2008年11月28日

「その男ヴァン・ダム」 自作自演 たどり着いた新境地

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 アクション・スターのジャン=クロード・ヴァン・ダムが、本人を自虐的に演じる「その男ヴァン・ダム」。マブルク・エル・メクリ監督の長編2作目だ。 

 敵の陣地に乗り込み、銃、ナイフ、爆弾、肉弾戦など、次々アクションを披露しながら人質救出に向かうヴァン・ダム。ワンカットで映し出されるが、実は映画の撮影シーン。NGで撮り直しになってしまう。ヴァン・ダムは「もう年をとったから、ワンカットで同じアクションはできない」と難色を示すが、東洋人監督は妥協しない。シーンは変わり法廷へ。娘の親権を争うヴァン・ダムだが、勝ち目なしだ。貯金も底をつき、映画の仕事はライバルのスティーヴン・セガールに奪われる。役者生命も危ういヴァン・ダムは喧騒のロサンゼルスを離れ、故郷・ベルギーのブリュッセルに向かう。そんな時、娘の親権裁判を担当する弁護士が「費用を払わないなら降りる」と宣告。あわててエージェントに金の工面をしてもらい、現金を引き出そうと地元の郵便局に入るやいなや、銃声が鳴り響いた──。

 1980年代末、スタローン、シュワルツェネガーなど肉体系アクション・スターが乱立する時代。マーシャル・アーツの達人として「サイボーグ」(89)で日本のスクリーンに登場したヴァン・ダムは、素早いキックを武器にヒット作に恵まれた。「ハード・ターゲット」(93)で香港から呉宇森(ジョン・ウー)監督を招いて作品を成功させ、ウー監督出世の立役者として評価されたヴァン・ダムであったが、その後、二人が組むことはなかった。ウー監督の踏み台にされてしまった形だ。しかし、味をしめたヴァン・ダムは、続けざまに林嶺東(リンゴ・ラム)、徐克(ツイ・ハーク)を精力的に香港からハリウッドに招き入れて成功を収めた。冒頭の東洋人監督はそんな経緯のパロディーであろう。そんなヴァン・ダムも21世紀に入っては恵まれず、未公開作やビデオ・スルーの作品まで出てきてしまう始末だ。

 「その男ヴァン・ダム」は、強盗犯が押し入った郵便局にたまたま入ったため、犯人に間違えられる単純なプロットだが、作品の質は非常に高い。銀行強盗事件を描いたシドニー・ルメット監督「狼たちの午後」(75)がベース。「狼たちの午後」の犯人と同じ髪型の男までいる。振り回される警察と犯人を応援する野次馬たち。「狼たちの午後」と似た構図で進行するが、よりひねりが効いている。郵便局の外の警察側と内の犯人側の視点の時間軸をずらし、表面的事柄と内部の葛藤を対比して描くことに成功している。

 ポイントはなんといってもヴァン・ダム自身が本人を演じること。舞台もヴァン・ダムの出身地のベルギーで全編フランス語。ヴァン・ダム作品初の試みで、後半にヴァン・ダムが人生を独白するシーンがワンカットで入る。「ハリウッドは、『押忍』の一言で相手を信頼する空手の世界とは違い、相手をだまし『勝った者勝ち』がまかり通る」と涙目で嘆く。アクション・スターとはまったく違う素顔を見せる。

 最近は似たようなB級アクションに出続けてきたヴァン・ダム。自分の歩んだ映画人生に一歩立ち止まり、「これでいいのか?」と自問したのだろう。自分にはっぱをかけて新境地を模索し、たどり着いた結果だ。入り口はやさしく見えて、とても奥深い作品である。

(文・藤枝正稔)

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「その男ヴァン・ダム」(2008年、ベルギー=ルクセンブルグ=フランス)

監督・脚本:マブルク・エル・メクリ
主演・製作総指揮:ジャン=クロード・ヴァン・ダム  
出演:フランソワ・ダミアン、ジネディーヌ・スアレム、カリム・ベルカドラ

12月27日、シネマライズほかで全国公開。

作品写真:(c)2008 GAUMONT-SAMSA FILM-ARTEMIS PRODUCTIONS-RTBF (Television belge)
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | ベルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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