
熊切和嘉監督「海炭市叙景」(10)、呉美保監督「そこのみにて光輝く」(14)に続き、新進気鋭の監督が作家・佐藤泰志の小説を映画化する函館3部作。最終章の「オーバー・フェンス」は、「マイ・バックページ」(11)の山下敦弘がメガホンを取った。
家庭を省みない白岩(オダギリジョー)は妻に離婚され、故郷の函館で職場訓練校に通っている。訓練校では年も性格も違う男たちが大工を目指している。皆と深くかかわらず、微妙な距離を保つ白岩。帰路に弁当とビールを買っていると、路上で男ともめている女(蒼井優)に気付く。女は男に向かい、鳥の求愛ダンスをまねて踊っていた。白岩は一瞬女と目が合うが、気まずさにその場を自転車で去る。

白岩はある日、訓練校の仲間・代島(松田翔太)に誘われ、キャバクラへ飲みに行く。店内にひときわ目立つホステスがいた。求愛ダンスをしていた女、聡(さとし)だった。代島は聡を「すぐやれる女」と言い、自分も関係を持ったことを匂わせる。白岩は聡に自分とどこか通じるものを感じていた──。
不器用で孤独な男女を描いた「オーバー・フェンス」。社会の片隅でもがく若者を描いた「そこのみにて光輝く」に方向性は似ている。白岩は元妻から絶縁状を突き付けられ、子供にも会えない。聡は男に利用されて自己嫌悪しながら、喜怒哀楽をはっきり表に出す。対照的な二人はひかれ合うが、あることがきっかけで聡の感情が爆発する。

山下監督は社会からドロップアウトした若者を描くことに長けている。「苦役列車」(12)、「もらとりあむタマ子」(13)と、世の中に適応できない男女に時に厳しく、時に優しい視線を送ってきた。
離婚して心を閉ざす白岩に、聡は正面からぶつかり、懐に飛び込もうとする。支離滅裂な聡の行動に、白岩の心は徐々に解けていく。どこか刑務所を思わせるように、閉鎖的で刹那的な訓練校。男たちがグラウンドでソフトボールをしている。白球は弧を描き、青空へ。壁を越えて次のステップを踏める予感。白岩と聡の「その後」を感じさせ、心地良い余韻を残す作品となった。
(文・藤枝正稔)
「オーバー・フェンス」(2016年、日本)
監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介
2016年9月17日(土)、テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://overfence-movie.jp/
作品写真:(C)2016「オーバー・フェンス」製作委員会
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