2012年09月15日

「わたしたちの宣戦布告」 力強さ、疾走感、柔軟性 フランス映画の新境地

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 出会ってすぐ恋に落ちたロメオとジュリエット。息子のアダムも生まれて幸せな生活が始まったが、アダムの様子がおかしい。診察の結果、脳腫瘍が見つかった。思いもよらぬ困難に打ちのめされる二人だが、励まし合いながら病魔と戦っていく。監督、主演のヴァレリー・ドンゼッリと、実際のカップルだったロメオ役のジェレミー・エルカイムの実体験を映画化した。

 病院での精密検査。横になるアダムに付きそうジュリエットは過去を回想する。ジュリエットはクラブでロメオと出会い、恋に落ちた。息子の誕生で幸せが約束されたようにみえたが、アダムは泣きやまない、歩けない。託児所のスタッフに「歩き方がおかしい」と指摘された二人は、精密検査を受けさせる。脳腫瘍と診断されたアダムは、小児がんの権威の手で緊急手術を受ける。手術自体は成功したものの、腫瘍は悪性だった。「最悪でも5歳までは化学療法で生きられる」と医師は告げるが、二人は双方の家族に「手術は成功した」とだけ伝え、アダムを支え、病と戦うことを決意する。

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 若いカップルが主人公のいわゆる“難病もの”だ。しかし、よくありがちな湿ってネガティブな空気はない。双方の家族、友人を巻き込み、二人は難病に宣戦布告。どこまでもポジティブに進む姿を、ポップにユーモラスに描く。しかし、そうはいっても二人の心中は激しく揺れている。絶望に突き当たったジュリエットは突然歌い出し、ロメオも歌で合わせる。テレパシーのようにつながる心を表現した魅力的なシーンだ。一方、感情を押さえきれず病院の廊下を走り出し、気絶してしまうジュリエット。町で絶叫してしまうロメオ。人前では平静を装っているが、ボロボロになっていく二人の精神がむき出しにされる。

 重いテーマを緩和するため、映像表現がひと工夫されている。病との戦いを長いマラソンに例え、黙々と二人で走る姿が何度も映される。無菌室の息子に会いに行く両親は、戦場に向かう戦士のようだ。防菌服に着替え、厳しい表情で病院の廊下を歩く二人を、無限ループのように映し出す。二人の戦いを映像で見せたアイデアが秀逸である。

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 音楽の使い方も独創的だ。ビバルディの「四季」などクラシック音楽、エンニオ・モリコーネやジョルジュ・ドリューの映画音楽、ロックやエレクトロなど、展開に合わせて音をはめ込むスタイルが効果を上げている。特に手術のため長旅をして病院を移る時に流れる曲がいい。ルイス・ボンファが「黒いオルフェ」(59)のために作ったボサノバの名曲「カーニバルの朝」。住み慣れた街を離れる不安。もの悲しいギターの旋律から、病院のある街に近づくにつれ、不安が期待に変わる。感情の揺れを代弁するように、重圧なストリングスが絡む。映像に伴う音楽の力が発揮された、素晴らしいシーンとなった。

 重いテーマでありながら、ポジティブに突き進む両親。力強さと疾走感で押し切り、新しいフランス映画の形を見たようだ。回想形式を取ったため、着地点が見えて感動が半減したのは惜しいが、ドンゼッリ監督の柔軟性とパワーあふれる演出力を高く評価したい。

(文・藤枝正稔)

「わたしたちの宣戦布告」(2011年、フランス)

監督:ヴァレリー・ドンゼッリ
出演:ヴァレリー・ドンゼッリ、ジェレミー・エルカイム、セザール・デセックス、ガブリエル・エルカイム

9月15日、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/sensenfukoku/
posted by 映画の森 at 09:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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