2010年03月19日

日米“ボーダーレス・コメディー”「ホワイト・オン・ライス」 デイブ・ボイル監督に聞く

大阪アジアン映画祭で上映 「映画でもうける時代は終わった。才能で勝負する時代だ」

デイブ・ボイル監督に聞く_200.jpg

 日系米国人家族が主人公のコメディー「ホワイト・オン・ライス」が、14日に閉幕した「大阪アジアン映画祭2010」で上映された。米国人のデイブ・ボイル監督が、日米双方で活動する俳優の渡辺広、裕木奈江を主役に起用した“ボーダーレス”映画だ。映画祭参加のためこのほど来日したボイル監督は「映画の森」の単独インタビューに応え、「金融危機を経て、映画で金もうけする時代は終わった。映画が本来の姿である芸術に戻り、製作者は才能で勝負する時代が来た」と語った。

ホワイト・オン・ライス_250.jpg

 離婚した兄・ハジメ(渡辺)が、妹のアイコ(裕木)の家に転がり込み、家族を巻き込んで騒動を起こす──「ホワイト・オン・ライス」は、いわば米国版の「男はつらいよ」。クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」(06)に出演した渡辺と裕木、人気ドラマシリーズ「HEROES ヒーローズ」の韓国系米国人俳優、ジェームズ・カイソン・リーなど、多彩な顔ぶれが作品を彩った。監督自身も日本語に堪能で、日本語と英語が飛び交う“バイリンガル”作品だ。

 監督との主なやり取りは次の通り。

 ──作品のアイデアはどう生まれたか。

 (長編デビュー作の)「ビッグ・ドリームズ・リトル・トウキョウ」(06)も、渡辺に出てもらった。彼の存在そのものにひかれ、「ホワイト・オン・ライス」を製作した。彼は日本語を話しても英語を話しても面白い。そこから自然とバイリンガル作品のアイデアが生まれた。

 ──配役の経緯は。

 渡辺が裕木を、ティム役のジェームズ・カイソン・リーがラモナ役のリン・チェンを紹介してくれた。アイコの息子を演じたジャスティン・クウォングは、役柄同様とても真面目な子。母親が日本人なので日本語で話しかけると、ジャスティンは英語で答える。映画の世界とまるで同じだ。(作品の中で)ピアノも彼自身が弾いたので、まるで役そのものだった。

 ──裕木の印象は。

 彼女は素晴らしかった。誰にでも親切で、仕事熱心。才能もあり、スタッフ誰もが彼女を好きになった。彼女のような俳優が現場にいると、みなが「もっと頑張ろう」と思い、よい科学反応を起こす。奈江をアイコ役に起用した大きな理由は、広と奈江の関係が、実際の姉と弟のようだったから。奈江はいつも広をからかい、漫才コンビのよう。(日本語で)「ボケとツッコミ」の関係だった。

 ──2作続けて、日系米国人家族を描いた作品となった。

 日系人や彼らのコミュニティーより、人物描写自体に興味があった。「ビッグ・ドリームズ・リトル・トウキョウ」は(日米)文化の違いや、言葉の障害などを描くことに重点を置いたが、今回は「たまたま面白い家族を描いたら、日本人だった」と理解してほしい。「渡辺広と映画を作りたい」気持ちが初めにあり、結果として日系米国人家族を描くことになった。

 広はたいへん真面目で、演じたハジメとは少し違う。ところが演じるととてもコミカルな役柄になるので、興味を持った。ハジメの物語には少し自分自身を投影した。過去に彼と似たような経験をした。

 ──ソルトレイクシティーをロケ地に選んだ理由は。

 ソルトレイクシティーの近郊の町で生まれ、現在も住んでいるので、土地勘があった。とても美しい街で、静かで、撮影にも協力的だった。ロサンゼルスで撮影するとなると、いろいろな場所で許可が必要になり、時間もかかる。ソルトレイクシティーには日本人が多く住んでいることも大きな理由だ。日系3世や4世も住んでいるし、留学生も多い。

 ──オーストラリアで日本語を学んだそうだが。

 モルモン教の宣教師としてオーストラリアに渡り、日本語を勉強した。ワーキングホリデー・ビザで日本人がたくさんオーストラリアに住んでいて、話す機会は豊富にあった。

 ──製作費はどの程度かかったか。

 1億円に大きく届かなかった、とだけ言える。金がかかる16ミリフィルムで撮影したので、予算に見合うよう、みな協力しなければならなかったし、スタッフには重労働をさせた。広も奈江も(俳優の労働組合)全米俳優協会のメンバーで、労働時間の制限などしばりもあり、スケジュールを周到に組み立てなくてはいけなかった。俳優の権利を守るため組合は大切なので、尊重している。次回作は予算200万円。もっと大変だろう。

 ──影響を受けた日本人監督がいれば教えてほしい。

 伊丹十三、溝口健二、山田洋次だ。(山田監督の)「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」シリーズは米国で有名ではないが、もっと注目されていい。

 ──自主製作映画の監督として、映画不況をどう見るか。

 米国の映画界は過去10年という長い間、資金繰りに恵まれていた。だが、今回の金融危機でバブルがはじけ、製作側にも配給側にも資金が回らなくなった。一般市民の懐も寒くなり、劇場に映画を見に行かなくなってしまった。予算が大きく落ち込んでいる割りに、広告費は高止まりしている。「ホワイト・オン・ライス」はニューヨークで、(別の作品と)二本立てで上映されている。経費が少なくて済むように工夫した結果で、10年前には考えられなかったことだ。今はまさに新しい時代の幕開けの時期。大作か独立系映画かにかかわらず、製作者は同じ土俵に上がっている。大規模な製作費を誰もが手にする時代は終わり、才能で勝負する時代になってきた。

 金融危機前は、スターさえ使えばヒット作が生まれた。だが今はそうではない。利益追求のために映画に投資する会社もなくなった。我々のように自主製作する者にとっては、大きなチャンスだ。映画はもはや金もうけの道具ではない。芸術という本来の姿に戻りつつある。

 デイブ・ボイル 1982年、米ユタ州生まれ。2006年、「ビッグ・ドリームズ・リトル・トウキョウ」で長編デビュー。最新作「ホワイト・オン・ライス」は、09年度ロサンゼルスアジア太平洋映画祭で脚本賞、ジャスティン・クウォングが新人賞、同年度サンディエゴアジア映画祭で観客賞を受賞した。

(文・植山英美)

×××××

「ホワイト・オン・ライス」(2009年、米国)
監督:デイブ・ボイル
出演:渡辺広、裕木奈江、高田澪、ジェームズ・カイソン・リー、リン・チェン、ジャスティン・クウォング

3月20日、4月5日、渋谷・アップリンクで上映会。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/factory/log/003471.php

写真:「ホワイト・オン・ライス」の渡辺広(左)と裕木奈江(c)2009 Tiger Industry Films Releasing LLC

大阪アジアン映画祭公式サイト

http://www.oaff.jp/
posted by 映画の森 at 09:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック