2015年04月17日

「ザ・トライブ」音のない世界、交差する愛憎 全編手話の意欲作

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 ウクライナにある聴覚障害者の寄宿学校。表向きは平穏に見えるが、裏では極悪グループ(トライブ)が校内を牛耳り、売春や恐喝を行っている。転校生の少年は、早々に彼らの手荒な洗礼を受けるが、持ち前の腕力で試練を乗り切り、グループ内に居場所を得る。

 やがて少年は、トラック運転手を相手に売春する少女と親しくなる。少女はグループのリーダーの愛人だったが、少年とも関係を持ってしまう。純情な少年は少女に恋心をいだくが、自由を求める少女はイタリアへ脱出する準備で頭がいっぱいだ。少年は少女を必死で引き止めようとするが――。

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 悪の組織に組み込まれた少年が、恋におぼれて理性を失い、驚愕の行動に走るまでが冷徹なタッチで描かれる。出演者の会話は手話のみ。字幕やナレーションは付いていない。「少年や少女が何を考えているかは、表情や行動から読み取れ」と言わんばかりである。

 無字幕の映像に最初は戸惑いを覚える。だが、じっと見続けているうちに、少年の置かれた状況や少女への思いが理解できるようになってくる。確かに字幕は不要だ。喜び、怒り、悲しみ。少年の心に湧き起こるさまざまな感情は、表情や行動にはっきりと刻まれているからだ。

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 少女も同じである。少女は少年の求めに応じ、体を重ね合わせるが、心は重ねない。すれ違う感情は、少女の表情や行動に見て取れる。そんな少女の気持ちが最もむき出しになっているのが、中絶手術のシーン。非合法で堕胎を請け負う女を訪ね、薄汚れたバスルームで麻酔なしの手術を受ける。少女にとって、中絶はただの厄介払い。だから少しの躊躇(ちゅうちょ)もなく股を広げる。少女が全身から漂わせる乾ききった感情に、思わず背筋が寒くなる。

 そして少年の感情が最悪のレベルに達するクライマックス。粛々(しゅくしゅく)と計画を実行する少年の不気味さ。全身から発散される狂気と殺気。絶句するしかない。

 横長の画面を生かした見事な構図、人物を追って前進、後退、旋回する流麗なカメラワーク、熱のこもったリアルな演技。2014年のカンヌ国際映画祭で批評家週間グランプリを受賞するなど、世界各国の映画祭で評価された注目作である。

(文・沢宮亘理)

「ザ・トライブ」(2014年、ウクライナ)

監督:ミロスラヴ・スラボシュビツキー
出演:グレゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノヴィコヴァ

2015年4月18日(土)、ユーロスペース、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://thetribe.jp/

作品写真:(c)GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 (c) UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014
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posted by 映画の森 at 10:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | ウクライナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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