2010年12月02日

「白いリボン」 大戦前夜、村に満ちる疑心暗鬼 ハネケのパルムドール受賞作

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 従来の犯罪映画のパターンを打ち破り、観客に真の恐怖を突き付けた「ファニーゲーム」(97)、フランスを代表する女優に変態演技をさせ、何も知らずスクリーンに向き合った女性客を次々と途中退場させた「ピアニスト」(01)。妥協を知らぬ過激な作風が、常に“絶賛か拒絶”の両極端な反応を招いてきたミヒャエル・ハネケ監督。カンヌ国際映画祭の常連として数々の賞に輝きながらも、最高賞のパルムドールには手が届かずにいた。

 そのハネケがついに2009年、パルムドールを受賞。卓越した映画作家の評価を揺るがぬものとした。激戦を勝ち抜き、頂点を極めた作品は「白いリボン」。第一次世界大戦前夜、ドイツの小さな村で立て続けに発生する暴力的な事件を不穏なムードの中に描いた、ハネケ初のモノクロ作品である。

 最初の事件は、ある夏の日に起きた。村の医師が落馬して重症を負う。自宅前の木と木の間には針金が張られていた。犯人は不明。翌日、小作人の妻が腐った床を踏み外して転落死する。単なる事故か、それとも何者かによる作為か、真相は不明。謎は解かれぬまま、季節は秋へ。今度は男爵の長男がリンチを受け、製材所に逆さ吊りで発見される。これも犯人は不明のまま。冬になっても、男爵の屋敷への放火、障害児への暴力と事件が相次ぎ、村人たちの間に疑心暗鬼が広がっていく――。

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 男爵、執事、医師、牧師、小作人。それぞれを家長とする5家族が登場する中で、特に力点の置かれているのが、牧師の一家である。家長であると同時に、村人たちの指導者でもある父親は、家庭でのしつけも厳格を極め、子供たちの小さないたずらや無作法も見逃さず、むち打ちの罰を与えていた。罰を与える際には「純真で無垢な心を忘れぬよう」、子供たちの腕に“白いリボン”を巻き付けるのが決まりだった。

 牧師の長男と長女は、過度の緊張からか、いつも表情をこわばらせている。父親や教会に反感を抱いているようにも見える。一連の事件には彼らが関与しているのかもしれない。一方、牧師は子供たちの関与を疑いながらも、現実の直視を避けている気配がある。牧師は自分の厳しいしつけが、かえって子供たちの心をねじ曲げている可能性に気付いているようにも思える。

 映画の最終部でオーストリアとドイツが宣戦布告し、第一次世界大戦が始まる。19年後にはナチスが政権を握り、さらに6年後、第二次世界大戦が始まる。その時ナチスの兵士として戦っているのは、映画に登場する子供たちだと、観客は気付かざるを得ない。ドイツでナチズムがいかに育まれたか。「白いリボン」は、その一考察といえるかもしれない。

(文・沢宮亘理)

「白いリボン」(2009年、独・オーストリア・仏・伊)

監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:クリスティアン・フリーデル、ブルクハルト・クラウスナー、マリア=ヴィクトリア・ドラグス、レオナルト・プロクサウフ、スザンヌ・ロタール

12月4日、銀座テアトルシネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.shiroi-ribon.com/

12月4〜17日、東京・ヒューマントラストシネマ有楽町で、特集上映「ミヒャエル・ハネケの軌跡」を開催。デビュー作「セブンス・コンチネント」(89)から「白いリボン」まで全10作品を一挙上映するほか、ハネケに2年半密着したドキュメンタリー「毎秒[24]の真実」を特別上映。
posted by 映画の森 at 09:07 | Comment(0) | TrackBack(1) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Excerpt: 「白いリボン」★★★★ クリスティアン・フリーデル、レオニー・ベネシュ、ウルリッヒ・トゥクール、 フィオン・ムーテルト、ミヒャエル・クランツ、ブルクハルト・クラウスナー出演 ミヒャエル・ハネケ監督、1..
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