2016年06月17日

「葛城事件」砕け散る理想の家族 暴君の父演じた三浦友和、迫真の名演技

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 葛城清(三浦友和)は、父親から継いだ小さな金物屋を経営している。些細なことで癇癪(かんしゃく)を起こし、弱い者に攻撃の刃を向ける。家族はそんな清に逆らうこともできず、黙って耐え忍んでいる。だがある日、我慢もついに限界を超えて――。

 一人の強権的な男が招く家族の悲劇を描いた「葛城事件」。清は幸福な家庭には育たなかったのだろう。だからこそ、結婚したら理想的な家庭を築きたかったのかもしれない。そういう気持ちは納得できる。だが、やり方が間違っている。マイホームの設計から息子の進路まで、すべて自分で決めてしまう。妻の伸子(南果歩)には一切口出しさせない。異論は許さない。専制君主なのだ。


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 長男の保(新井浩文)は、いわゆる“いい子”。清の期待に応え、一流企業に就職して結婚もした。しかし、性格が弱いために営業成績が上がらず、リストラされてしまう。妻(内田慈)や清にはクビになったことを隠し、就職活動を続けるが結果が出ず、追い詰められる。一方、次男の稔(若葉竜也)は、バイトからバイトへと渡り歩くフリーター。清にとっては恥ずべき存在なのだろう。つねに邪険に扱われている。

 二人とも清という暴君の犠牲者である。伸び伸びと育てられなかった。それで対人関係、社会関係に問題が生じた。しかし、清はそれが自分の責任であることに気づかない。自分のやることは常に正しいと信じて疑わない。

 だから自分が非難されたり、反撃される理由が分からない。本人にすれば、家族への暴言も善意なのだ。愛想を尽かし逃亡した妻と次男の居場所を突き止め、踏み込む場面で見せる常軌を逸した暴力。それも彼らの理不尽な裏切りに対する、正当な仕打ちだったに違いない。

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 しかし、そんな清の行動は、崩れかけた家庭に対し、とどめの一撃ともいうべきダメージを与えてしまう。かくして家庭は無惨な結末を迎える。すべてを失った後もなお、思い描いた“理想の家庭”という幻影から逃れられないかのように、一人家に留まる清。狂気を帯びた姿にぞっとさせられる。

 誇張し過ぎればリアリティーを薄めるし、ステレオタイプに演じると嘘っぽくなる。三浦友和は感情や神経のすべてを絶妙にコントロールし、これ以上ないほどの迫真性を生み出している。一世一代の名演と言っていいだろう。

(文・沢宮亘理)

「葛城事件」(2016年、日本)

監督:赤堀雅秋
出演:三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈、内田慈

2016年6月18日(土)、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://katsuragi-jiken.com/

作品写真:(c)2016『葛城事件』製作委員会

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posted by 映画の森 at 10:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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