2010年11月20日

「海炭市叙景」 熊切和嘉監督が札幌で会見 「函館市民と手作り。静かで熱い思い」

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 北の港町の悲哀と人間模様を描く「海炭市(かいたんし)叙景」の公開を前に、熊切和嘉監督が11月19日、札幌市で開かれた記者会見に出席した=写真1=。原作は、不遇のうちに世を去った小説家・佐藤泰志が、出身地の函館市がモデルの「海炭市」を舞台にして書いた小説。製作には函館市民が全面的に協力し、新たな地方発信映画の可能性を開いた。

 函館は観光都市として知られ、異国的な街並みはスクリーンにも数多く登場している。だが「海炭市叙景」は街のありのままの姿を後世に残そうという市民の思いからスタートした作品だ。函館市民を中心に約1500人が募金に賛同し、最終的に1200万円を集めた。演出は北海道帯広出身の熊切和嘉監督。今年2月から1カ月間行われた撮影には、メーンキャストからエキストラまで500人以上の市民が出演している。

 会見には製作実行委員会の菅原和博委員長(ミニシアター・函館シネマアイリス代表)が同席した=写真2。

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 記者会見の一問一答は次の通り。

 ――見どころは。

 熊切監督:函館市民とともに手作りで作ってきた映画だけに、「全部」と言いたい気持ちだ。静かだが、熱い思いの詰まった映画だ。

 菅原委員長:まちづくり映画とは違う、新たな地方発信の映画を多くの方に見てほしい。

 ――多くの出演者をオーディションで選び、メインキャストにも函館市民が選ばれている。演出への影響は。

 熊切監督:原作を読んで街が主人公だと感じたので、ポイントになるところには実際に暮らしている人を出したいと思ってはいたが、踏ん切りがつかなかった。オーディションでは演技できても、いざ現場に行ったら照明もあるし、できなくなるかもしれないと。だが正直な話、予算がなかったのでやるしかなかった。オーディションや街でのスカウトで大勢の地元住民に出てもらった。思った以上にいい味が出たと思う。ネコを抱いたおばあさん役は、函館の夜の街でスカウトした人だ。初日は緊張していたが、ある瞬間に何かが吹っ切れたようになり、元からその場にいたかのような演技をしてくれた。その時、「この映画はいけるな」と思った。

 ――道産子監督はほかにもいるが、熊切監督にオファーした経緯は。

 菅原委員長:2年前の12月、函館の映画祭に来ていた(熊切)監督と話をする機会があった。企画について話し、原作の小説の一編を紹介したところ、穏やかだった表情が変わり、目がギラッと光ったように見えた。監督はその日のうちに原作の小説を買って滞在中に読み、帰る日に「撮りたい」と言ってくれた。

海炭市叙景.jpg

 ――原作は18編の連作小説。5本をどのように選んだのか。

 熊切監督:どれを選ぶべきか悩んだ。どれも採用したい作品で、人に意見を聞いても思い入れのある作品が違ったので迷った。最終的に、初めて読んだ時に心にひっかかった作品を選んだ。一部はエピソードを合体させて1本にした。

 ――キャストの選考は。

 熊切監督:谷村美月さんは4〜5年前に京王線でばったり会ったことがあるが、普通に電車に乗っている感じが印象に残った。「海炭市叙景」のメーンビジュアルに考えていたのは、初日の出を見に行った兄妹の妹が一人でベンチに座り兄を待つシーンだったが、そのイメージに谷村さんがぴったりだった。

 竹原ピストルさんは自分の作品に何本も出演している。「海炭市叙景」は文学的になりすぎないようにしたかった。イケメンがやるとナルシズムに陥ってしまう(笑)。彼のような俳優のほうが、実在感があると思った。加瀬亮さんは「アンテナ」(07)に出てもらったことがある。一番信頼している役者だ。今回の2代目社長の役は過酷な役だが、それをしっかり受け止めて演じ切れるのは彼しかいなかった。
小林薫さんや南果歩さんは、まさか出てもらえるとは思わなかったのでとてもうれしい。

 ――印象に残るエピソードは。

 熊切監督:クランクイン前は、今までにないほど不安だった。これまで撮った映画は主人公一人を追い続けるスタイルで、5人の主人公が出てくるタイプは初めて。1カ月で5本の映画を撮るような感じだった。函館市民の皆さんが支えになってくれた。過酷だと思っていたが、よく考えるとこんなに幸せな現場はなかった。

 印象に残るエピソードは、三浦誠己さん演じる博が青森行きのフェリーで去るシーン。その日は雪が降っていて、(撮りたかった)山が見えなかった。フェリーは一度出航すると8時間戻れない。フェリーを借り切ったわけでもないし、乗るかどうかギリギリまで迷った。結局は乗ったのだが、カメラを回すと急に雪雲が消え、うっすらと山影が見えて撮ることができた。

 ――完成した映画を見た感想は。

 熊切監督:ずっと編集をしていたので、まだ客観的に見られない。人からのリアクションを楽しみにしている。

 菅原委員長:試写や映画祭で何度か見ているが、見るたびに新たな発見がある。深くかかわって客観的に見られないことを差し引いても、どんどん映画の世界に引き込まれていく魅力的な作品。ぜひ多くの人に新たな魅力を発見してもらいたい。

(文・写真 芳賀恵)

「海炭市叙景」(2010年、日本)

監督:熊切和嘉
出演:谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、三浦誠己、山中崇、南果歩、小林薫

11月27日、函館シネマアイリスで先行ロードショー。12月18日、渋谷ユーロスペースほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.kaitanshi.com/


第23回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。

作品写真:(c)2010佐藤泰志/「海炭市叙景」製作委員会
posted by 映画の森 at 10:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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