2016年08月20日

「健さん」“最後の映画スター”高倉健の実像に迫るドキュメンタリー

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 遅咲きのスターである。デビューは1956年と早いが、なかなか芽が出なかった。所属する東映では、同世代の中村錦之助(後に萬屋錦之介)や大川橋蔵らの活躍を横目で見ながら、ひたすらB級作品に出演し続けた。ブレークしたのは60年代の半ばだ。映画産業は斜陽期を迎え、東映は看板の時代劇から撤退。起死回生の一手として打ち出した任侠路線に、高倉健の個性がピタリとはまった。時代劇では弱点だった三白眼が武器となった。

 「日本侠客伝」、「網走番外地」などのシリーズで人気が沸騰。東映を背負って立つ看板スターとなる。70年代に東映を飛び出しフリーになると、出演作品を厳選。存在感あふれる芝居で称賛を浴び、名実ともに日本を代表する俳優となった。英語に堪能なこともあり、ハリウッド映画でも活躍。中国のチャン・イーモウ(張芸謀)監督作品では主役を演じた。2014年に逝去するまで、国民的大スターであり続けた。

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 寡黙な人だった。公の場で多くを語ることはなく、取材も滅多に受けなかった。そのため著名人でありながら、驚くほど情報が少ない。そもそも、映画スターはスクリーンの中だけに存在するもの。だとすれば、高倉は典型的な映画スターだった。しかし、ファンならば知りたい。高倉健にとって、映画とは何だったのか。人生に何を求め、どんな生き方をしたのか――。

 本作は、国内外の著名人や裏方スタッフなど、さまざまな人物の証言を通し、これまで知ることができなかった高倉健の実像を明らかにした、初のドキュメンタリー映画である。

 マイケル・ダグラスは、共演した「ブラック・レイン」(89)で見せた高倉の演技がいかに素晴らしいかを力説する。八名信夫は「最初から殺されに行くな。殺すつもりで行って、殺されるんだ」と、高倉から“殺され役”の心得を説かれた思い出を語る。監督の澤島忠は「人生劇場 飛車角」(63)で大役を得た高倉が「どう演じていいか分からず悩んでいた」と明かす。これらのエピソードは、演技者・高倉健に対する見方を確実に変えるはずだ。

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 ほかにも高倉がある理由で酒を飲まなかったこと、遅刻しても平然としていたこと、異常なまでに猜疑心が強かったことなど「健さん」のイメージとはかけ離れた話が、高倉と親交を結んだ人々から披露される。いずれも親しい間柄だからこそ知り得た情報であり、人間・高倉健を理解する上で貴重なエピソードばかりである。

 「どんな大声を出しても、伝わらないものは伝わらない。むしろ言葉が少ないほうが伝わると思う」。作中で高倉健が語っている。高倉が伝えたかったことは何だろう。本作の中に答えはあるかもしれない。

(文・沢宮亘理)

「健さん」(2016年、日本)

監督:日比遊一
出演:マイケル・ダグラス、ポール・シュレイダー、ジョン・ウー、澤島忠、梅宮辰夫、降旗康男、山田洋次、八名信夫

2016年8月20日(土)、渋谷シネパレス、新宿K's cinema ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://respect-film.co.jp/kensan/

作品写真:(c)2016 Team“KEN SAN”
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posted by 映画の森 at 09:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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