2013年04月18日

「セデック・バレ」 ウェイ・ダーション監督に聞く 台湾の抗日蜂起・霧社事件 4時間半の大作に 「憎しみをどう解消するか。当時の視点で見つめ、考えてほしい」

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 1930年、日本統治下の台湾。圧政に不満を募らせた原住民セデック族が武装蜂起し、日本人130人以上を惨殺した。日本軍はただちに報復を始め、圧倒的な武力で鎮圧。セデック族ら住民1000人以上が犠牲となった──。

 台湾原住民による大規模抗日暴動“霧社事件”を描いた台湾映画「セデック・バレ」。第1部「太陽旗」、第2部「虹の橋」、計4時間36分の大作だ。魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督は「憎しみをどう解消するか。登場人物がどんな状況に置かれ、なぜあんなことをしたのか。当時の視点で見つめてほしい」と語った。

 主なやりとりは次の通り。

「日本で受け入れられるか不安だった。どうしても完全版を見てほしかった」

 ――昨年の大阪アジアン映画祭で上映され、「観客賞」を受賞した。日本で受け入れられる確信はあったか。

 正直、不安だった。上映中は会場を一歩も離れず、観客の様子をうかがっていた。終了間際にそっとスクリーン脇からのぞいてみると、エンディング・クレジットが流れても、誰ひとり席を立とうとしない。場内が明るくなって、一斉に拍手がわき起こった。ロビーのポスター前では多くの人たちが記念撮影していた。その時「ああ、受け入れてもらえたんだな」と思った。台湾に戻って2日後、観客賞を獲ったと連絡を受けた。

 ――台湾以外では2時間半のインターナショナル版を公開している。日本では台湾と同じ4時間半の完全版だ。

 興行的に見れば4時間半は長すぎる。海外上映用にインターナショナル版を作ったが、日本の観客にはどうしても完全版を見てもらいたかった。映画のテーマは「憎しみをどう解消するか」。それを理解するには、完全版を見る必要があると思ったからだ。

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「人は時代の流れに逆らえない。完全な善人、完全な悪人は出てこない」

 ――日本の観客には作品をどう見てもらいたいか。

 登場人物一人ひとりが置かれた状況を、当時の視点で見つめてほしい。なぜ彼らはあんなことをしたのか。人は時代の流れに逆らえない。この映画には絶対的なヒーローは登場しない。完全な善人も、完全な悪人も出てこない。時代の流れの中で、彼らの行動は避けられないものだった。それを理解し「憎しみをどう解消するか」を考えてもらいたい。

 ――全編にわたり残酷な描写が多い。

 殺りくシーンが多すぎるとは言われた。首をはねる場面が繰り返され「血なまぐさい」と。確かに初めて首狩りを見ると、ぎょっとするかもしれない。しかし繰り返されるうちに慣れてきて、首狩りは原住民の文化だと分かってくる。そうすれば、霧社事件の大虐殺に目を背けることはないと思う。

 「もう少し控えめに描写できないか」という声もあったが、控えめに描いたら霧社事件ではなくなる。霧社事件は血なまぐさいものなのだ。だからこそ、事件が起きる前段階で原住民の文化である「首を狩って、魂を血で洗い清め、虹の橋を渡る」過程を、きちんと紹介する必要があった。

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「借金しながらの撮影。投資者が現れたのは、公開直前だった」

 ――二百数十日間にわたる過酷な環境での撮影で、けが人も続出したと聞く。特に苦労したことは。

 撮影現場はほとんど台湾の山岳地帯だ。人が立っていられないような場所に機材を置き、歩けないような道を俳優は走り抜けなければならない。当然多くの負傷者が出たが、大けがはなく、撮影に支障はなかった。

 時間はたっぷりかけ、人手も注ぎ込んだので、解決できない問題はなかった。苦労したのは資金。製作費は7億台湾ドル(約20億円)かかるのに、投資はゼロ。借金しながら撮影した。何百人もの俳優の給料が2カ月、3カ月払えない。申し訳なさでいっぱいだった。

 山で映画を撮っていることを台湾の人たちは知っていたが、完成していい作品になるとは誰も思っていなかった。だから投資してくれない。それが最大のプレッシャーで最大の困難。ようやく投資者が現れたのは、映画の公開直前だった。

 ――ジョン・ウー監督が共同製作者に名を連ねている。

 映画全体のコンセプト作りや技術面で、ウー監督は大きな力になってくれた。特にアクション撮影ではさまざまなアドバイスをもらい、とても力になった。

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「次は3本同時撮影。400年前の台湾を、3つの視点で描きたい」

 ――次作の予定は。

 来年の今ごろには新作準備に入っていると思う。3本同時にクランクインする。400年前の台湾を3つの視点で描く作品だ。第1がオランダ人の視点。第2が漢民族の海賊の視点。第3が台湾の平地に暮らす原住民の視点。それぞれ台湾に縁の深い生物を絡める。

 オランダ人は“蝶”。華麗に登場するが、寿命は短い。わずか30年で島から姿を消した。漢民族の海賊は“鯨”。本来は海で生活する人々だ。平野に暮らす原住民は“鹿”。いにしえの台湾は平野に芝が繁り、鹿が多く生息していた。鹿の群れが消えた時、平地に暮らす原住民も消えてしまった。

 3本ともオランダ人の到来で始まり、明の鄭成功(てい・せいこう)の上陸で終わる。各作品の登場する人物は関連があるので、同時撮影でコストを削減する。3本別々に見てもいいし、一緒に見てもいい。期待していてほしい。

 撮り終わったころには、私はすっかり老いているだろう。もしかしたら、人生最後の作品になるかもしれない(笑)。

(文・沢宮亘理 写真・遠海安)

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「セデック・バレ」(2011年、台湾)

監督:ウェイ・ダーション
出演:リン・チンタイ、ダーチン、安藤政信、マー・ジーシアン、ビビアン・スー、木村祐一、ルオ・メイリン、ランディ・ウェン

4月20日、渋谷ユーロスペース、吉祥寺バウスシアターほかで全国順次公開。「第一部:太陽旗」「第二部:虹の橋」同時上映。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.u-picc.com/seediqbale/

写真2:現在の霧社。静かな山あいの村だ=いずれも台湾・霧社で2012年9月、遠海安撮影
写真3:霧社事件の現場となった学校跡地
写真4:蜂起を指揮した原住民の指導者モーナ・ルダオの銅像。背後に抗日蜂起記念碑が見える
作品写真:(C) Copyright 2011 Central Motion Picture Corporation & ARS Film Production ALL RIGHTS RESERVED.
posted by 映画の森 at 17:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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