2013年05月25日

「GF*BF(原題:女朋友。男朋友)」 ヤン・ヤーチェ監督に聞く 台湾激動の30年 男女3人の愛と葛藤、性差を超えた寛容 「自由を求め、本当の愛を手に入れる。“愛の自由化”が根底に流れるテーマ」

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 レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)など性的マイノリティーに焦点をあてた第4回アジアンクィア映画祭が5月24日、東京・シネマート六本木で開幕した。24〜26日と31日〜6月2日の計6日間、長短編計27作品を上映する。韓国イ=ソン・ヒイル監督の最新作「あの夏、突然に」など3部作を一挙上映するほか、タイのトランスジェンダー(出生時と違う性で生きようとする人)の恋を描いた「愛なんていらない」など幅広いラインナップとなっている。

第4回アジアンクィア映画祭 前売り早々に完売

 中でも注目は台湾・楊雅[吉吉](ヤン・ヤーチェ)監督の「GF*BF(原題:女朋友。男朋友)」だ。男女3人の30年にわたる愛と葛藤を、学生運動や民主化など台湾社会の変化とともに描く。主演の桂綸[金美](グイ・ルンメイ)は今年、台湾最高の映画賞・台湾金馬奨で最優秀主演女優賞を獲得。日本では大阪アジアン映画祭(3月)で初上映されて反響を呼び、今回も前売り券が早々に完売した。

 ヤン監督は71年生まれ。子供たちを主人公にしたファンタジー「Orzボーイズ!」(08)で長編デビューした。「セデック・バレ」(11)の魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督と同世代で、台湾映画界の中核を担う作り手の1人。大阪アジアン映画祭で来日したヤン監督に話を聞いた。

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×××××

「友人たちが語り始めた秘密。ほこらに向かって話すように」

 30年。長い長い物語は、友人の問わず語りから始まった。

 「学生時代、僕は友達と距離を置くタイプだった。ところが30歳を過ぎたころ、彼らが急に秘密を話してくれるようになった。まるで木のほこらに向かって話すようにね。僕にはどう慰めていいか分からなかった。『理解できる。分かるよ』とだけ言ったんだ」

 1985年、台湾南部・高雄。メイベル(グイ・ルンメイ)、ライアム(ジョセフ・チャン=張孝全)、アーロン(リディアン・ボーン=鳳小岳)は同じ高校に通っている。メイベルはライアムに、アーロンはメイベルに恋していた。思いが届かず悩むメイベルは、アーロンの願いを受け入れ交際を始める。しかしある時気付いてしまう。自分を拒んだライアムの視線が、ずっとアーロンを追っていることを。

 高校から大学へ進み、社会に出る中で、3人は苦しい関係を続けていく。別の女性と結婚したアーロンと、愛人関係を続けるメイベル。妻子ある男の恋人と別れられないライアム。「僕のつらさを分かってくれるのは、世界でお前だけだ」。違う相手に同じ言葉でしばられる2人。出口が見えぬ中、メイベルは一人ひそかにある決断をする。それは傷付いた自分たちを包み、許し、解放する愛だった──。

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主演のグイ・ルンメイとジョセフ・チャン 「俳優になる前から知っている」

 胸の奥がひりひり痛むような物語で、10代から40代までを演じきった主演の3人。ヤン監督はグイ・ルンメイ、ジョセフ・チャンの成長を、10年以上にわたって見つめてきた。出会いは青春映画の傑作「藍色夏恋」(02)。当時ヤン監督は助監督で、オーディションに参加した2人はまだ高校生だった。

 「俳優になる前の彼らも、素顔も知っている。今回もきっとやれると自信があった。キャスティングで改めて2人に会った時、彼らの目の中に高校時代の姿が見えた。俳優には『自分を感動させてくれ』とだけ言うんだ。偽物の涙にはまったく心が動かない。スクリーンの中の彼らの演技や感情が、本物であることだけを望んだ」

 3人は台湾社会の激動の中で成長する。90年代前半、民主化を求める学生運動が拡大。台北中心部・中正紀念堂の広場に学生たちが座り込む。さらに90年代後半には、ゲイカップルが華やかな結婚パーティーを開く。

 「盛り込んだエピソードは、ほとんど現実に起きたこと。僕は高校、大学を学生運動とともに過ごした。ゲイカップルの結婚式も実際の話。台湾で同性婚はまだ法的に認められていないが、家庭を持ち、子供を育てるカップルは増えている。同性愛者が認められることは、愛が自由化されたことと同じ。自由を求め、本当の愛を手に入れる。それが作品の根底に流れるテーマだ」

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学生運動から民主化へ 激動の30年「台湾人には反抗心がある」

 一方でヤン監督は、日本以上に急速に社会変化が進む台湾に「無常感が広がっている」とも感じている。民主化も実現し、経済成長も続き、生活レベルは向上した。しかし、人々の間に沈んだ空気が広がっているという。

 「日本の人たちも過去に経験したのではないか。学生運動を経て、社会は変わったけれど、人々は『こんなはずではなかった』と思う。頑張ったけれど、どこかむなしい。追ってきた夢が変わってしまったのだ、と」

 それでもヤン監督は「異議を唱える」ことをやめない。台北近郊で建設が予定され、トラブル続きで完成が遅れている「第4原発」。計画中止を求める活動に、俳優や監督ら多くの映画関係者とともに参加。毎週末にデモを行い「政府が原発をやめるまで続ける」と言葉に力を込める。

 「もう政治にはだまされない。皆が気概を持つようになった。台湾人の心には、反抗心が備わっている。台湾は移民社会だ。清朝に反して大陸から逃れた人々、国共内戦後に大陸から来た国民党の人々もいる。もともとお上に従うのが嫌いで、あまり従順ではないんだ」

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好きな作家は向田邦子 感動は「ポケットに入れて」温める

 厳しい言葉を並べるヤン監督だが、「GF*BF」を支えるのは大きく深く、温かい寛容の精神。丁寧な語り口には小説を読むような味わいもある。事実「映画を見るより読書が好き」だそうで、好きな作家に挙げるのは向田邦子。5年前、デビュー作「Orzボーイズ!」(08)のインタビューでも語っていた。

 「日本の小説をよく読む。向田邦子はとても好きで、台湾で翻訳本が出るたびに読んだ。日本の小説の雰囲気は、中国や台湾とまったく違う。言葉は劇的でも、激しくもない。日本人は観察力が鋭く、注意深く、ささやかなものに目を止める。物の見方、考え方も独特で、いつも驚かされる。僕は感動したり、心が動いた経験を、すぐには表に出さない。しばらくポケットに入れておいて、ある時に取り出して表現するんだ」

 これまで30年、監督自身が見てきた台湾社会の変化。作品の種となった友人の問わず語り。ひそやかなささやきはポケットに入れられ、時間をかけて熟成された。「GF*BF」で最後にメイベルは、一人きりの決断を下す。台湾での公開時、グイ・ルンメイは「定義できない大きな愛」と表現し、感極まって涙をこぼした。

 長い葛藤を経た3人の愛。ゆっくりと温かく、観る者を包むだろう。

(文・写真 遠海安)

「GF*BF(原題:女朋友。男朋友)」(2012年、台湾)

監督:楊雅[吉吉](ヤン・ヤーチェ)
出演:桂綸[金美](グイ・ルンメイ)、張孝全(ジョセフ・チャン)、鳳小岳(リディアン・ボーン)、張書豪(チャン・シューハオ)

第4回アジアンクィア映画祭で5月25日、6月2日に上映。当日券あり。作品の詳細、映画祭の上映スケジュールは公式サイトまで。

http://aqff.jp/2013/index.php

作品写真:(c)2012 ATOM CINEMA CO., LTD. OCEAN DEEP FILMS CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION HUAYI BROTHERS INTERNATIONAL MEDIA LTD
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posted by 映画の森 at 13:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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