2012年12月24日

第13回東京フィルメックス 監督インタビュー(1) 「愛の身替わり」エミリー・タン監督 「中国の農村には、抑圧された女性が多い。彼女たちへの同情を込めた」

「愛の身替わり」エミリー・タン監督.jpg

 映画の森では2012年を締めくくり、第13回東京フィルメックス(11月23日〜12月2日)のため来日したアジアの監督インタビューをお届けします。第1回は中国映画「愛の身替わり」のエミリー・タン監督です。

×××××

 建設現場の責任者として働くヨングィ。その一人息子が、隣に住む雑貨屋のフーマンの荷車に乗り、交通事故で死んでしまう。妻のユンチェンは不妊手術をしていて、もう子供は産めない。逆上したヨングィは、息子の身替わりを産ませるため、フーマンの妻と無理やり肉体関係を持つ――。「愛の身替わり」のエミリー・タン監督は、「抑圧された女性に対する同情心を作品に込めた」と語った。

 主なやりとりは以下の通り。

 ――「完美生活」から4年ぶりの新作となる。

 撮り始めたのは「完美生活」の直後。2カ月ほどでクランクアップした。ところが、編集段階で出資者とトラブルがあり、作業が中断してしまった。再開したのが2011年の年末。結果的に4年かかってしまった。

 ――撮影そのものは順調に進んだのか。

 結末が何パターンも考えられるので、どう決着させるかで迷ったことはあった。決断しかねて足踏みした期間を含めての2カ月。実質的な撮影期間はもっと短かった。

 ――物語のモデルになった事件があると聞いた。

 モデルとなった事件は二つある。一つは代理出産をめぐる事件。もう一つはレイプ事件。後者では相手の女性に同意があったかどうか、つまりレイプにあたるかどうかが問題になった。映画の中で、ヨングィは「子供が死んで自分の家はもう終わりだ」と言っている。チャオユーがその言葉に動かされ、肉体関係を持ったかどうかが問題になる。実際の事件では、レイプされた女性が相手の男性に好感を持つようになるが、理由がなかった。そこで「子供が事故で死んだ」設定をオリジナルに作った。

「愛の身替わり」.jpg

 ――「完美生活」と同じく悲観的な結末だ。ヨングィとチャオユーが愛を育み、ハッピーエンドにもできたのでは。

 確かにそういうパターンも考えられた。ヨングィと妊娠したチャオユーが一緒に暮らす中で、夫婦のような感情が芽生えてくる。脚本に従って“順撮り”していったので、ヨングィ役のチェン・タイシェンとチャオユー役のヤン・シューティンも、このままうまくいくのではと思ったかもしれない。

 ――結末は俳優に知らせなかったのか。

 最後まで知らせなかった。でも、それはヨングィを演じたのがチェン・タイシェンだからできたこと。彼は俳優としての技術が優れており、私の撮り方が分かってる。結末を知らなくてもうまくやってくれると思っていた。しかし、さすがの彼も心配になったのか、「最後は僕たちどうなるんですかね」と聞いてきた。私は「それは言えない」と答えた。

 ――チャオユー役のヤン・シューティンの演技もよかった。

 彼女は新人で、中国人民解放軍の芸術学院を卒業したばかりだった。恥ずかしがり屋で内向的なタイプ。でもすごく頑張り屋で、一生懸命演じてくれた。妊娠したシーンのためにお腹に詰め物をして、どうやって歩けばいいか、熱心に練習していた。

 ――二人の息が合っていた。

 二人を組み合わせることで、好ましい化学反応が起こった。ヤンはチェンにリードされる形で芝居をした。そのことは、ヨングィがチャオユーを支配していく物語展開にマッチしたと思う。

 ――チャオユーの結婚生活がとても惨めに描かれている。

 チャオユーの夫のフーマンは、妻を自分の付属物と考えている男。「とにかく俺の言うことを聞け」と、自分の考えを妻に押し付けようとする。チャオユーはそんな夫に不満を抱いている。ヨングィと妻のユンチェンとの関係も同じようなもの。ユンチェンがヨングィに電話すると、彼はうるさそうに「今忙しいから」と答える。ユンチェはヨングィに対し、いつも遠慮しながら話しかける。とても対等な立場とはいえない。中国の農村では、チャオユーやユンチェンのように抑圧されている女性が多い。そういった女性に対する同情心がこの作品には込められている。

 ――「完美生活」と比べると構造がシンプルで分かりやすい。

 語りたい内容が複雑なので、語り口はシンプルにすることが大事だと思った。先ほど質問があった結末についても、観客にそれぞれ考えを巡らせてもらいたい。そのためにも、物語の構造は分かりやすいものにする必要があった。

 ――次回作はドキュメンタリー作品とのことだ。

 ドキュメンタリーの中に20分間の劇映画を組み込む。すでに撮影は終わっていて編集段階。来年早いうちに完成するはず。いい作品になると思います。

 エミリー・タン 1970年、中国四川省に生まれ、北京で育つ。北京大学でフランス文学・フランス語を学んだ後、中国国立芸術大学で演劇を専攻。97年、中国中央電視台(CCTV)でドキュメンタリーを製作・監督。98年には中央戯劇学院の監督コースを受講する。2001年、初の長編劇映画「動詞変位(Conjugation)」を発表。ロカルノ映画祭コンペティション部門に選ばれ、スペシャル・メンションを獲得。同年、香港に移住。監督第2作の「完美生活」は、ベネチア国際映画祭でオリゾンティ部門に出品され、東京フィルメックスでも上映された。

(文・写真 沢宮亘理)

「愛の身替わり」(2012年、中国)

監督:エミリー・タン
出演:チェン・タイシェン、ヤン・シューティン、リャン・ジン、ガオ・ジン

作品写真:東京フィルメックス事務局提供
posted by 映画の森 at 09:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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