2009年05月16日

「鈍獣」 細野ひで晃監督に聞く クドカン舞台を映画化

「人と人との理解、共存の大切さ訴えたかった」

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 知られてはならない過去を、同級生の作家・凸川こと凸(でこ)やんに暴かれたホストの江田と警官の岡本。キレた江田はママの順子、ホステスのノラも巻き込み、凸やんを殺害することに。ところが、殺しても殺しても凸やんは死なない。それどころか、自分が殺されようとしていることすら気づいていないようなのだ――。失踪した凸やんの足取りを追ってやってきた編集者・静(しずか)が、江田たちから聞かされた衝撃の物語! いったい凸やんに何が起きたというのだろうか?

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 宮藤官九郎作のヒット舞台劇「鈍獣(どんじゅう)」を、CM界の異才・細野ひで晃監督が映画化。強烈なキャラクターたちを、ポップなビジュアルの中に描き出し、独特の映像世界を打ち立てた。細野監督は「人と人とが理解し合い、共存することの大切さを訴えたかった」と語った。

 主なやり取りは次の通り。

 ――「鈍獣」を映画化しようと思ったきっかけは何でしょう。

 とにかく宮藤官九郎さんの舞台が面白くて。凸やんという、もともとは弱者だった人物が、だんだんと脅威を感じさせる存在となっていく。初めは、凸やんは悪者なのかと思って見ていると、途中から江田のほうが悪者のように思えてくる。そのうち、どっちも悪者に見えてくる。そういう描き方がとても斬新でした。凸やんは彼自身の中では正義だし、江田も自分の中では正義。一方、江田からすれば凸やんは悪。要するに、結局はみんなが悪であり、正義でもあるということ。見終わって、「ああ、これが人間なのかな」と思った。そして、「ぜひ、これを映画化してみたい」という気持ちが湧き起こったんです。

 ――映画版と舞台版との違いはどこですか。

 江田が凸やんに殺意を抱く動機が、舞台でははっきり描かれていなかったのですが、映画ではもっと明確に示すことにしました。江田は東京に行って負け犬になったけど、故郷のときわ町に帰ってきてからは、負け知らずの生活を送っている。ところが、凸やんが小説の中で自分が25年前にやったことを暴露してしまったために、自分の地位が脅かされる。苦労して自分が築き上げた王国が崩壊するのを恐れた江田は、凸やんをこの世から消そうとする。そこのところを明確に描いています。

 ――3人の役者の演技はいかがでしたか。

 江田を演じた北村さんは、見るからに兄貴という感じで、キャスト全体を引っ張ってくれました。江田はこの映画の中心人物。映画のテンションは江田のテンションしだいなので、なかなか難しい役なのですが、最後まで気を抜かずに演じ切ってくれました。

 岡本役のユースケさんは、表向きはひょうきんですが、本質的にやさしい人。まわりの人に対してはもちろん、僕に対しても気を遣ってくれて、「監督、こういうことでしょ」と、先回りして演技を考えてくれました。凸やんに扮した浅野さんは、どのシーンでも白紙の状態でやってきて、瞬発力で演技する。北村さんがじっくり役をつくり込むのとは対照的で、とても面白かったですね。3人とも演技へのアプローチは全然違いますが、それぞれによく考えて演技しているなと思いました。

 アニメや小説と違い、舞台を映画化する場合に厄介なのは、すでに舞台の役者がイメージをつくってしまっていること。そのプレッシャーはそれぞれあったと思いますけどね。

 ――25年前の回想場面をアニメにしたのはなぜでしょう。

 3人の男たちの25年前をどう描くか。彼らに似た子役を探すという選択肢もありましたが、もっとファンタジーっぽい感じにしたほうがいいかなと思ったんです。25年前の僕は、テレビでアニメばかり見ていたものです。あの時代の感覚を表現するために、ちょっとノスタルジックで情緒的なアニメを使いました。

 ――強烈なビジュアルに目を引かれました。

 観客をストーリーに引き込む入り口として、ビジュアルを考えました。江田が経営するホストクラブ“スーパーヘビー”は、和製ラスベガスのイメージ。ときわ町は、アメリカナイズされた日本を象徴するようなイメージ。相撲の町としたのは、日本の代表的な文化という意味もありますが、ビジュアル的に面白いからというのが一番大きかったですね。

 ――“鈍獣”とは凸やんのことだと最初は思いますが、必ずしもそうではないことがだんだん分かってきますね。

 その通りです。鈍いのは凸やんひとりではありません。人間は誰もが“鈍獣”なんです。鈍いゆえに、なかなか相手の気持ちや立場が理解できない。理解できないから攻撃的になったり、殺そうとしたりする。人と人、国と国とが共存していくために必要なのは、理解して相手を受け容れることだと思います。凸やんも最後には理解した。江田も理解した。凸やんが死ななかったのは、互いに理解し合って、受け容れ合うためだったわけです。

 ――長編第一作の手応えはいかがですか。

 やれることはすべてやりました。ビジュアル的な完成度とか、映画としての完成度とか、まだまだ学ぶべきことはありますが、大切なのは、根底にあるメッセージが届くかどうかです。僕が「鈍獣」に込めたメッセージは、「人はみんな鈍感である」ということ、そして「争いではなく共存を求めるべき」ということ。ここが破綻していたら失敗ですが、僕はその部分はしっかり作れていると思う。その意味では確かな手応えを感じています。

 細野ひで晃(ほその・ひであき) 1973年、西独デュッセルドルフ生まれ。ケンブリッジハイスクール(ボストン)卒業後、アートセンターカレッジ(ロスアンジェルス)でFilmを専攻。帰国後、97年に松竹シネマジャパネスクの1本「ア ルースボーイ」を演出。その後、電通テックに入社し、日清食品、富士急ハイランドなど、メッセージ性の高いCM、PVを多数手がける。2007年アジア太平洋広告祭では日本代表として審査員を務めた。

(文・沢宮亘理)

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「鈍獣」(2009年、日本)

監督:細野ひで晃
出演:浅野忠信、北村一輝、ユースケ・サンタマリア、真木よう子、南野陽子、佐津川愛美、ジェロ

5月16日(土)、シネクイントほかで全国公開。

写真1:「人と人とが理解し合い、共存することの大切さを訴えたかった」と語る細野ひで晃監督=東京都内で
写真2:(c)2009「鈍獣」製作委員会
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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