2014年02月19日

「パラダイス」3部作 「愛」「神」「希望」 オーストリアの異才ザイドル 女性の“逸脱”と精神のゆがみ

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 日常の狂気をリアルな映像で描き出した「ドッグ・デイズ」(01)で、世界に名を知らしめたオーストリアの異才、ウルリヒ・ザイドル監督。最新作「パラダイス」3部作は、夏休み中の女性3人の行動を通し、先進国のゆがんだ精神状況を、グロテスクかつユーモラスに浮かび上がらせる。

 「パラダイス:愛」は、オーストリアからケニアのリゾート地へ“セックス観光”に訪れた中年女性のテレサが、現地の若い黒人男と関係を持つ話。普段知的障害者を世話する仕事でたまったストレスを、黒人男性とのアバンチュールで解消しようとするテレサ。ところが、ロマンチックな恋にこだわるあまり、なかなか思い通りの相手に出会えない。

 ようやく見つけた理想の男は、何やかやと理由を付けて金をせびってくる。裕福な先進国からやってきた自分と、貧しい途上国の黒人男。負い目のあるテレサは断ることができない。だが、この黒人男、白人女性を食い物にして生活している筋金入りの詐欺師だった――。

 たっぷり脂のついた50代の白人女性と、痩身の黒人男性との情事。しかも親子ほどの年齢差。異様な眺めと言ってよい。だがセックス観光は、アフリカのリゾート地などで普通に存在する。多少のデフォルメはあるものの、先進国と途上国との関係を象徴する現実の風景なのである。

 白人と黒人、肥満と痩身、裕福と貧困。鮮やかな二項対立が、現代社会の矛盾とゆがみを表現。ザイドル監督ならではの直截(ちょくせつ)で生々しい描写が、見る者に否応なく現実を直視させる。

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 「パラダイス:神」は、敬虔なカトリック信者であるアンナ・マリアが、休暇を取って“布教活動”に精を出す話。マリア像を携えて郊外の移民宅を訪問し改宗を勧め、帰宅すると壁に飾られた十字架のキリスト像に祈りを捧げる。そんな毎日にアンア・マリアは精神的充実を感じていた。 

 ところが、ある日、別居していたエジプト人の夫が2年ぶりに帰ってくる。イスラム教徒の夫に対し、冷淡な態度を見せるアンナ・マリア。家庭内“宗教戦争”が勃発する――。

 人々の罪をわが身に引き受け、半裸になって自らをむち打つ場面、祈りを唱えながら、ひざまずいた格好で家の中を歩き回る場面に漂う静かな狂気。信仰の対象が性愛の対象へと変貌する不気味さ。ザイドル作品のミューズとも言うべきマリア・ホーフステッターの演技が強烈だ。

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 「パラダイス:希望」は、思春期の少女メラニーが、“ダイエット合宿”に参加し、父親ほども年の離れた医師に恋をする話。先進国に共通する飽食と肥満の問題が、一人の少女の初恋エピソードに絡めて描かれる。3作の中で最も明るいムードに満ち、タイトル通り“希望”を感じさせる。

 それぞれ独立した作品だが、登場人物にはつながりがある。テレサはアンナ・マリアの妹であり、メラニーはテレサの娘。「パラダイス:愛」には3人が一堂に会する場面もある。当初は長大な1本の作品として構想したが、編集段階で三つに分けたそうだ。各作品の完成度を見れば、正解だったことが分かる。

「パラダイス:愛」は2012年のカンヌ国際映画祭、「パラダイス:神」は同年のベネチア国際映画祭、「パラダイス:希望」は13年のベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品。「パラダイス:神」は審査員特別賞を受賞した。ミヒャエル・ハネケと並びオーストリアを代表する名監督ザイドル。重量級の傑作が3本一挙に見られるのはありがたい。

未公開作「インポート、エクスポート」(07)も特別上映。オーストリアとウクライナの若者がたどる過酷な道筋を描いている。

(文・沢宮亘理)

「パラダイス:愛」(2012年、オーストリア・独・仏)
監督:ウルリヒ・ザイドル
主演:マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング)

「パラダイス:神」(同)
監督:ウルリヒ・ザイドル
出演:マリア・ホーフステッター、ナビル・サレー)

「パラダイス:希望」(同)
監督:ウルリヒ・ザイドル
出演:メラニー・レンツ、ジュセフ・ロレンツ

「インポート、エクスポート」(2007年、オーストリア・独・仏)
監督:ウルリヒ・ザイドル
出演:エカテリーナ・ラック、ポール・ホフマン

2014年2月22日(土)、ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.paradise3.jp/

作品写真:(c)Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema
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posted by 映画の森 at 13:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | オーストリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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