2012年12月25日

第13回東京フィルメックス 監督インタビュー(2)審査員特別賞「記憶が私を見る」ソン・ファン監督 「親の世代の生活様式、価値観を残したかった」

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 映画の森では2012年を締めくくり、第13回東京フィルメックス(11月23日〜12月2日)のため来日したアジアの監督インタビューをお届けします。第2回はコンペティション部門で審査員特別賞を授賞した中国映画「記憶が私を見る」の宋方(ソン・ファン)監督です。

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 中国江蘇省南京市のある家庭を舞台に、帰省した娘と両親、親せき、隣人たちの会話を通し、過去の記憶、世代間の温度差、価値観の変化を描く。話し言葉を中心とした物語構成、静かで落ち着いた視線が印象的な作品だ。俳優として台湾・侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」(07)への出演経験もあるソン監督は、「親の世代の生活様式、価値観を残したかった」と話す。製作総指揮は中国ドキュメンタリー映画界を代表する賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督が務めている。

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 主なやり取りは次の通り。

 ──映画の道に入った経緯は。

 私は1978年、江蘇省徐州市で生まれた。炭鉱が集まる町で、両親は医師だった。2歳で少し大きな都市に移り、12歳で南京に引っ越した。

 大学入試でいい成績が取れず、不本意な学科に入ったため、自分が望んだ専攻ではなかった。在学中に(ダニー・ボイル監督の英国映画)「トレインスポッティング」(96)を見て衝撃を受け、映画なら自己表現ができると思った。

 映画作りを学びたかったが、国内には自分の希望に合う大学はない。初めはフランスの映画学校に行きたかったが、経済的な事情でベルギーの学校に進んだ。

 ──南京を舞台にしたのは、育った場所だからか。

 南京には今も両親が住んでいる。中国の親の世代の独特な生活様式、価値観を大事にしたかった。彼らはとても苦労した世代。若い時につらい目に合い、生活も苦しかった。しばらくして落ち着いたら、今度は親の世代を見送り、子供も大きくなって、気付いた時には自分たちが老いに差し掛かっていた。

 そんな人々の人生を、とてもいとおしく思う。彼らには人と人とのつながりを大事にする価値観がある。急速な経済発展で、中国人独特の生活習慣は失われつつある。

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 ──自ら主演した理由、俳優の選び方は。

 (親せきなど)他の出演者もみな私の家族。それぞれ自分自身を演じている。主役は他人の起用も考えたが、南京方言が話せて、両親と親子の雰囲気を出すのは難しい。自分でやるのが一番だと思った。

 ──事前に両親からいろいろ話を聞いたというが、意外だった話はあったか。

 脚本を書くために材料を集めたが、無理やりインタビューして聞き出したわけではない。数年間、何度か帰省するたび、両親と交わした自然な対話が材料になった。撮影場所は実家。近所もよく知っている場所。素人に演じてもらうため、慣れ親しんだ空間にした。

 ──台詞と台詞の「間」が絶妙だった。計算したのか。

 私自身が話す時の間に敏感なタイプ。(間を)完全にコントロールしたとはいわないが、少しは考慮した。自分が出ていないシーンも「これぐらいの間で」と指示した。

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 ──ジャ・ジャンクー、ホウ・シャオシェン監督から学んだこと、そばで仕事を見て印象に残ったことは。

 ホウ監督は本当にすごい人。今の年齢に至るまでさまざまな経験を重ね、すべてが映画に結集している。2005年、釜山国際映画祭のワークショップで出会った。監督が講師、私が生徒。作った短編を批評してもらったが、監督の言葉はすべてぴたり的を射ていた。当時監督は「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」の脚本を執筆中で、出演を打診された。

 ジャ監督は時にプレッシャーを与えてくれる。頭の中にある構想をどんどん実現する人。経験豊かで物事に対する勘が良く、人間的にも素晴らしい。才能あふれる人なので、一緒にいると「自分はまったく及ばない」と感じてしまう。私はゆっくり、自分なりの映画の道を探したい。

 ──次に撮りたいテーマは。

 また具体的なことは決まっておらず、考えている最中。いい映画とは、真実を信じさせる映画だと思う。作品を見ると素直に中に入ることができ、嘘っぽくなく、感情を反映させ、共感を得られるような作品だ。

 宋方(ソン・ファン) 1978年、中国江蘇省徐州市生まれ。2002年からベルギー国立芸術大学INSASで映画製作を学び、08年に北京電影学院監督科卒業。卒業製作短編「告別」が、カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門2位。07年「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」に出演。11年、ジャ・ジャンクー監督製作のオムニバス・ドキュメンタリー「我が道を語る」のエピソード2つを監督。「記憶が私を見る」で長編監督デビューし、ロカルノ国際映画祭で新人監督賞を獲得した。

(文・写真 遠海安)

「記憶が私を見る」(2012年、中国)

監督:ソン・ファン
出演:イェ・ユーチュー、ソン・ディージン、ソン・ファン、ソン・ユェン

作品写真:東京フィルメックス事務局提供
posted by 映画の森 at 09:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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