2008年11月13日

「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」 名人たちの横顔

ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて1_250.jpg

 オーケストラの楽団員が、なぜそのような職業を選んだのか、よほど親しい友人や恋人、家族でもない限り、めったに話を聞く機会はない。「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」は、楽団の2005年秋のアジア・ツアーに密着し、追加取材も交えながら、楽団員たちがどのようにベルリン・フィルにたどり着き、今、どんな思いで演奏しているのかを語る。

 世界に名だたるベルリン・フィルも、オーケストラとはいえ、1つの組織に過ぎない。カラヤンの時代(1985年ごろまで)から在籍している人もいれば、試用期間中の若い奏者もいる。世代間の葛藤もあれば、伝統は守りつつも日々、変わっていかなければならない部分もある。いわゆる働いているお母さんもいれば、休みにはサイクリングをこよなく愛する男性奏者もいる。

 楽団員たちの語るそれぞれの人生や仕事としての音楽は、いずれも興味深い。背伸びをして学生時代にオーボエを吹いたことのある私は、とりわけ、オーボエ首席奏者のアルブレヒト・マイアーが、少年時代の吃音を機に楽器を始めたことに驚き、また、彼が上海の音大生を指導する時の見事なアドバイスに衝撃を受けた。

 アマチュアで何らかの楽器を演奏したことのある者にとっては、ベルリン・フィルの奏者たちの見事な仕事ぶりには圧倒されるだろうし、そうでない人にも楽しい映画だと思う。とりわけ指揮者、サイモン・ラトルの仕事ぶりは、彼が若かったころの過剰な自己主張が抑制されてきており、いうなれば「角が取れた」いい感じがして感銘深い。

 ファゴット奏者のヘニング・トロークは、年々、肉体や集中力の衰えと闘いながら、しかし自分自身の求める演奏水準が高くなる一方なのに戸惑ってもいる。このようなことはオーケストラ楽団員に限らず、多かれ少なかれほかの仕事にも共通する部分があると思う。ベルリン・フィルのメンバーは、稀代の名人的な部分も、普通の生活者である顔も持っている。一人一人のメンバー、そして組織の多彩な面を、「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」は巧みに記録している。

 ティンパニのライナー・ゼーガースは蝶を愛し「時々残念に思うんだ。僕らは世界のことをまだ知らない。知る前に崩壊してきている。悲しいよ」と地球環境を語る。彼が愛する蝶が、このドキュメンタリー映画に華やかな彩りを添えている。

(文・西山聡)

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「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」(2008年、独)

監督:トマス・グルベ
出演:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバー、サー・サイモン・ラトル(指揮)

11月15日、渋谷・ユーロスペースほかで全国順次公開。

作品写真:(c)Boomtown Media
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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