2010年03月17日

「アイガー北壁」 “魔の山”に挑む 若き登山家の死闘

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 1936年7月18日未明。ドイツの若き登山家、トニー・クルツとアンディ・ヒンターシュトイサーは、ヨーロッパ最後の難所としてそびえ立つアイガー北壁の初制覇を目指し登攀(はん)を開始した。ドイツ人によるアイガー北壁の征服は、ナチス政権にとって国威発揚の絶好のチャンス。成功の暁にはベルリン五輪で金メダルを授与し、大々的に宣伝することが決まっていた。国家的な期待がかかる中、はたして2人は前人未踏の絶壁を征服できるのだろうか――。

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 “魔の山”アイガー北壁の初登頂に挑んだ実在の登山家たちの壮絶な闘いを映画化した「アイガー北壁」。戦前のドイツでアーノルト・ファンクが確立した「山岳映画」の正統を引き継ぐドキュメンタリー・タッチの映像が、CG(コンピューター・グラフィックス)では味わえない生々しい迫力を生み出している。

 山岳猟兵としての任務をこなしながら、急峻なアルプスの山々を次々と踏破していたトニーとアンディ。百戦錬磨の二人ではあったが、アイガー北壁だけは別格だった。1年前に同じドイツ人の一流登山家たちが初登頂に挑戦したが失敗し、凍死体として発見されていたのだ。失敗しても生還できればいいが、その保証はない。気にかけず挑戦しようと奮い立つアンディに対し、冷静なトニーは躊躇。だが、最後はアンディの熱意にほだされ、アイガー北壁の登頂を決意する。

 登山予定日の数日前、アイガー北壁を望む麓には、各国から一番乗りを目指す挑戦者たちが集まってきていた。しかし、当日、登攀に挑んだのはトニーとアンディのドイツ隊と、ナチ党員であるヴィリーとエディのオーストリア隊だけだった。場合によっては、両国の同時征服もあり得る。オーストリア併合を望むナチス政権にとっては理想的な展開だった。


 最初に出発したトニーたちをオーストリア隊の二人が追う。しかし、アクシデントが起きる。トニーたちとの間隔を詰め過ぎたヴィリーが、落石で重傷を負ってしまったのだ。一つのパーティとしてともに山頂をめざすことになった4人だったが、次第に弱っていくヴィリーが同行することは、大きな負担となった。苦境に陥った彼らに追い討ちをかけるように、天候は急転。猛吹雪が襲った。4人はいよいよ窮地に追いつめられる。

 そんな4人の苦闘を、高級リゾートホテルから望遠鏡や双眼鏡で眺める人々がいる。彼らを取材しにきた新聞記者や金持ちの観光客である。コロシアムで戦う剣闘士を観客席から見物するローマ貴族のよう。そう言ったら、ちょっと言い過ぎだろうか。しかし、彼方の激戦地とこなたの保養地というコントラストは、いかにもヨーロッパ社会の典型的な構図を見るようで興味深い。

 保養地側の人々の中には、ベルリンから新聞記者として派遣されてきたトニーの恋人、ルイーゼもいた。しかし、彼女は映画のクライマックスともいうべきトニーの救出場面で先頭に立つことで、新聞記者の仕事に嫌気がさしていくのである。このへんの展開も見どころの一つだ。

 また、登攀中にアンディが成功させる荒技で、後に彼の名をとって「ヒンターシュトイサー・トラバース」と呼ばれるようになる振り子移動など、さまざまな登山のテクニックが見られるのも、正統派の登山映画である本作の大きな魅力であることはいうまでもない。

 同じアイガー北壁を舞台に、クリント・イーストウッドが監督・主演した「アイガー・サンクション」(75)とは違った意味で、手に汗握るサスペンスが堪能できるドイツ映画の佳作である。

(文・沢宮亘理)

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「アイガー北壁」(2008年、ドイツ・オーストリア・スイス)

監督:フィリップ・シュテルツェル
出演:ベンノ・フュルマン、フロリアン・ルーカス、ヨハンナ・ヴォカレク、ウルリッヒ・トゥクール

3月20日、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.hokuheki.com

作品写真:(c) 2008 Dor Film-West, MedienKontor Movie, Dor Film, Triluna Film, Bayerischer Rundfunk, ARD/Degeto, Schweizer Fernsehen, SRG SSR idee suisse, Majestic Filmproduktion, Lunaris Film- und Fernsehproduktion All rights reserved
posted by 映画の森 at 22:14 | Comment(0) | TrackBack(1) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Excerpt: 「アイガー北壁 」★★★☆WOWOW鑑賞 ベンノ・フュルマン、ヨハンナ・ヴォカレク、 フロリアン・ルーカス、ウルリッヒ・トゥクール出演 フィリップ・シュテルツェル監督 127分、2010年3月20日..
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