2009年10月15日

「アンナと過ごした4日間」 孤独な中年男 ひそやかな愛

アンナと過ごした4日間1_250.JPG

 病院付設の火葬場で働く独身の中年男レオン。看護師のアンナに恋心をいだくが、シャイな性格ゆえ、道で見かけても目も合わせられない。自宅の窓からアンナの部屋を双眼鏡でのぞくことで、彼女への接近欲を満たしていたが、やがて欲望はエスカレート。大胆にも男はアンナの寝室へと足を踏み入れる。

 気取られぬよう、細心の注意を払いながら、アンナのそばに寄り添い、寝顔を眺めるレオン。緊張の中で味わう孤独な楽しみ。しかし、そのひそやかな幸福は長く続かなかった――。

 孤独で内気な中年男が一方的に愛を捧げる姿を、サスペンスとユーモアの中に描いた「アンナと過ごした4日間」。今年71歳になったポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ監督が、衰えを知らぬ創造力を発揮し、いまだ第一線の映画作家であることを証明した傑作である。

 オープニングからしばらく不気味な雰囲気が漂う。どんよりとした曇り空。レオンが購入する斧(おの)。火葬場の焼却炉。人間の手首。レオンの挙動不審な様子と相まって、何やらまがまがしい事件を予感させる。もしやレオンは殺人犯なのでは……。しかし、手首はおそらく事故か病気で切断された患者のもの。斧は、恋する看護師の住む寮の部屋をのぞくため、自宅の壁をぶち抜く道具だったことが、後で分かる。どうやら、レオンは凶悪な人物ではないらしい。

 そんなレオンが、廃屋でアンナが何者かにレイプされている現場に遭遇する。だが、レオンは呆然と立ち尽くすのみで、彼女を救うことができない。しかも、あろうことかレオンは犯人と誤認され、逮捕されてしまう。

 釈放されたレオンは、夜な夜な恋するアンナの部屋を双眼鏡でのぞき見るようになる。そしてある日、意を決してアンナの部屋に忍び込む。アンナが寝入った後に現れ、ひそかに“サービス”を行うレオンの姿が哀しくも滑稽だ。アンナの服の取れかけたボタンを縫い付けたり、足の指にペディキュアを施したり、薬指に指輪をはめようとしたり――。アンナがぴくりと動いた拍子に指輪が外れて床板の隙間に落ちてしまい、レオンが動転する場面など、その必死なリアクションが笑いを誘う。最初は不気味に感じられたレオンが、だんだん感情移入できる好人物へと印象を変えていく。だが、そんなレオンに対し運命が下した裁きは非情なものだった。

 セリフは少なく、説明的描写もなく、時系列もばらされている。したがって、ストーリー展開を先読みすることは不可能だ。オープニングからエンディングまで、観客は監督の精妙な話術に翻弄され続けることだろう。そして、謎のラストカット。これをどう解釈するかで、作品の構造ががらりと変わる。気を抜かずに画面を凝視していただきたい。

(文・沢宮亘理)

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「アンナと過ごした4日間」(2008年、フランス・ポーランド)

監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:アルトゥル・ステランコ、キンガ・プレイス、イエジー・フェドロヴィチ、バルバラ・コウォジェイスカ

10月17日、シアター・イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.anna4.com/

作品写真:(C)Alfama Films,Skopia Films
posted by 映画の森 at 00:00 | Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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