2016年08月28日

「ティエリー・トグルドーの憂鬱」家族と生活のため、屈辱と不条理に耐える 労働者の現実リアルに

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 51歳のティエリー・トグルドーは、長年勤務した会社を突然リストラされる。合理化のための不当解雇。同僚は会社側を訴えようと気炎を上げるが、ティエリーにそんな余裕はない。障害を持つ息子と長年連れ添った妻との生活を支えるため、一刻も早く新しい仕事を探さなければならないからだ。

 工作機械のオペレーターだったティエリーは、ハローワークで勧められるまま、クレーンの操縦免許を取得。だが、経験者ではないという理由で雇ってもらえない。スカイプを使った模擬面接では、採用される可能性は低いと断言され、グループ研修では、「笑顔が冷たい」「心を閉ざしている」と酷評された。再就職の道は予想以上に険しい。

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 生活が逼迫するなか、ティエリーは愛着のあるトレーラーハウスを手離す決意をするが、価格交渉が決裂。結局、売却には至らなかった。

 ようやく見つかった就職先は巨大なスーパーマーケット。仕事は万引き監視員だった。気づかれないように店内を巡回し、監視カメラの映像をモニターでチェック。発見したら捕まえて、場合によっては警察に通報する。

 そんな監視員の仕事が、自分に向いているとは思えなかったろう。しかし、ほかに選択肢がないティエリーは、与えられた仕事を黙々とこなしていく。ところが、監視の対象が従業員にも及ぶことになった瞬間、ティエリーは思いがけない試練に直面する――。

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 ステファヌ・ブリゼ監督とヴァンサン・ランドンが、「シャンボンの背中」(09)、「母の身終い」(12)に続き3度目のタッグを組んだ「ティエリー・トグルドーの憂鬱」。家族を養うため、前半では、屈辱に耐えながら就職活動に邁進し、後半では、組織の論理と個人の尊厳の板挟みになり、ぎりぎりまで耐えてみせる主人公を、徹底したリアリズムで描き出している。

 ティエリーはまるでヴァンサン・ランドン自身のように思えるし、面接や研修の風景、スーパーのレジ作業や監視カメラの映像も、ドキュメンタリーを見ているよう。出演者の多くは素人だそうだが、ランドンと絡んで少しも違和感のない自然な演技も見事だ。

 日本とは比較にならないほど失業率の高いフランスの現実を映し出した作品。だが、描かれている主人公は資本主義社会ならどこにでもいる平凡な人物だ。近所のハローワーク、あるいは昼間のカフェや公園、至るところに“ティエリー”を見つけることができるはずだ。もしかしたら、将来の自分自身であるかもしれない。そう思って見ると、一層胸に迫るものがあるだろう。

(文・沢宮亘理)

「ティエリー・トグルドーの憂鬱」(2015年、フランス)

監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:ヴァンサン・ランドン、イヴ・オリィ、カリーヌ・ドゥ・ミルベック、マチュー・シャレール

2016年8月27日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://measure-of-man.jp/


作品写真:(c)2015 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA.
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posted by 映画の森 at 07:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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