2019年11月21日

第32回東京国際映画祭を振り返る スペイン、インドネシアの個性派作品に注目

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 2019年10月28日〜11月5日に開催された「第32回東京国際映画祭」。審査員長に中国映画女優チャン・ツィイーを迎え、世界各国から応募された14作品がグランプリを争う「コンペティション」部門を中心に、アジアの新鋭監督たちが競いあう「アジアの未来」、個性あふれる日本映画が世界を目指す「日本映画スプラッシュ」など、世界中の様々な映画が一堂に会する日本を代表する映画祭だ。今回、私が鑑賞出来た受賞作品と共にお勧めな紹介したい。

【東京グランプリ・東京都知事賞】

「わたしの叔父さん」(デンマーク)監督、脚本、撮影、編集フラレ・ピーダゼン、出演イェデ・スナゴー

 体の不自由な叔父と牛舎で牛の世話をする姪クリス。獣医になる夢を持つクリスの前に立ちはだかる叔父の世話。夢と現実の狭間で葛藤するクリスの選択という普遍的なテーマを、監督は静かな洞察力で描いた。キャストが絶妙で、実生活で血縁関係のある演技経験のない叔父と女優の姪が生み出す無言のハーモニーに惹きつけられる作品だ。

【審査員特別賞】

「アトランティス」(ウクライナ)監督、脚本、撮影監督、編集、プロデューサーのヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ、出演アンドリュー・リマルーク

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 近未来2025年のウクライナ東部を舞台に、戦争で受けたPTSDに苦しむ元兵士の心の葛藤を音楽を使わず、殆どワンシーン、ワンカット、ワンフレームという斬新な撮影法を使い、戦争がもたらす代償と心に闇を抱えてしまった兵士の心情を掘り下げた異色作だ。実際に元兵士だったリマルークが武骨な元兵士を体現した。

【最優秀監督賞、最優秀男優賞】

「ジャスト6.5」(イラン)監督、脚本サイード・ルスタイ、出演ナヴィド・モハマドザデー

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 イラン警察と大物ドラッグ売人との戦いを、捜査過程から検挙、ジャンキーのたまり場、取り調べ、逮捕者であふれかえる拘置所、裁判、死刑執行までを、膨大なセリフとハイテンションな演技で魅せた力作だ。貧困から脱出するために薬物売買に手を染める売人の姿にイランの深い闇を感じた。

【アジアの未来 作品賞】

「夏の夜の騎士」(中国)監督ヨウ・シン、出演ホァン・ルー

 1997年、親と離れ祖父母の家に預けられて生活する小学生ティエンディエン。祖母の自転車が盗まれた事で経験する夏休みの日々を、少年の目を通して大人たちに対する不条理な思いと、小学生らしい純粋な眼差しを繊細に描いた作品だ。

 他にもお勧めな2本を紹介したい。

 「コンペティション」に出品されたスペインのカルト小説を映画化した「列車旅行のすすめ」(スペイン、フランス)は、摩訶不思議な迷宮的な物語をぶっ飛んだ演出で魅せた。監督のセンスに魅了される大人の寓話だ。

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 「CROSSCUT ASIA」で上映された「フォックストロット・シックス」(インドネシア)は、「トータルリコール」(90)「ターミネーター2」(91)など80〜90年代ハリウッドを一世風靡した大物プロデューサーのマリオ・カサールがエグゼクティブプロデューサーを務めた近未来SFアクション超大作だ。ややCGにチープさは否めないが、悪徳政府に対して元海兵隊員の国会議員がかつての兵隊仲間たちと力を合わせて、インドネシアの未来ために正義の戦いに挑むアクション満載の男気溢れる娯楽作だ。

 日本で見ることが難しい世界の映画に気軽に触れられるのが映画祭の醍醐味だ。今回「東京国際映画祭」で上映された世界の映画が、一本でも多く日本で劇場公開されることを願う。

(文・写真 藤枝正稔)

写真:

「わたしの叔父さん」(左から)プロデューサーのマーコ・ロランセン、女優イェデ・スナゴー、フラレ・ピーダセン監督

「アトランティス」(左から)ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督、男優アンドリュー・リマルーク

「ジャスト6.5」(左から)サイード・ルスタイ監督、男優ナヴィド・モハマドザデー

「列車旅行のすすめ」(左から)アリツ・モレノ監督、原作者アントニオ・オレフド

posted by 映画の森 at 23:22 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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