2008年11月30日

「完美生活」 エミリー・タン監督に聞く 女性二人に映す 中国の現在

第9回東京フィルメックス コンペティション部門出品作

「完美生活」 エミリー・タン監督_200.jpg

 中国東北部の地方都市に暮らす21歳の未婚女性、リー。香港で娘二人と暮らす既婚女性、ジェニー。リーは、夢を求めて大都市・深センへと向かい、ジェニーは、結婚生活に破れ深センへと帰る。ドラマとして描かれるリーの物語と、ドキュメンタリーとして描かれるジェニーの物語。2人の女性の物語が、中国の現在を鮮やかにあぶり出す。第9回東京フィルメックスのコンペティション部門出品作「完美生活」。エミリー・タン監督は「ヒロインはもっといい人生がないかと自分に問いかける。いずれにせよ、完全な人生(完美生活)なんて存在しない」と語った。

 映画は、中国東北部の地方都市・撫順で母親と弟とともに暮らす21歳の女性、リー(ヤオ・チェンユイ)の物語を主軸に展開する。義足製造工場の工員として満たされぬ日々を送っていたリー。男友達のつてでホテルのルームメイドの職に就くと、宿泊客の画商・ワン(チェン・タイシェン)と知り合う。堅気の人間とは思えなかったが、その派手で贅沢な生活ぶりに、リーは心ひかれる。ある日、リーは、ワンからの頼みを受けて、注文品を顧客に届けるため、憧れの都市・深センへと旅立つ――。

 主役のリーを演じたヤオ・チェンユイは、上海戯劇学院を卒業した女優で、「完美生活」が映画初出演。都会への憧れを抱きながら鬱屈した日々を送るヒロインを、圧倒的な存在感で演じている。

 「彼女の不思議な眼差しが気に入ってキャスティングした。普通、相手を見ると何を考えているのか、おおよそ想像がつくものだが、彼女の場合はいったい何を考えているのか、全くうかがい知ることができない。そういう点が、この映画のヒロインにふさわしいと考えた」

 深センに向かう列車の中で、「注文品を届け終わったら大学の学費を出す」というワンからのメッセージを読み、声を出して笑うリーの表情が強烈な印象を残す。おそらく彼女の人生で最高に幸福な瞬間。その喜びが見事に表現されている。

 「映画の中で彼女が輝くような笑顔を見せるのはあの場面だけ。撮影の時、彼女にワンからのメッセージの内容は伝えず、一番楽しいこと、嬉しいことを想像して笑うよう求めた。いまだに、あのとき彼女が何を想像して、ああいう笑顔をつくったのかは分からない」

 リーのドラマの前半部分、彼女のプロフィールがひととおり紹介され、ホテル勤務が決まった頃、突如として、もう1人の女性ジェニー(ジェニー・ツェー)のドキュメンタリーの映像が挿入される。2人の娘をかかえる主婦のジェニーは、夫と離婚調停中。香港在住だが、離婚成立後は深センに帰ることになっている。

 「最初はリーをヒロインとした通常の劇映画にするつもりだった。東北地方で撮影を進め、70%くらい撮り終えた時点で、この映画にはもっと強烈な要素が必要だと思った。また、撮影が終わった後、ちょうど深センに行く機会があったのだが、税関にたくさんの人が群がっている光景を見て、ふと、リーのような女性が現実に存在していても不思議はないと思った。リーのような女性が深センにやってきて、結婚相手を見つけて、香港に移住する。そんな例はいくらでもあるのではないか。それで、そのような女性をドキュメンタリーとして撮ってドラマの部分にプラスすることにした。そうすれば、ドラマの中のリーという女性も、よりリアルに感じられるだろうと思ったのだ」

 ジェニーはカメラを意識せず、包み隠さず本音を語っているように見える。

 「その点ではジェニーの勇気に感謝したい。最初、ジェニーに話をもちかけた時、彼女はすぐに同意してくれた。彼女には彼女なりの考えがあったのだ。つまり、彼女はまもなく離婚しようとしているわけだが、その姿をカメラに収めることで、彼女は結婚の被害者であることを証拠として残せるというわけだ。でも私は、彼女の生活をもっと立体的に記録したいと思った。私は彼女に言った。被害者の面にだけスポットを当てるのであれば、一面的な嘘っぽい姿しか撮れない。2人の子供を抱えて生活していかなければならない、あなたのリアルな姿を撮っておけば、多くの人があなたに同情するだろうと。彼女は私の意図を理解すると、自分のガードを取り払い、本当のことを語り始めた」

 ジェニーと夫との電話でのやり取りでは、かなり赤裸々な話も出てくる。

 「ジェニーと夫との電話の場面は大好きなシーン。あのとき、私は彼女の家に泊まり込んでいた。すると、たまたま彼女の夫から電話がかかってきて、ああいう展開になった。ジェニーは私の撮影のため、途中からスピーカーをオンにしてくれた。しかし、話があまりに赤裸々になると、さすがに恥ずかしくなってオフにしてしまった(笑)」

 さて、深センに向かったリーはどうなったか。無事に到着したリーは注文品を届けると、安宿に泊まりワンからの連絡を待つ。しかし、ワンは仕事上のトラブルで殺害されてしまう。そうとも知らず、ゴキブリの這う壁を見つめながら、ベッドに横たわるリー。直後のカットで「五年後」という字幕が出る。リーは深センで雑貨屋の店主と結婚していた。しかし、その結婚生活は決して幸福とはいえなかった。彼女には香港在住の不倫相手がいた。

 「リーは夫と別れ、不倫相手と結婚して香港に行くかもしれない。つまり、ここでリーはジェニーに重なっている。また、リーとジェニーの重なりを示唆するため、雑貨屋でリーが不倫相手からの電話をとる場面で、店の前をジェニーが通るカットを入れている」

 不倫相手との逢い引きの後、リーは結婚写真と並んで、セルフタイマーで自分の写真を撮る。

 「リーは、変わろうとする自分を表現しようと思って写真を撮る。これでいいのか……。もっといい生活があるかもしれない……。心の中で自分に問いかけている。映画は結論を何も言っていないが、彼女は写真を撮ることで自分の人生を考えている。いずれにせよ、完全な人生(完美生活)なんてこの世に存在しないのだけれど」

(文・写真 沢宮亘理)

×××××

「完美生活」(2008年、香港・中国)

監督:エミリー・タン
出演:ヤオ・チェンユイ、ジェニー・ツェー、チェン・タイシェン

第9回東京フィルメックス コンペティション部門出品作。

 エミリー・タン 1970年、中国四川省に生まれ、北京で育つ。北京大学でフランス文学・フランス語を学んだ後、中国国立芸術大学で演劇を専攻。97年、中国中央電視台(CCTV)でドキュメンタリーを製作、監督。98年には中央戯劇学院の監督コースを受講する。2001年、初の長編劇映画「動詞変位(Conjugation)」を発表。ロカルノ映画祭コンペティション部門に選ばれ、スペシャル・メンションとして表彰される。同年、香港に移住。監督第2作である「完美生活」は、ベネチア国際映画祭でオリゾンティ部門にノミネートされた。

写真:「映画のヒロインはもっといい人生がないか、と自分に問いかける。いずれにせよ、完全な人生(完美生活)なんて存在しない」と話すエミリー・タン監督=東京・有楽町で11月25日
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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