2016年05月20日

「海よりもまだ深く」ままならぬ人生、人はどう受け止めるか 是枝裕和監督最新作

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 生まれ育った団地を久しぶりに訪れた良多(阿部寛)。母の淑子(樹木希林)は留守だったが、おかまいなしに上がり込み、仏壇へ。備えられた大福をほお張り、家の中を物色し始める。目当ては半年前に他界した父が遺したお値打ち物の掛け軸。売りさばいて生活費にあてようという腹だ。しかし、帰宅した母から「捨てた」の一言。良多の計画はあえなく潰(つい)える。

 ダメ男である。15年前に書いた小説が「島尾敏雄賞」を受賞し、一度はスポットライトを浴びたが、その後は鳴かず飛ばず。現在は興信所で探偵のアルバイトで生計を立てている。「小説のための取材」とうそぶきながら、やることと言えば浮気の調査対象者から金をゆすり取るという、卑劣な真似ばかり。しかも、せしめた金は即日ギャンブルでスってしまう。

 妻の響子(真木よう子)には愛想を尽かされ離婚。だが、まだ響子に未練がある良多は、月1回、息子の真悟との面会で彼女と会うのが楽しみで仕方ない。そんな元家族の3人が、たまたま淑子の家で一晩ともに過ごすことになるのだが――。

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 ダメ男の良多。ダメ男を捨てた元妻の響子。息子のダメぶりにため息をつきながらも、決して見捨てようとしない母の淑子。そんな淑子になついている息子の真悟。台風の夜、各人がそれぞれの思いを吐露していく。「幸せは何かをあきらめないと手にできない」と語る淑子。「こんなはずじゃなかった」と呟く良多。「またみんなで暮らせるかな」と問いかける真悟。果たして家族は再生できるのか――。

 是枝裕和監督の過去作品と同様、“ままならぬ人生”をどう受け止め、どう生きるかという問題を提起している。

 響子も淑子も、かなえられなかった夢に執着することなく、目の前の現実を見つめ、新しい人生を歩もうとしている。それに対し、良多は自分の夢にこだわり、地に足のついた生き方ができない。たくましく現実的な2人の女性と比べると、まるで甘えん坊の子供だ。実際いい年をして、母親の金をあてにして生きている。そんな良多が、台風の一夜を経て、どう変わるのか、変わらないのか。深い余韻を残すラストが素晴らしい。

(文・沢宮亘理)

「海よりもまだ深く」(2016年、日本)

監督:是枝裕和
出演:阿部寛、樹木希林、真木よう子、小林聡美、リリー・フランキー

2016年5月21日(土)、丸の内ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gaga.ne.jp/umiyorimo/

作品写真:(c) 2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

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posted by 映画の森 at 09:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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