2019年11月30日

「ハルカの陶」備前焼がつなぐ師弟愛 奈緒が映画初主演

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 OLの小山はるか(奈緒)はある日、デパートでふと見た備前焼の大皿に強くひかれる。気付けば備前焼のことばかり考える日々。言葉にできない思いを胸に、岡山県備前市へ赴く。意気込んで大皿の作者を訪ねたが、現れたのは頑固でぶっきらぼう、職人気質な修(平山浩行)だった。しかし、一人ろくろに向かう修を見て、備前焼への興味は一層強くなる──。

 週刊漫画TIMESで連載され、第13回岡山「芸術文化功労賞」を受賞した同名コミックの映画化。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」の奈緒が映画初主演、ほか「本能寺ホテル」(17)の平山浩行、「釣りバカ日誌」シリーズの笹野高史。監督・脚本の末次成人は、2006年にシンガポールに渡り、ベトナムなどアジアでテレビCMやPVを演出した後、2016年に日、中、韓、台湾合作の短編映画「Timeless KOTOHIRA」を監督。今回が初の長編映画となる。

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 岡山県備前市を舞台に、漫然と日々を過ごしてきたOLが備前焼と出会い、生きる道を見つけるドラマだ。備前焼と無縁だった主人公を通し、「備前焼とは何か」を分かりやすく描く。備前市と備前焼のPR映画の側面を持ちつつ、主人公の成長ドラマとして感動的に仕上げている。周りを巻き込みながら、無謀なチャレンジ精神で、はるかは成長していく。夢見がちなはるかを、修は怒鳴り、現実を突きつける。ストイックな職人像が物語の肝だ。

 さらに、はるかを引き立てるのが、榊陶人(笹野高史)だ。いつも同じ格好で、修の工房近くの公園で酒を飲んでいる。修に怒鳴られ落ち込むはるかを慰める。はるかはホームレスと思い込んでいるが、実は備前焼の人間国宝で、修も頭の上がらない恩人だった。物腰が柔らかく、人当たりもいい陶人を、笹野はうまく演じている。ベテランならではだ。

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 土と炎と職人の思いが作り上げた備前焼。職人がろくろで成型し、何日も付ききりで温度調整しながら、窯の高温で焼かれる。クライマックスにこの「窯炊き」を配して、職人の修と、彼に弟子入りしたはるかの、信頼を超えた師弟愛を描く。

 二人を安易に恋愛関係にさせず、師弟にとどめたことで、物語の筋が一本通った。はるかを演じた奈緒は、表情豊かに生き生きと喜怒哀楽を表現。修役の平山もストイックな役を好演している。分かりやすい題材を、絶妙なバランス感覚で描くことに成功した。

(文・藤枝正稔)

「ハルカの陶」(2019年、日本)

監督:末次成人
出演:奈緒、平山浩行、笹野高史、村上淳

2019年11月30日(土)、ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://harukano-sue.com/

作品写真:(C)2019「ハルカの陶」製作委員会
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2019年11月29日

「ゾンビ」日本初公開復元版 ホラー映画の金字塔、40年経て蘇る幻のバージョン

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 ジョージ・A・ロメロ監督の傑作ホラー「ゾンビ」日本公開から40年に合わせ、日本初公開復元版が11月29日に公開された。死人が蘇り生きた人間を襲うゾンビは、今や知らない人はいないホラーの金字塔だ。映画「バイオハザード」シリーズ、ドラマ「ウォーキング・デッド」など、影響を受けたさまざまな作品が製作されてきた。

 「ゾンビ」には大きく分けて3つのバージョンが存在し、音楽や上映時間が異なる。アジアと欧州で公開された「ダリオ・アルジェント監修版」(119分)は、ライブラリ音楽を使ったほかのバージョンと違い、イタリアのプログレバンド「ゴブリン」が新たに作曲した音楽で、サバイバルホラー的な面が濃厚だ。このほか、1985年に北米で公開された「米国劇場公開版」(127分)、94年に日本で世界初公開された「ディレクターズカット版」(139分)が存在する。

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 今回の「ゾンビ」日本初公開復元版は、「ダリオ・アルジェント監修版」をベースに、ゾンビを知らない日本人のため、当時の配給会社が独自に編集に手を加えた幻のバージョンを復元したものだ。

 米国でゾンビが発生して3週間後、カオスと化したテレビ局のスタジオで物語は幕を開ける。ゾンビの発生になすすべなく、堂々巡りの対話をする解説者、放送を続けるいらだつスタッフ。舞台はゾンビの巣と化したプエリトリコ人のアパートへ。住民とSWAT(警察特殊部隊)との銃撃戦の途中、ゾンビが出現。SWAT隊員とゾンビの対決となる。

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 しかし、当時の日本の配給会社は、独自の判断で設定を変えてしまった。冒頭に別の映画の映像を借用。タイプ打ちした「爆発した惑星から光線が降り注ぎ死者が蘇った」との英文を表示したのだ。さらに、残酷シーンを静止画で処理し、本来は満載だったスプラッター描写を減らしている。本編の一部もカッとし、エンドロールは黒地に音楽が流れるだけ。観客を突き放した形の幻のバージョンだった。

 40年前に作られたこの「日本初公開版」は、原盤が廃棄されてしまい、今は見られない。そこで今回は冒頭の惑星爆発映像とタイプ打ちの英文をCGで再現。当時のファンが書き留めていた日本語字幕を参考に、動画サイトにアップされたテレビ放送映像を頼りに、忠実に編集して蘇らせたという。

 消費社会の象徴である巨大ショッピングモールを舞台に、ゾンビと死闘を繰り広げる男女4人。さらに戦闘のプロであるSWAT隊員2人を配置した。モールに侵入してきた暴走族を、物欲と独占欲にかられた主人公が迎える。果てしなく消費する現代社会への警鐘だろう。ベトナム戦争に参戦したトム・サビーニが担当した特殊メークは、後のスプラッター・ホラーの指針となるクオリティーだ。

 40年前にリアルタイムで見たファン、まだ未見の最近のファン。「ゾンビ」好きなら必見のマニアックな作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ゾンビ」日本初公開復元版(1978年、米・伊)

監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:デビッド・エムゲ、ケン・フォリー、スコット・H・ライニガー、ゲイラン・ロス、トム・サビーニ

作品写真:(C)1978 THE MKR GROUP INC. All Rights Reserved.
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2019年11月26日

「EXIT」有毒ガスから逃れ、ビルを駆け上がれ 韓国サバイバル・アクション

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 今年の夏、韓国で大ヒットしたサバイバル映画「EXIT」。若手実力派俳優チョ・ジョンソク、ガールズ・グループ「少女時代」のユナが、体を張ったアクションに挑戦している。単純なパニック映画と違い、ドキドキしながら心にじわじわ響く感動作品だ。

 何をやってもうまくいかない就職浪人のヨンナム(チョ・ジョンソク)は、母(コ・ドゥシム)の古希祝いの宴会場で、学生時代に思いを寄せたウィジュ(ユナ)と再会する。再会の喜びもつかの間、二人は突如発生した有毒ガスに巻き込まれる。上昇してくるガスから逃れるため、ビルの上へ上へ上がっていく二人。屋上から救助が始まったが、二人はヘリに乗りきれず、次の救助を待つことに。しかし待つ間もガスは広がり、二人は自力脱出を試みる──。

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 毒ガス発生の原因や、巻き込まれた人々の人間模様など、よくあるパニック映画のエピソードはほとんど描かれない。どん底にいる若者たちが、迫り来るガスから逃れるため、必死に上を目指して行く。ヨンナムとウィジュは、学生時代山岳部だった。その経験を生かし、身の回りのものと体を使い、自分と互いを信じて困難を乗り越えて行く。

 舞台はとある町のそれほど高くないビル。派手なアクションもなく、特別なヒーローもいない。二人が力を合わせ、壁を登り、建物を飛び移る。必死で生きようとするさまは、厳しい現状からの脱出にも重なる。緊迫感の間に、微妙な心境の変化も描いている。

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 チョ・ジョンソクは、軽快な動きとコミカルな演技で存在感が際立つ。動画で現場を見た人たちが、ドローンを使って見ず知らずの二人を手助けする。動画サイトでは多くの人が声援を送る。いまどきのツールをうまく取り入れており、最後まであきらめない二人はすがすがしく、思わず応援したくなる。イ・サングン監督は、青龍映画賞で新人監督賞を獲得した。

(文・岩渕弘美)

「EXIT」(2019年、韓国)

監督:イ・サングン
出演:チョ・ジョンソク、ユナ、コ・ドゥシム、パク・インファン、キム・ジヨン

2010年11月22日(金)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/exit/

作品写真:(C)2019 CJ ENM CORPORATION, FILMMAKERS R&K ALL RIGHTS RESERVED

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2019年11月21日

第32回東京国際映画祭を振り返る スペイン、インドネシアの個性派作品に注目

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 2019年10月28日〜11月5日に開催された「第32回東京国際映画祭」。審査員長に中国映画女優チャン・ツィイーを迎え、世界各国から応募された14作品がグランプリを争う「コンペティション」部門を中心に、アジアの新鋭監督たちが競いあう「アジアの未来」、個性あふれる日本映画が世界を目指す「日本映画スプラッシュ」など、世界中の様々な映画が一堂に会する日本を代表する映画祭だ。今回、私が鑑賞出来た受賞作品と共にお勧めな紹介したい。

【東京グランプリ・東京都知事賞】

「わたしの叔父さん」(デンマーク)監督、脚本、撮影、編集フラレ・ピーダゼン、出演イェデ・スナゴー

 体の不自由な叔父と牛舎で牛の世話をする姪クリス。獣医になる夢を持つクリスの前に立ちはだかる叔父の世話。夢と現実の狭間で葛藤するクリスの選択という普遍的なテーマを、監督は静かな洞察力で描いた。キャストが絶妙で、実生活で血縁関係のある演技経験のない叔父と女優の姪が生み出す無言のハーモニーに惹きつけられる作品だ。

【審査員特別賞】

「アトランティス」(ウクライナ)監督、脚本、撮影監督、編集、プロデューサーのヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ、出演アンドリュー・リマルーク

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 近未来2025年のウクライナ東部を舞台に、戦争で受けたPTSDに苦しむ元兵士の心の葛藤を音楽を使わず、殆どワンシーン、ワンカット、ワンフレームという斬新な撮影法を使い、戦争がもたらす代償と心に闇を抱えてしまった兵士の心情を掘り下げた異色作だ。実際に元兵士だったリマルークが武骨な元兵士を体現した。

【最優秀監督賞、最優秀男優賞】

「ジャスト6.5」(イラン)監督、脚本サイード・ルスタイ、出演ナヴィド・モハマドザデー

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 イラン警察と大物ドラッグ売人との戦いを、捜査過程から検挙、ジャンキーのたまり場、取り調べ、逮捕者であふれかえる拘置所、裁判、死刑執行までを、膨大なセリフとハイテンションな演技で魅せた力作だ。貧困から脱出するために薬物売買に手を染める売人の姿にイランの深い闇を感じた。

【アジアの未来 作品賞】

「夏の夜の騎士」(中国)監督ヨウ・シン、出演ホァン・ルー

 1997年、親と離れ祖父母の家に預けられて生活する小学生ティエンディエン。祖母の自転車が盗まれた事で経験する夏休みの日々を、少年の目を通して大人たちに対する不条理な思いと、小学生らしい純粋な眼差しを繊細に描いた作品だ。

 他にもお勧めな2本を紹介したい。

 「コンペティション」に出品されたスペインのカルト小説を映画化した「列車旅行のすすめ」(スペイン、フランス)は、摩訶不思議な迷宮的な物語をぶっ飛んだ演出で魅せた。監督のセンスに魅了される大人の寓話だ。

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 「CROSSCUT ASIA」で上映された「フォックストロット・シックス」(インドネシア)は、「トータルリコール」(90)「ターミネーター2」(91)など80〜90年代ハリウッドを一世風靡した大物プロデューサーのマリオ・カサールがエグゼクティブプロデューサーを務めた近未来SFアクション超大作だ。ややCGにチープさは否めないが、悪徳政府に対して元海兵隊員の国会議員がかつての兵隊仲間たちと力を合わせて、インドネシアの未来ために正義の戦いに挑むアクション満載の男気溢れる娯楽作だ。

 日本で見ることが難しい世界の映画に気軽に触れられるのが映画祭の醍醐味だ。今回「東京国際映画祭」で上映された世界の映画が、一本でも多く日本で劇場公開されることを願う。

(文・写真 藤枝正稔)

写真:

「わたしの叔父さん」(左から)プロデューサーのマーコ・ロランセン、女優イェデ・スナゴー、フラレ・ピーダセン監督

「アトランティス」(左から)ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督、男優アンドリュー・リマルーク

「ジャスト6.5」(左から)サイード・ルスタイ監督、男優ナヴィド・モハマドザデー

「列車旅行のすすめ」(左から)アリツ・モレノ監督、原作者アントニオ・オレフド

posted by 映画の森 at 23:22 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする