2011年08月06日

「この愛のために撃て」 男二人、走る 妻救出と潔白求め 孤立無援の熱き戦い

この愛のために撃て.jpg

 パリの看護助手サミュエル(ジル・ルルーシュ)と、妻ナディア(エレナ・アヤナ)は、愛あふれる毎日を過ごしている。ところがある日、サミュエルは家に押し入ってきた男たちに暴行され、気を失ってしまう。携帯電話の音で目覚めると、電話口から妻の泣き声とともに脅迫の声が。「お前が勤める病院から男を連れ出せ。さもなければ妻を殺す」。その男とは、前夜交通事故で搬送された重要事件の容疑者、サルテだった。犯人の要求に従うサミュエルは、警察に追われる羽目に。味方のいない絶望的な状況下、妻に再会するため走り続ける──。

 デビュー作「すべて彼女のために」(08)で脚光を浴びた、フレッド・カヴァイエ監督の2作目だ。「すべて彼女のために」は「クラッシュ」(04)のポール・ハギス監督、ラッセル・クロウ主演で「スリーデイズ」としてハリウッド・リメイクされ、9月に公開を控えている。

 何者かに追われる男。男は途中で事故にあい、意識不明となって搬送される。搬送された男を殺そうと、病室に侵入する不審人物。サミュエルが目撃したことで殺害は未遂に終わる。しかし、サミュエルの日常は翌日、非日常へと変貌する。いつもと同じはずの朝。サミュエルは侵入した男に暴行を受け気絶。「妻を人質にした」との脅迫電話が入る。

 妊娠中の妻を誘拐された男が、タイムリミット3時間で妻を救出する。シンプルなプロットで物語は突き進む。人物設定も面白い。看護師資格取得を目指す主人公と臨月の妻は、ごく普通の一般人だ。誘拐事件の鍵を握るのが、搬送された男──裏社会を知り尽くしたサルテ(ロシュディ・ゼム)。サルテを連れ出すのは容易ではない。そこで犯人グループに目をつけられたのが、殺人未遂の目撃者サミュエルだった。

 犯人グループの要求通り、サミュエルは職権を使ってサルテを連れ出す。だが、サルテが実業家殺害の容疑者だったため、サミュエルまで指名手配されてしまう。警察まで敵に回したサミュエルは絶体絶命、孤立無援。しかし、サルテは「実業家殺害には別の犯人がいる。濡れ衣だ」という。サミュエルは妻を救うため、サルテは身の潔白を示すため、パリ中を逃走しながら奮闘する。

 作品の鍵を握るのは警察組織だ。市民が絶対信頼する警察を敵に回すと怖い。地下鉄構内、どこまでもサミュエルを追う警察チーム。見せ方もスリリングで、実にうまい。同じ署でもチーム同士で手柄を奪い合い、手柄のために裏仕事にまで手を出す。警察が事態をかく乱し、意外な真実が明らかになる。コンパクトな85分で、妻誘拐と実業家殺人、二つの事件を解決させる。緊張感を切らさず、ノンストップに描いたカヴァイエ監督の手腕が光る。サミュエルを演じたジル・ルルーシュの熱演が物語をけん引し、悪党なのに憎めないサルテを演じたロシュディ・ゼムが全体を引き締める。フレンチ・サスペンスの勢いを感じる1本である。

(文・藤枝正稔)

「この愛のために撃て」(2010年、フランス)

監督:フレッド・カヴァイエ
主演:ジル・ルルーシュ、エレナ・アナヤ、ロシュディ・ゼム、ジェラール・ランバン、ミレーユ・ペリエ、クレール・ペロー

8月6日、有楽町スバル座、渋谷ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://konoai-ute.com/index.html

作品写真:(C)2010 LGM FILMS - GAUMONT – TF1 FILMS PRODUCTION – K.R. PRODUCTIONS
posted by 映画の森 at 09:10 | Comment(0) | TrackBack(1) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Excerpt: 「この愛のために撃て」★★★★ ジル・ルルーシュ、エレナ・アナヤ、 ロシュディ・ゼム、ジェラール・ランヴァン、 ミレーユ・ペリエ、クレール・ペロー主演 フレッド・カヴァイエ監督 85分、2011年8..
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