2010年06月24日

「結び目」 恋の狂気と女性のリアリズム 主演の赤澤ムックに聞く

「禁断の恋という十字架。子供時代に背負わされた女性は、どんな人生を送るのか」

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 生徒と教師の立場で禁断の関係を結び、無理やり引き裂かれた絢子と啓介。14年後に偶然再会した二人は、それぞれ家庭を築いていたが、抑えがたい情念に流され、再び関係を結んでしまう――。古典的なメロドラマの骨格を踏まえつつ、巧みな筋運びと緻密な演出によって、恋愛の狂気を生々しく描き出した映画「結び目」。ヒロインの絢子を演じた赤澤ムック=写真上=は「“子供のころに禁断の恋という十字架を背負わされた女性は、どんな人生を送るんだろう”と思った」と語った。

 主なやり取りは以下の通り。

自宅でも“絢子状態”が続いた
 ――映画は初主演だが、引き受けた理由は。

 脚本を読んだ瞬間、絢子という女性にひき付けられ、「演じてみたいな」と思いました。ただ、私はテレビでも舞台でも、ラブシーンの経験があまりなかった。「自分にはできないかも」と思い、一旦はお断りしました。ところがその後も、絢子がずっと頭から離れない。「だったら、思い切ってチャレンジしてみよう」と考え直し、改めてお引き受けすることにしたんです。

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 ――絢子のどこにひかれたのですか。

 一般的な映画やドラマに出てくるような、分かりやすい人物ではない点でしょうか。作品自体が観客サービスを度外視しているというか、いわゆるエンターテインメント性はほぼ排除されている。それを一番体現しているのが絢子だと思うんです。それから彼女の生き様です。子供のころに禁断の恋という十字架を背負わされて大人になった女性は、いったいどんな人生を送るんだろう、と興味があった。自分は女優として、なんてすごい女性と出会ってしまったんだろう。そんな気持ちでした。

 ――演技か地か分からない迫真の演技でした。

 出演者の中では、たぶん私が一番役者として未熟だった。周りの皆さんに支えられ、力を貸してもらったおかげで、あまり悩まずに演技できました。傷付くシーンでは、ちゃんと傷付くようなことをしてくれて、喜ぶシーンでは、喜ぶようなことをしてくれた。私は、ただレールの上を走るジェットコースターのようでした。

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 ――小沼雄一監督の演出は。

 役者と細かなコミュニケーションをとることは、ほとんどなかった。その代わり、私たちが役に専念する場を作ってくれました。楽屋には仲良しサークルみたいな雰囲気はまったくなくて、常に緊張感が漂っていた。啓介役の川本淳市さんは、素顔は明るい方ですが、撮影期間中はほとんどしゃべらず、役柄のイメージのまま。私も初日はちょっとはしゃいだりしましたが、2日目からはスタッフともろくに口がきけない状態。甘やかすとは反対の意味で、役者をとても丁寧に扱ってもらえたと思います。あまりに役柄に没頭したので、家に帰ってもずっと“絢子状態”が続いていました(笑)。

やっぱり女性はリアリストなのか
 ――絢子は怖い女性ですね。

 何をしでかすか分からない女性。(教師を辞めてクリーニング店を営む)啓介が、(絢子に届けた)仕上がり品に思い出の赤いリボンを添えてきたことにものすごく腹を立てて、自宅に石を投げ付けるわ、ロリコンビデオを送り付けるわ。ひどいことをしますよね。

 ――でも絢子の気持ちはよく分かる。きちんと伏線があるし、行動が納得できるようストーリーが展開しています。

 脚本が本当によくできている。小沼監督も含め、スタッフも役者も全員、脚本にほれて、映画に参加したのではないかと思います。

 ――絢子は義理の父親の介護をしていて、暴力を受け、夫の雁太郎は浮気している。ものすごいストレスの中で生活していたところに、中学時代に愛し合った国語教師の啓介と再会してしまう。おかしくなるのも無理はないと思いました。

 もし絢子が啓介と出会わなかったら、どうなっていたんだろう。ずっとストレスを抱えたまま、たぶん夫とも(義理の)お父さんとも心を通わせることなく生きていったでしょう。だから、絢子は啓介と出会って本当によかった。啓介にとっても同じでしょう。

 ――ホテルで愛し合った後、啓介は絢子に「一緒に暮らそう」と持ちかけるけれど、絢子は応じない。不倫のままでいいと言う。絢子の反応がリアルでした。

 リアルですよね。やっぱり女はリアリストで、男性はロマンチスト。恋におぼれてしまうのも、絢子ではなく啓介の方です。啓介がまた小説を書くと言い出すところで、絢子は「この人とは一緒にやっていけないな」って思う。一緒にいたいとは思っても、夢でしかない。絢子はよく分かっているんです。

 ――絢子のような経験をしたことは。

 ないです。恋愛経験もわりと遅かったもので。でも、すごく好きな人ができて、その人とは現実の世界ではお付き合いできない、と思ったことはあります。啓介同様のめり込むタイプの人で、現実が見えなくなっていた。絢子を演じる上で、その経験は役に立ったと思います。

啓介と結ばれる森のシーンが素敵だった
 ――撮影はニコンのデジタル一眼レフカメラを使ったとか。

 動画機能を使いました。長時間回すとオーバーヒートするので、みんなで1台をあおいで冷ましながら、冷ましている間はもう1台を使う。普通のカメラで撮るのは不思議な感じでしたが、映像のクオリティーは高く、色彩もとてもきれいでした。

 ――撮影はスムーズに進みましたか。

 ホテルのシーンは、10テイクぐらい撮っていると思います。私は本当にああいう(ラブ)シーンが初めてだったので、どうやって体を動かしたらいいのか分からない。だから、相手役の川本さんには厳しく教えてもらいました。「ここはこうだ、ここで体重かけろ」、「NG増えるから、遠慮するな」って(笑)。

 ――喫茶店で大暴れするシーンがすごい迫力でした。シナリオ通りですか。

 ポリバケツで殴りかかったり、通りがかった女子高生をひきずって啓介めがけて投げつけたり、最後は自転車で派手にひっくり返る(笑)。すべてシナリオ通り。原則的に即興はありません。

 ――難しかったシーンは。

 夫の会社に弁当を届けに行くシーンと、自転車で町を移動するシーン。前半のほとんどセリフのない日常のシーンが難しかった。話したり、叫んだり、暴れたりするシーンは楽なんです。黙っているシーンは難しい。まず主婦に見えなければいけないし、介護などでストレスにさらされていると分からせなければいけない。どうすればうまく表現できるか、かなり時間をかけて考えました。

 ――では一番印象に残ったシーンは。

 森のシーンです。再会した啓介と初めて結ばれるシーン。周りにはたくさん人がいたのに、二人きりのような気持ちになり、夢中で演じることができました。森もすごくきれいだったし、素敵でした。

サービス精神、こびがない大人の映画
 ――赤澤さんは劇団を主宰しています。舞台と映画の演技の違いは。

 全然違います。舞台ではお客さんから見られていることを意識して演技しますが、映画は逆。見られていることを意識しないで演技する。カメラがあるのに、目を意識しちゃいけない。舞台出身の私には難しい作業でした。

 ――映画で演じる時、演出家の自分が顔を出すことは。

 一切ないです。出してうまくいくことは、ほぼないと思うので。ただ、小沼監督から言われました。私はある瞬間の人物の気持ちより、全体の流れや人物の役割について考えるタイプで、演出家っぽいと。

 ――最後に映画「結び目」の魅力について。

 もしかしたら逆効果になるかもしれませんが、サービス精神がない、こびがない。大人の映画です。ヒロインと同世代の女性はもちろん、もっと若い方から年配の方まで、ずしりと手ごたえのある映画が見たいと思っている方には、お勧めです。ぜひ見て下さい。

 赤澤ムック 1978年、北海道生まれ。2003年、劇団「黒色綺譚カナリア派」を創立。脚本家・演出家・女優として活動。劇団「毛皮族」の「エロを乞う人」など客演も多く、モデルとしても活躍。テレビドラマ「大好き!五つ子」や映画「曲がれ!スプーン」にも出演。「結び目」は初の長編主演作品。10年には黒色綺譚カナリア派「雨を乞わぬ人」を上演した。

(文・写真 沢宮亘理)

「結び目」(2009年、日本)

監督:小沼雄一
出演・赤澤ムック、川本淳市、広澤草、三浦誠己、辰巳琢郎、上田耕一    

6月26日、シアター・イメージフォーラムでモーニング&イブニングショー。ほか全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://musubime.amumo.jp/

作品写真:(c)2009 アムモ
posted by 映画の森 at 12:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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