2011年11月05日

「ラビット・ホール」 二コール・キッドマン 喪失と再生 激しく繊細に

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 美しい住宅街に暮らすベッカ(ニコール・キッドマン)の人生は、8カ月前に大きく変わってしまった。4歳の一人息子ダニーが、交通事故で世を去ってしまったのだ。家に残るダニーの痕跡に心をかき乱され、ベッカは人とのかかわりを拒み、母親や妹にいら立ちをぶつける。夫のハウイー(アーロン・エッカート)は幸せな日々を取り戻そうとするが、ベッカとの溝は深まるばかり。そんな時、ダニーの命を奪った車を運転していた高校生ジェイソンが現れ、ベッカと交流するようになる。一方のハウイーは、別の女性に心の安らぎを求めていく──。

 デヴィッド・リンゼイ=アベアーの同名戯曲に感銘を受けたニコール・キッドマンが主演、初プロデュース。共演にアーロン・エッカート、ダイアン・ウィースト、監督は「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェルだ。

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 庭で花の手入れをするベッカ。隣人が彼女をホームパーティーに誘うが、「外出するので」と断る。実際は居留守を使って夫と自宅にいた。ピリピリと神経をとがらせ、かたくなに他人との接触を避けるベッカ。理由は観客には分からない。しかし物語が進むとともに、彼女が抱える心の闇が見えてくる。最愛の息子ダニーを失ったベッカは、スクールバスで帰宅する1人の少年に、必要以上に執着し始める。

 何かにいらつきバリアを張り巡らす原因を、観客は初め知るすべがない。映画は外堀を埋めつつ、小出しに核心部分を露出させていく。ヒントは題名にある。「不思議な国のアリス」に登場する“ラビット・ホール”。白ウサギを追いかけて穴に落ちたアリスが、ワンダーランドで不思議な体験をする物語。アリスをベッカに置き換えてみる。何も変わらず過ぎる現実世界は苦痛でしかなく、むしろ180度ひっくり返った異次元となったのだろう。しかし現実は毎日突きつけられ、心はパニック状態で破裂寸前。そこに現れるのが、現実と非現実をつなぐジェイソンだ。

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 ジェイソンはダニーをひき殺した。被害者家族と加害者が引き寄せられる。息子を亡くしたベッカの喪失感と、人をあやめてしまったジェイソンの罪悪感。互いが傷をなめ合うように、心の穴を埋めてゆく。二人をつなぐ小道具で、ジェイソンが書いたコミック“ラビット・ホール”。「パラレルワールドで幸せに暮らすもう一人の自分」という奇抜なアイデアの漫画が、ベッカの心を解きほぐす。同じように、夫のハウイーもセラピーで出会ったアジア系女性のギャビーに、心のよりどころを求めるようになる。

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 状況説明は排されているため、登場人物の行動や言動から、観客は主人公の現状を読み取っていく。薄氷を歩くような心情をくみ取る作品だ。起伏の激しい繊細な演技は、二コール・キッドマンの真骨頂であろう。逆にアーロン・エッカートは分かりやすい感情表現で、夫婦の溝の深さを表現している。ベッカの母親を演じたダイアン・ウィーストのさりげないせりふの深さや、再生を予感させる幕引きに救われた。

(文・藤枝正稔)

「ラビット・ホール」(2010年、米国)

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:ニコール・キッドマン、アーロン・エッカート、ダイアン・ウィースト、サンドラ・オー

11月5日、TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.rabbit-hole.jp/

作品写真:(C)2010 OPEVE2,LLC. All rights reserved.
posted by 映画の森 at 12:43 | Comment(0) | TrackBack(1) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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