。

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 インドの往年の名優、シヴァージ・ガネーシャの人生をモチーフに作られた。山あり谷あり、波瀾万丈の劇的な人生がインド映画流に料理された。マサラ・ムービーならではのコメディー、アクション、ミュージカルなど、観客の心をわしづかみにする娯楽要素満載だ。描き方は香港コメディーに通じるベタな手法で、ド派手なアクションは「マトリックス」以降のワイヤー、VFXを駆使するが、ハリウッドのそれとは一味違う。香港の周星馳(チャウ・シンチー)が描く「少林サッカー」、「カンフーハッスル」など、漫画的な特撮にどこか通じるものがある。

 インド映画恒例の圧巻のミュージカルシーン。物語と別次元である主人公の脳内世界を、音楽PV風ミュージカルとして表現。ミュージカルパートはエキストラ数百人を従え、スタジオの豪華セットや屋外で歌い踊る。大金を投じた豪華絢爛な映像に一見の価値がある。

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 しかし、なんといっても作品の肝はラジニカーントの存在だ。撮影時は50代後半のラジニが、劇中では20〜30代の青年役を演じ、若い女優と恋愛劇を展開。歌い踊ってワイヤーアクション、スタントまでこなす。手から手へコインを転がしポケットに入れるポーズや、ガムを口へ放り込むポーズは、効果音まで付けられ“決め”のシーンとして何度も披露。長尺だけにややだれるところもあるが、新たなインド映画の勢いを証明した作品である。

(文・藤枝正稔)

「ボス その男シヴァージ」(2007年、インド)

監督:シャンカール
出演:ラジニカーント、シュリヤー・サラン、スマン

12月1日、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.masala-movie.com/sivaji/

作品写真:(C)2007 Ayngaran International (UK)Ltd. All Rights Reserved.
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