2013年05月24日

「百年の時計」 老芸術家の初恋 香川舞台にノスタルジックに

百年の時計.jpg

 世界的に有名な芸術家である安藤行人が、久々に故郷の高松を訪れる。学芸員の神高涼香から熱烈なラブコールを受け、初の回顧展を開くことになったのだ。憧れの芸術家を迎えて張り切る涼香。しかし、肝心の行人は子どものようにふざけてばかり。年老いた芸術家は、創作に対する情熱をなくしているようだった。

 このままでは展覧会で発表する新作の完成もおぼつかない。焦りを募らせる涼香に、行人は古びた懐中時計を見せる。若い頃にある女性からもらったものだった。彼女を見つけ出してくれたら、新しいアートが生まれるかもしれない。行人の言葉に涼香はうなずくと、さっそく女性を探し始める――。

 人生の終幕にさしかかった芸術家が、長い間封印してきた初恋の記憶を解き放つ。気まぐれでわがままな芸術家の純情な内面が、次第に浮き彫りにされる展開が感動的である。「ロボジー」(12)に続き、ミッキー・カーチスが老境を迎えた人間の揺れる思いを絶妙に演じている。

百年の時計2.jpg

 100年の時を刻んできた古時計。100年間、走り続けてきた“ことでん(高松琴平電気鉄道)”。これらが醸し出すノスタルジックなムードが、行人のほろ苦い思い出を優しく包み込む。

 “ことでん”は行人が恋に落ちた場所だが、涼香と運転士の恋の舞台でもある。映画は行人が若き日の恋へと回帰していくプロセスに、涼香の恋を重ね合わせていく。世代の離れた2つの恋物語を、“ことでん”がつなげ、クライマックスへと収斂(れん)させていくのである。

 行人は、そんな“ことでん”を、展覧会で披露するインスタレーションの空間として使うことを思いつく。“ことでん”に百年の歴史を詰め込み、それを乗客に体験させるアイデアだった。反対する鉄道会社を押し切り、涼香はプランを実現させる。インスタレーションを乗客が体験する場面も含め、映画のハイライトといえる。

百年の時計3.jpg

 ヒロインの涼香に扮するのは、「20世紀少年」シリーズ(08〜09)の小泉響子役で注目を浴びた木南晴夏。涼香の父親役には井上順。行人に頼まれ涼香が探す女性の役には水野久美。水野とミッキー・カーチスは、岡本喜八監督の「どぶ鼠作戦」(62)で共演しているが、それ以来の顔合わせか。往年のスターが今も輝いている姿を見るのはうれしい。

 監督は「デスノート」(06)、「プライド」(09)の金子修介。オール香川ロケによる美しい風景を全編に散りばめ、見ごたえあるラブストーリーに仕上げている。

(文・沢宮亘理)

「百年の時計」(2013年、日本)

監督:金子修介
出演:木南晴夏、ミッキー・カーチス、中村ゆり、小林トシ江、水野久美、井上順

2013年5月25日、テアトル新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://100watch.net

作品写真:(c)さぬき地産映画製作委員会/真鍋康正 小松尭 大久保一彦 金子修介 金丸雄一
タグ:レビュー
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック