2012年07月16日

「ぼくたちのムッシュ・ラザール」 突然現れた“先生” 悲しみ乗り越える授業

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 カナダ・モントリオールの小学校。ある冬の朝、教室で女性教師マルティーヌが首をつって死んでいた。生徒たちはショックを受け、学校は心のケアと後任探しに追われる。そんな中「新聞記事を見た」という男が学校に現れる。男の名はバシール・ラザール。アルジェリアからの移民で19年の教師経験を持ち、「子供たちの助けになりたい」と直談判に来たのだ。ほかに選択肢のない校長は、誠実そうなラザールを信頼。新しい担任として迎え入れる。

 カリスマ性があるわけでもなく、ぼくとつで少々やぼったいラザール先生。授業内容は時代遅れだが、いつも真摯(しんし)に向き合ってくれる彼に、生徒たちは心を開き始める。たが彼もまた、祖国で心に傷を負っていたことが明らかになる──。今年の米アカデミー賞、外国語映画賞の候補作となった「ぼくたちのムッシュ・ラザール」。エヴリン・ド・ラ・シュヌリエールの一人芝居戯曲を、フィリップ・ファラルドー監督が映画用に脚色した。

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 悲しみに包まれた教室。壁の色は塗り替えられ、マルティーヌ先生の意向で丸く配置された机は直線に並びかえられ、生徒たちは半ば強引に気持ちを切りかえさせられ、授業は再開される。ラザール先生の授業は古風で難解。生徒たちは戸惑うが、徐々に以前の生活を取り戻していく。

 映画は二人の生徒にスポットを当てる。一人はラザールの授業を通し、彼の祖国アルジェリアに興味を抱く女子生徒アリス。マルティーヌ先生の死を受け止められず、その気持ちを素直に作文にしたことで、クラスに波紋を広げてしまう。感受性豊かなアリスに、ラザール先生も一目を置いている。

 もう一人は自殺現場を最初に発見した男子生徒のシモン。なにかとクラスでトラブルの種を作るシモンは、マルティーヌ先生の写真を隠し持っていた。写真の先生の背後には羽、首にはロープがいたずら書きされている。写真を見たラザール先生は彼女の死がシモンの心に大きな影を落としていると感じる。職員会議でシモンのことを取り上げたことで、過去に起きたシモンとマルティーヌ先生の確執を知る。

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 これと並行して、ラザール先生の謎めいた素性が明らかになる。妻はアルジェリアで教職に就いていたが、著書の記述が原因で娘たちとともにテロの犠牲になっていた。身の危険を感じた先生は母国を捨て、カナダのケベック州に逃れたが、政治難民として受け入れられるか審査中だった。しかも、教員経験もないレストラン経営者だったのだ。 

 小学校という小さなコミュニティーで、教師の自殺が波紋を広げ、校内は不穏な空気に包まれる。事態はラザール先生が現れいったん沈静化するが、彼自身の秘密が再び彼の運命を翻弄する。自殺の一因とみられるシモンのうそは、「教師が生徒に触れることを一切禁じる」ルールを作らせた。違和感を持ったラザールは、最終的にルールを破る。その姿が本来の教師と生徒の正しいあり方だ、と観客は理解している。再び人生の荒波にもまれるやるせない幕引きだが、人の温もりを忘れないラザール先生のすがすがしさに救われた。

(文・藤枝正稔)

「ぼくたちのムッシュ・ラザール」(2011年、カナダ)

監督:フィリップ・ファラルドー
出演:フェラグ、ソフィー・ネリッセ、エミリアン・ネロン、ブリジット・プパール、ダニエル・プルール

7月14日、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.lazhar-movie.com

作品写真:(C)2011 Tous droits reserves
posted by 映画の森 at 19:39 | Comment(0) | TrackBack(1) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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映画「ぼくたちのムッシュ・ラザール」教室と言うひとつの世界
Excerpt: 「ぼくたちのムッシュ・ラザール」★★★☆ フェラグ、ソフィー・ネリッセ、エミリアン・ネロン、 ダニエル・プルール、ブリジット・プパール出演 フィリップ・ファラルドー監督、 95分、2012年7月14..
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