中国との国境に近い北朝鮮の炭坑町。ヨンスは、妻のヨンハ、息子のジュニとともに貧しくも幸せな生活を送っていた。ところが、ある日、ヨンハが結核で倒れてしまう。薬は中国まで行かなければ入手できない。ヨンスは決死の覚悟で国境を越えるが、公安から逃亡しているうちに、心ならずも韓国に亡命させられ、北朝鮮に戻れなくなる。その間にヨンハは病状が悪化、息を引き取ってしまう。残されたジュニは、仲介人とともに、ヨンスとの再会を果たすべく、はるかモンゴルまで旅に出るのだが――。
北朝鮮の庶民の日常生活と、強制収容所の実態をリアルに描いた韓国映画「クロッシング」。キム・テギュン監督=写真上=は「北朝鮮にも、一人ひとり個性をもった人々が生きている。愛のあふれる家族がいる。そのことを忘れないでほしい」と語った。
主なやり取りは次の通り。
――なぜ北朝鮮に関する映画を。
10年ほど前のことだ。「クロッシング」で描いた悲惨な事実が北朝鮮に存在することを知り、大きな衝撃を受けた。映画監督である私は、「この事実を何としても映画にしなくてはいけない」と義務を感じ、映画化を決意した。
――製作当時は、脱北者に理解のない盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下。かなりプレッシャーがあったのでは。
マスコミも北朝鮮絡みの話はしないような時代だったから、プレッシャーはかなり感じた。周囲の人間も撮ることには反対だった。「そんな映画を撮ったら攻撃されるぞ」、「脱北者の話を信じるのか」、「行ったこともない場所の話なんて、空想の話じゃないか」。さんざんな言われようだった。
――撮影中に脅されるようなことはなかったのか。
危険を避けるため、最初から最後まで秘密裏に撮影した。中には撮影に気づいていた記者もいたが、彼らは「絶対に口外しない」と約束を守ってくれた。それでも、撮影現場にいた脱北者たちはかなりの恐怖を感じていたようだ。
――映画に脱北者は何人ぐらい参加しているのか。
スタッフは3人。俳優は6人。中国やモンゴルのロケでは現地の人々を使って撮影したが、後で北朝鮮の言葉に直す必要があり、録音作業では30〜40人の脱北者に協力してもらった。
――彼らからは脱北体験について具体的な話を聞いたそうだが。
インタビューチームをつくり、製作に参加してくれた人々を含め100人ぐらいから話を聞いた。映画に描かれたエピソードの多くは、インタビューがもとになっている。
――ミソンが地面に落ちた食べ物を拾って食べる場面とか、彼女の肩におできができ、膿んでウジがわく場面とか、非常にショッキングな場面がある。事実に基づいているのか。
その通り。実際に聞いた話に基づいている。
――作品に対する韓国内での反応は。
娯楽映画ではないにもかかわらず、100万人も動員した。政治家をはじめ社会的に影響力のある人々もたくさん見てくれた。マスコミの反応も大きく、文化部ばかりでなく政治部や社会部の記者からもインタビューを受けた。今までになかったことだ。
――これまで撮ってきた娯楽映画と違う点は。
観客と映画との間に少し距離を持たせるよう意識しながら撮った。距離を置くことで、北朝鮮の問題を冷静に考えられるようにしたかった。
――ジュニを演じた少年の演技が印象に残った。
ジュニ役については、2カ月ぐらいかけてオーディションし、数百人の子役に会ったが、どの子にも今一つ満足できなかった。そんな時、ある友達から紹介されたのが、シン・ミョンチョルだった。ソウルの子役たちと違い、田舎出身の純朴な子で、眼に力がある。「いいな」と思った。しかし、オーディションでは思うような演技ができなかった。一度はあきらめたのだが、彼のことが忘れられず、最終オーディションに呼んで再度チャレンジしてもらった。母親が死ぬシーンで、「君がここで泣けたら、君をジュニ役に決める」と言って演技させたら、彼は見事に泣いてくれた。感動的な演技だった。彼の演技を見ていたスタッフもみんな泣いたほどだった。
――日本の観客にどう見てほしいか、どこに注目してほしいか。
韓国人にとっても同じだが、北朝鮮というのはあまりなじみのない国だ。そのため、一つのかたまりとして見る傾向があるように思う。しかし、ひとかたまりに見える北朝鮮にも、一人ひとり個性をもった人々が生きている。愛のあふれる家族がいる。喜びを感じ、苦しみを味わっている。そのことを忘れないでほしい。脱北者に関しては、彼らの痛みに共感し、一緒に悲しんでほしい。
キム・テギュン 1960年生まれ。96年に「パク・ポンゴン家出事件」でデビュー後、チェ・ジウとアン・ジェウク主演の「ファースト・キス」(98)を発表。主な作品に学園武侠映画「火山高」(01)、「オオカミの誘惑」(04)、松本光司の人気コミックを映画化した「彼岸島」(09)などがある。
(文・写真 沢宮亘理)
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「クロッシング」(2008年、韓国)
監督:キム・テギュン
出演:チャ・インピョ、シン・ミョンチョル、ソ・ヨンファ、チョン・インギ、チュ・ダヨン
4月17日、渋谷ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.crossing-movie.jp/
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