
史上最高の劇作家と言われるウィリアム・シェイクスピア。しかし、その生涯は謎だらけだ。豊富な知識や教養はどこで身につけたのか。そもそも高等教育は受けたのか。劇壇デビューはいつだったのか。記録が一切残っていないのである。
そこで生まれたのが、“シェイクスピア別人説”だ。実は傑作の数々はシェイクスピアの名を借りて別人が書いたのではないか――。劇作家クリストファ・マーロウ、哲学者フランシス・ベーコン、外交官ヘンリー・ネヴィル。何人もの候補者が浮上した。最も有力視されているのが、オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア。本作の主人公である。
なぜエドワードは自分が作者であることを隠さなければならなかったのか? 戯曲を書き続けた目的は何だったのか? 16世紀末、王位継承をめぐる陰謀を背景に、一人の貴族がたどった数奇な運命が描かれる。

エドワードが“偽の作者”として白羽の矢を立てたのは、当時の人気劇作家、ベン・ジョンソンだった。ところが、思わぬ伏兵が現れる。役者のウィリアムである。作者の登場を求める観客の前に飛び出し、自分だと名乗り出たのだ。呆気にとられるエドワードだが、異議を唱えるわけにもいかない。かくして劇作家ウィリアム・シェイクスピアが誕生する。しかもウィリアムは、この“秘密”をネタに、エドワードから金をせびり続けるのである。何ともひどい男だが、ありそうな話ではある。
しかし、これは序の口。本当の面白さはこの先だ。王位継承をめぐる政敵との駆け引き。そこに「ハムレット」や「ヘンリー3世」がからむ。さらにエドワードとエリザベス女王との恋愛。少年時代に書き、自ら妖精パック役を演じた「夏の夜の夢」が若きエリザベスを喜ばせ、その後青年となったエドワードは彼女と愛し合う。そしてラストに明かされる驚愕の事実。

登場人物が多く、展開もスピーディー。だが、ストーリーの幹が太く、混乱することはない。貴族と庶民が一緒になって楽しんだ当時の芝居風景や、貴族、庶民、それぞれの暮らしぶりも丁寧に描写されている。
監督が「インデペンス・デイ」(96)や「デイ・アフター・トゥモロー」(04)のローランド・エメリッヒなのが驚きだが、当時のロンドンを再現した視覚効果、エリザベス女王崩御の葬列シーンをはじめとする大迫力の空撮などは真骨頂。さすがにうまい。人物描写もなかなかのもの。今までエメリッヒを軽んじてきた向きも、きっと見る目が変わるだろう。
(文・沢宮亘理)
「もうひとりのシェイクスピア」(2011年、英・独)
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:リス・エヴァンス、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、ジョエリー・リチャードソン、デヴィッド・シューリス、ジェイミー・キャンベル・バウアー、デレク・ジャコビ
12月22日、TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.shakespeare-movie.com
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