2016年01月18日

「最愛の子」ピーター・チャン監督に聞く 中国の幼児誘拐と親の葛藤「心で対話できる映画を」

最愛の子_撮影:吉田留美_640.jpg

 中国で多発する幼児誘拐事件を題材に、親子の愛を描く映画「最愛の子」が2016年1月16日に公開された。一人の子供の誘拐をめぐり、生みの親と育ての親が出会い、葛藤する物語。ピーター・チャン監督は「観客一人一人が心で対話できる映画を撮りたい」と語った。

 中国広東省深セン市。3歳の男児が突然姿を消した。両親は警察に届け、ネットでも情報提供を呼びかけるが見つからない。3年後。遠く離れた中国北部の村で息子は発見されたものの、別の女性に育てられ、実の親を完全に忘れていた。生んだ両親と育てた女性。どちらにとっても「最愛の子」を間に子供も揺れ動く──。

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 年間約20万人の子供が行方不明になる中国。原因として経済成長で拡大する都市と農村の格差、一人っ子政策による農村の人手不足などが指摘されている。チャン監督は深センで起きた実際の事件をフィクションに仕立てた。なぜ悲惨な事件が起きるのか。

 「封建主義や男尊女卑、農村の人手不足。農村に男は欠かせない。女の子は嫁げば労働力は一人減るが、男なら嫁をもらえば一人増える。1万元(約18万円)で買えるなら男の子を買うことが、なんとも思われていない。その結果、年に20万人の子供が誘拐されている」

 「映画では子を誘拐された夫婦も問題を抱えていた。彼らは経済発展である程度豊かになった中流の人々だ。よりよい生活、チャンスを求め、(深センのような)大都会に出てきた。しかし、豊かになったことで結婚生活がぎくしゃくし、いい親でなくなる。その隙に子供が誘拐されてしまう」

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 香港映画界を代表する作り手で、最近は中国で大作を次々手掛けるチャン監督。文化の違う中国で作る難しさを今も感じている。今回はキャスティング段階から「香港との差」を感じたという。育ての親を熱演したビッキー・チャオも決定まで曲折があった。

 「最初に打診した時は即答でOKだったが、脚本を読んで断ってきた。話を聞いたところ、部分的に納得できないというので調整した。俳優が役を引き受けるか断るか、理由はよく分からないことがある。私の推測だがテーマが幼児誘拐だったことも関連しているのだろう」

 チャオが演じたのは、子供を誘拐した側の女性。つまり平たくいえば悪役である。しかし、彼女にも事情があり、追い詰められていた。生きるために子供を受け入れ、わが子として育てていた。しかし中国では「誘拐する側に立つ」視点は受け入れられないという。

 「中国と香港、中国と外国、中国の人々と私の考え方の違いかもしれない。ビッキーは『誘拐された側の話は素晴らしい。涙が出切った。感動した』と言った。しかし、彼女が演じるのは誘拐した側の女性だ。普通なら誘拐は悪い。批判すればいい。だが私はそれは意味はないと思った。彼らはなぜ悪いことをしなけらばならなかったのか。理解して知ることが大事だ」

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 しかし監督いわく、理由がどうあれ中国では「誘拐犯に同情するような映画」は共感を呼ばない。だから「ビッキーの考え方は中国では主流だと思う」と監督。これに対し「誘拐側の役を演じたい」と言った有名俳優もいたという。

 「つまるところ考え方、価値観の違いだ。中国の俳優でも人によって違う。一般的にいえるのは、都会に住んでいる人たちは農民にマイナスイメージを持っている。わがままで自己中心的で、ずるくて強引、などという。作品を見てもまだ『誘拐犯はうそを言っている』という人がいる」

 実際の事件を元にした社会性の高い「最愛の子」。過去に「ラヴソング」(96)、「君さえいれば 金枝玉葉」(94)など、良質なドラマを生んできた監督の演出も冴え渡る。子を思う親の気持ちが胸に迫り、涙を流さずにはいられない。しかし、監督はこうも言った。

 「ビッキーが電話ごしに言ったんだ。『監督は社会的責任を持っている人ですね』と。いや違う。私はただ映画を撮る人間だ。私の映画は、私自身と心で対話ができなければならない。さらに観客一人一人が対話できれば、私にとっていい映画だ。年齢、時代によって異なる映画を撮る。異なる段階で、異なる対話が観客とできればいいと思う」

(文・遠海安)

「最愛の子」(2014年、中国・香港)

監督:ピーター・チャン
出演:ビッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー

2016年1月16日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.bitters.co.jp/saiainoko/

写真は東京フィルメックス事務局提供・撮影:吉田留美
作品写真:(C)2014 We Pictures Ltd.

posted by 映画の森 at 12:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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