2019年10月16日

「ガリーボーイ」ラップで世界を変えたい インド発青春サクセス・ストーリー

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 インド最大の商業都市、ムンバイ。大学生のムラド(ランビール・シン)は、雇われ運転手を父にスラムで暮らしている。両親はムラドを大学に行かせ、成功できるよう懸命に働いていた。しかしムラドは、生まれで人を判断する社会に憤り、地元の悪友とつるみ、内緒で裕福な恋人と交際していた。

 ある日、大学でラップをする学生MCシェール(シッダーント・チャトゥルヴェーディー)と出会い、言葉とリズムで気持ちを自由に表現する世界にのめりこんでいく。ムラドは“ガリーボーイ”(路地裏の少年)と名乗り、現実を変えるためラップ・バトルで優勝を目指す決意する──。

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 実在するインドの若きラッパー、Naezy(ネイジー)とDivine(ディバイン)の半生を映画化した。主演は「パドマーワト 女神の誕生」(18)のランビール・シン。監督は「チャンスをつかめ!」(09)、「人生は一度だけ」(11)のゾーヤ・アクタル。字幕監修は日本語ラップに造詣の深い、いとうせいこう。

 映画大国インドの作品は、最近すさまじい勢いで日本に押し寄せている。口コミでロングランヒットしたアクション史劇「バーフバリ」二部作など劇場公開も増えた。豪華絢爛なダンスと歌の「ムトゥ 踊るマハラジャ」(95)、青春コメディー「きっと、うまくいく」(09)、VFX満載のSFアクション「ロボット」(10)などジャンルは多岐にわたる。英国ではダニー・ボイル監督がムンバイを舞台に「スラムドッグ$ミリオネア」(08)を撮って大ヒットさせた。

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 「ガリーボーイ」の舞台もムンバイで、スラム街のダラビ地区だ。貧困と格差の閉塞感に苦しむムラドは、両親と祖母、弟とプライパシー皆無の狭い家に暮らしている。仲間が車を盗んだり、子どもを使って麻薬を取引する様子を目の当たりにし、悩み苦しむ一方で、裕福な医学生の恋人サフィナ(アーリア・パット)との交際は13歳から続いている。しかし、サフィナはムラドとの交際を両親に隠している。

 繊細で恥ずかしがりのムラドは、内に秘めた熱い思いを隠して学生生活を送っていたが、大学で行われたコンサートでラップと出会い、熱い思いを言葉に込める世界へ足を踏み入れる。ラップはアーティストの魂の叫びをリズムに乗せ、韻を踏んで発する歌唱法だ。遊びで始めたラップが、魂の叫びへ変わる邦画「サイタマノラッパー」シリーズと同じである。主人公が困難を乗り越えて魂の叫びを吐き出す姿は熱い。

 貧困と格差の激しいインドで、ラップを武器に未来を切り開く青年のサクセス・ストーリーだ。ランビール・シンは「パドマーワト 女神の誕生」で披露した筋骨隆々な自慢の肉体美を封印。繊細な青年を好演している。

(文・藤枝正稔)

「ガリーボーイ」(2018年、インド)

監督:ゾーヤー・アクタル
出演:ランビール・シン、アーリアー・バット、シッダーント・チャトゥルベーディー、カルキ・ケクラン、ビジャイ・ラーズ、ビジャイ・バルマー

2019年10月18日(金)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://gullyboy.jp/


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2019年10月11日

「細い目」シャリファ・アマニに聞く ヤスミン・アフマド監督は「母のような存在。今も教わっている」

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 2009年に51歳で急逝したマレーシアのヤスミン・アフマド監督の長編第2作「細い目」(04)が公開中だ。多民族・多宗教・多言語のマレーシア社会を舞台に、マレー系の少女と中華系の少年の恋を通し、普遍的な愛や人間性を描いた作品。東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞するなど、監督の名を世界に知らしめた。

 当時17歳で主人公の「オーキッド」を演じたシャリファ・アマニは現在33歳。「グブラ」(05)や「ムアラフ」(08)など一連のヤスミン作品の中心的存在として、監督が描く世界を支えた。没後10年がたち、最近では監督業にも挑戦を始めたシャリファは「ヤスミンは母のような存在。今も教わっている感覚があります」と語った。

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 主なやり取りは次の通り。

自分が「伝えたい」ではなく必要性

 ──「細い目」は、あなたにとってどんな作品ですか。

 本当に多くのものを与えてくれました。当時私は、子どもながら「表現者になりたい」と思っていました。人を楽しませたかった。「細い目」で夢がかないました。ヤスミンが生きる目的を示してくれたのです。「細い目」には私の人生の最高の時、最高の思い出が焼き付けられています。私にとって永遠の恋なのです。

 ──監督にも最近挑戦されていますね。ヤスミン監督から学んだ一番大きなことは何でしょうか。

 目的を明確化すること。なぜこの物語を伝えなければならないのか。自分が「伝えたい」ではなく必要性です。ヤスミンは両親を喜ばせたかった。邪心のなく、勤勉に働き、親孝行をする。これが彼女の教えで、守るようにしています。

 ──どんな物語を撮りたいですか。

 これまで作った短編4本で、脚本も書き、演出しました。人間関係や愛を描いていきたい。作品を見た人に言われて気づきましたが、私は割合に政治的な人間のようです。1作目は児童婚を取り上げ、若いカップルの関係性を描きました。2作目は故郷のない子が罪深いと感じる話。階級社会がテーマです。3本目は女性二人を主人公に、レズビアンの関係性を描きました。4本目は十代の妊娠をめぐる父親と娘の関係。。マレーシアでは深刻な問題なのです。

 ヤスミンの「娘」なので、社会問題に目が向くのだと思います。大きな社会問題はアーティストとして難しくても、向き合う立場にあります。私がやろうとしているのは、鏡を掲げて、そこに映る自分の姿をお客さんに見てもらうことです。

 将来長編を撮ることになれば、かなり個人的な話になるでしょう。「知っていることを書きなさい」と、ヤスミンに教えられたので。怖いですよね、逃げ場がないですから。

 大きなプレッシャーを感じます。「ヤスミンのようにならなくては」という期待も感じます。最初の短編はヤスミンの作品と比べられました。「彼女の陰からいつ出て行くことができるのか」と聞かれ、とても傷つきました。似た作品を作っているわけではないのに。

 私にとってヤスミンは、母のような存在でした。彼女の現場ですべてを学びました。彼女のようになることはないですが、敬い感謝しています。「陰」から出ていきたいとも思いません。素晴らしい人だったので。語り手としてだけでなく、人間としてプレッシャーを感じるのです。でも、ヤスミンに「勇敢であれ」と教わったので努力します。

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去ることで「自分でやりなさい」と教えてくれた

 ──ヤスミン監督に聞きたいことがたくさんあるのでは。

 もちろん! 生前日本でロケハン中に「私も監督になりたい」と言ったら、真剣に受け取ってもらえませんでした。「子どもが何か言ってるわ」という感じ。ちょっと怒ったら「分かった。教えてあげるから」と言ってくれたのに、まもなく亡くなってしまいました。

 でも、今も教わっている感覚があります。彼女がいたら頼ってしまうし、道標として指示を待ってしまう。いつも「どこかへ連れて行ってもらう」姿勢になってしまう。彼女は去ってしまうことで「自分でやりなさい」と教えてくれるんだな、と思うようになりました。「あなたには十分、強さはあると思うよ」と。

 ──行定勲監督の映画「鳩 Pigeon」(2016)に出たり、日本で舞台に主演するなど、日本との縁もありますね。

 何かご縁がありますね。最初は(ヤスミン監督が生前構想していた)「わすれなぐさ」のロケハンで来日し、長く滞在したので記憶に残っています。マレー語で「Rezeki(幸運、神様のおぼしめし)」といいますが、幸運にも継続して、重要な関係を築けています。理由は分からないけれど、答えを探すのが楽しみです。

政権が交代し、マレーシアはオープンになった

 ──世界的に分断、差別、排他主義が広がっていますね。こういう時代にこそ、ヤスミン監督の映画を見てほしいと思います。マレーシアは政権が交代しましたが、社会はどう変わりましたか。

 とてもオープンになりました。(1957年の独立以来)61年ぶりに政権が替わったんですよ。人々が国を支配していると感じます。政治家は私たちににつかえる立場。新しい政権が私たちの価値を理解せず仕事を怠ったら、人々に変える力がある。誰が力を持っているのか知りました。今は何か起きればインターネットですぐ広がるので、翌日に政権が替わる可能性もあります。

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 ──映画界も変わりましたか。

 昨年の(マレーシア映画界最大級の映画賞)マレーシア・フィルム・フェスティバルで、警察の腐敗を描いた「One Two Jaga」(ナムロン監督、2018年)が最優秀作品賞を獲りました。(社会問題について)より果敢な報道が許される状況になっています。

 社会的なテーマを取り上げる作品が増え、権力者を問い質しやすくなりました。マレーシアに住んでいて、わくわくする時代です。

 ──次はどんなテーマを考えていますか。

 個人的なテーマになるでしょう。今話すのは怖いかも。口に出したら実現しない気がします。幼い頃、女優になりたかったけれど、口にしませんでした。周りのみんなは知っていたようですが。黙っていたほうが、実現するんですよ(笑)。

(聞き手・写真 遠海安)

「細い目」(2004年、マレーシア)

監督:ヤスミン・アフマド
出演:ン・チューセン、シャリファ・アマニ、ライナス・チュン、タン・メイ・リン

2019年10月11日(金)、アップリンク吉祥寺、アップリンク渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/hosoime/

posted by 映画の森 at 11:37 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月09日

「細い目」多民族国家マレーシア ヤスミン・アフマド監督、壁を越える恋へ優しい眼差し

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 マレーシアのマレー系少女、オーキッド(シャリファ・アマニ)は香港のスター、金城武が大好き。ある日、屋台で香港映画の海賊版ソフトを売る中華系少年、ジェイソン(ン・チョーセン)と出会い、一瞬で恋に落ちる。民族や宗教が異なる二人の恋は、互いの家族や友人たちの間にさざなみを呼ぶ──。

 マレーシア映画「細い目」は、2009年に急逝したヤスミン・アフマド監督の長編第2作。マレーシア・アカデミー賞でグランプリ、監督賞、脚本賞、新人男優・女優賞、助演女優賞の6部門を独占し、2005年の第18回東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞した。監督は51年の生涯に長編6作品を残した。

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 シンプルで普遍的なラブストーリーの形をとりながら、民族や宗教の違いから生まれる差別や偏見を盛り込んでいる。対立する家族が争うシェークスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」に通じる部分がある。

 中華系のジェイソンは、車いす生活の父親がいる。貧しい生活で、裏社会を牛耳るやくざの手下のような立場。屋台で海賊版ソフト売り、すねに傷を持つ少年だ。一方、オーキッドは、お手伝いさんもいる家庭で大切に育てられている。家庭環境も違いすぎる二人の恋。いくつかの障害はあるものの、双方の家族は若い二人を優しく見守っている。監督は大きな視点で物語を見つめている。

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 母方の祖母が日本人のヤスミン監督は、山田洋次監督の「男はつらいよ」が好きだったという。オーキッドの両親、お手伝さんら大人の存在が、物語に膨らみを持たせる。助演の家族が物語を盛り上げる「男はつらいよ」と通じるようだ。冒頭、オーキッドとジェイソンをつなぐスターが、金城武なのも心憎く、日本人にはうれしい設定だ。

 民族や宗教の違いを現実的に描く一方、幕引きは観客の想像力に委ねた。やや戸惑いを感じたが、抽象的な幕引きが逆に余韻を残す結果となった。監督の優しい眼差しに包まれ、懐かしい味わいがする青春恋愛映画だ。

(文・藤枝正稔)

「細い目」(2004年、マレーシア)

監督:ヤスミン・アフマド
出演:ン・チューセン、シャリファ・アマニ、ライナス・チュン、タン・メイ・リン

2019年10月11日(金)、アップリンク吉祥寺、アップリンク渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/hosoime/

posted by 映画の森 at 23:54 | Comment(0) | マレーシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする