2013年02月10日

「空を拓く 建築家・郭茂林という男」 酒井充子監督に聞く 「日本人であるとはどういうことか。台湾の人々に気付かされた」

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 1968年。日本で初めて高さ100メートルを超す超高層の「霞が関ビル」が誕生した。以来十数年、世界貿易センタービル(浜松町)、京王プラザホテル(新宿)、サンシャイン60(池袋)、新宿副都心開発──。計画の中心にはいつも台湾生まれの建築家・郭茂林(かく・もりん)がいた。

 郭は日本統治時代の台湾に生まれ、日本へ移住。高度成長期に数々のプロジェクトで指揮をとった。台湾でも多くの高層ビル建設や都市開発計画を手がけ、90歳直前の2010年、故郷への旅に出る。日本と台湾で建築に生涯を捧げた郭の旅に、ドキュメンタリー映画「空を拓く 建築家・郭茂林という男」のカメラが同行する。

 デビュー作「台湾人生」(10)でも、日本統治時代に教育を受けた台湾“日本語世代”を追った酒井充子監督。「日本人であることとはどういうことか。台湾の日本語世代に気付かされた」と語る。

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 主なやり取りは次の通り。

「第一印象はかわいらしい人。人を引き付ける魅力があった」

 ──郭さんの第一印象は。

 かわいらしい人。「台湾人生」を観た人に「こんな人がいる」と紹介された。事前に面識はなかったが、霞が関ビル、副都心、サンシャインを作った人と聞き、どんな人かなと思っていたが、すごくお茶目だった。初めて会ったのは88、89歳ぐらいの時。人を引き付ける魅力があった。

 ──撮影では郭さんの最晩年を追った。もう少し撮りたかったのでは。取材で苦労はあったか。

 郭さんの台湾への旅(10年)の前に、台湾に住んでいた若い時代の話は集中的に聞いた。でも、戦後の日本での仕事についてほとんど聞けていない状況だった。台湾の母校で当時の通知表を見せてもらったが、奇跡的な幸運だった。台湾では戦後、日本時代の物の多くが捨てられた。郭さんの母校では、当時の校長先生が屋根裏に日本時代の資料を隠していた。一定の時間が過ぎた後、出してきたそうだ。

 ──普段は温厚そうな郭さんだが、仕事中はプロの顔を見せる。

 建築のことになると、ぱっと視線が変わった。現役時代はすごみを持った人だったのでは。

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「台湾は身が引き締まり、背筋が伸びる場所」

 ──日本統治時代を知る台湾の高齢者が、2作品続けて主人公。こだわりなのか。

 こだわっている。台湾の日本語世代からは、教わることや気付かされることが多かった。とても単純なことだが「日本人である」こととは、どういうことか。以前は考えたことがなかった。台湾で「僕は昔、日本人だったよ」という人に会うことで、自分が日本人であることを自覚する。台湾で日本が何をしてきたのか、考えるきっかけにもなった。

 台湾は身が引き締まり、背筋が伸びる場所でもある。(過去や歴史を語ることについて)「台湾人生」を撮り始めた1990年代は、現地の人の間に「大きい声では言えないけれど」と声をひそめる空気があった。ここ10年ぐらいで環境も変わってきているようだ。

 ──日本人はそんな台湾と、どう付き合えばいいと思うか。

 個人的には、国として認めなければならないと思う。台湾の人たちは残念に感じている。国連にも加盟できていない。国交がある国は限られている。もちろん「現状維持でいい」という人が大半。でも、いつか台湾の人々が「僕たちは国としてやります」と言った時、日本人がサポートできればいいなと思っている。

×××××

 郭茂林(かく・もりん) 1921年台北生まれ。台北工業学校(現・台北科技大学)で建築を学び、日本人の恩師の勧めで日本へ移住。戦後は日本国籍を選択。東京大学建築科で研究生活を送り、高度成長期の超高層ビル計画に次々と携わった。台湾でも台北駅地区再開発など多くのプロジェクトを手がけた。2012年4月死去。

 酒井充子(さかい・あつこ) 1969年山口県生まれ。慶応大学法学部卒業後、96年に北海道新聞社入社。98年に初めて台湾を訪れ、2000年に現地取材を開始。台湾の日本語世代を追ったドキュメンタリー「台湾人生」(09)で監督デビュー。現在台湾や横浜を舞台に3作目を撮影中。 

(文・写真 遠海安)

「空を拓く 建築家・郭茂林という男」(2012年、日本)

監督:酒井充子
出演:郭茂林、李登輝、藤森輝信

2月2日から、渋谷ユーロスペースでモーニングショー。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.sorahiraku.com

作品写真:(C)特定非営利活動法人ベーシックライフインフォーメーション協会/郭茂林ドキュメンタリー映画製作実行委員会
posted by 映画の森 at 12:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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