2019年09月26日

「バオバオ フツウの家族」蔭山征彦に聞く 台湾で演じて15年「自分の能力を信じて」

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 台湾との縁は、足かけ20年になった。大学時代に地震被災地の支援に赴いたのをきっかけに、演技の道に進み、映画やドラマに出始めて15年。2019年9月28日(土)公開予定の映画「バオバオ フツウの家族」の公開を前に、台湾で活動する日本人俳優、蔭山征彦に話を聞いた。

 台湾で大ヒットした映画「海角七号 君想う国境の南」(08)ではナレーション、「あなたなしでは生きていけない」(09)では音楽、「父の子守唄」(12)では初主演、「KANO 1931 海の向こうの甲子園」(14)では出演、演出補佐。11月2日に公開される「あなたを、想う。」(15)は、中華圏を代表する女性監督、シルビア・チャンに脚本を採用され、香港電影評論学会の脚本賞を受賞した。

 「バオバオ フツウの家族」(18)は、子どもがほしい同性カップル2組が「妊活」に取り組む人間ドラマ。アジアで初めて同性婚が認められた台湾の今を反映する物語で、蔭山は初めてLGBTの男性を演じている。


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俳優、脚本家として「セリフを大事にしたい」
 主な一問一答は次の通り。

 ──「バオバオ フツウの家族」出演に至った経緯を教えて下さい。

 「父の子守唄」のメインカメラマンが、今回の作品のプロデューサーです。クランクインの半年前、2016年年の末に台本もらい、久しぶりに会いました。「ファインダー越しに見た芝居がとても好きなので、ぜひ主演してほしい」と連絡をもらいました。

 ──LGBTの役を演じるのは初めてですね。役作りにどんな工夫をしましたか。

 ゲイの知り合いに話を聞き、アドバイスをいくつかもらいました。男性らしい面、女性らしい面を、場面に応じて切り替えながら演じていきました。ちょっとしたしぐさや姿勢、歩き方。彼らには「(男性と女性の)どちらにもなるよう使い分け、役を立体的にしたい」と話しました。

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 ──台湾での公開後、観客の反応で印象的だったことはありますか。

 僕を直接知っている人は、たいてい(演技を)評価してくれます。そうではなく、ネットに書き込んでいる人や、僕を知らない人が「好き」と言ってくれるかどうか。台湾のある著名な映画評論家が、映画への評価はまずまずとしていたけれど、僕の演技は高く評価してくれました。

 (劇中登場する)山で起きた喧嘩のシーンは、セリフの変更をお願いしました。考えたセリフを紙に印刷し、監督に見せて「この方がいい」と推したんです。「10年後の自分たちが幸せでいたい」というセリフで、ネットでの評価が高かった。自分のセンスは間違ってなかったんだな、と思いました。

 一人の俳優、脚本家として、構成よりセリフを大事にしたいです。たとえば10年前の映画なら、時間軸や構成は観客に忘れられても、強烈なセリフは残る。何十年たっても印象に残るようなセリフを書きたいと思っています。

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一度きりの人生「後悔したくなかった」
 ──音楽、脚本、演出と、さまざまな立場で映画作りにかかわってきました。今後、何を主軸に置きたいですか。

 演出です。監督になることを目標に、脚本を書き始めました。温めている題材はあります。できれば脚本と演出をセットで手がけたい。難しいけれど、いつか実現すればと考えています。(脚本を書いたシルビア・チャン監督の)「あなたを、想う。」もそうでしたが、思いつく話は恋愛ものより、家族をめぐるものが多い。理由は分かりませんが。

 ──「あなたを、想う。」の撮影に立ち会ったそうですね。監督の演出を見て何を得ましたか。

 カット割りが一番勉強になりました。監督には「脚本をこういう思いで書いた」と話した記憶があり、思いを汲み取ってくれました。監督は香港に住んでいるので、台湾で次に撮るのはいつか分からない。チャンスを逃したくなかったので、お願いして現場に立ち会いました。

 一流の監督はどう演出するか、カット割りもノートに書いて理解しました。モニターを監督の後ろで見て、カメラワークも学びました。とても貴重な現場で、俳優として見るのとは全く違う立場を経験できました。

 ──台湾で仕事をして15年ですね。ここまで続けられた理由はなんでしょう。

 一番大きいのは、後悔したくないから。この業界で能力があっても運に恵まれず、やめていく人たちをごまんと見てきました。でも、半分以上の人が心のどこかで「なぜやめてしまったのか」と思っている。人生は一度きりじゃないですか。たかだか80年です。真剣に自分の人生と向き合い、逃げたくありませんでした。どんな結果になろうと、やれるだけやりたいと思っていたら、いつの間にか15年たっていたんです。

 もちろん、この世界は評価されてなんぼです。理論を持っていても、現場で評価されなければダメ。シルビア・チャン監督が認めてくれて、香港で賞ももらって、すごくうれしかった。今後もきちんと評価してもらえるようなクオリティーを求めていきたいです。

 台湾でも中国語を武器に、台湾人の俳優と張り合いたいと思ってきました。日本人という特権を抜きにして、自分を起用してほしいと思ってきました。

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監督を夢に「仕事の挫折は仕事で補う」
 ──後悔したくないということですが、具体的な目標を定めていますか。

 はい。台湾に移住する前に、2つ目標を定めました。まずは「劇場公開される映画で主演すること」。さらに「監督をすること」。「父の子守唄」で1つ目は果たしました。もう1つはこれからです。ここまでしがみついてきたので、あきらめたくない。感覚的にはあと一歩のところまで来ている気がします。今まで話も聞いてくれなかった人が、「あなたを、想う。」の受賞で話を聞いてくれるようになりましたから。

 ──個人的に好きな作品、監督は。

 リアルな映画。ケン・ローチや陸川(ルー・チュアン)。物語の起伏が少なく、物足りないかもしれないけれど憧れます。人生を隠し撮りしているような感覚がいいですね。

 ──日本人として中国語を習得し、台湾人と同じ土俵で戦っています。困難にあたった時、自分をどう励ましていますか。

 まずは自分の能力を信じて、仕事の挫折は仕事で補うことにしています。仕事の借りは絶対に同じ土俵で返したい。うまくできないことはもちろんありますが、どんなに落ち込んでも向き合う時間を作ります。

 不幸せであることがモチベーションなのかもしれません。認められたら、もっと上に行こうと思えなくなるかもしれない。自分が望まない現状があって、もっといいもの書こうと思えるんです。

 ──強い精神力ですね。

 台湾に長く住んでいるからこそ、日本が美しく見えることもあります。台湾には仕事のチャンスを与えてもらい、日本ではなんでもない人間が居場所を見つけられました。脚本でも、演技でも、音楽でも、いいところがあればチャンスをもらえます。それが日本ではなかなか難しい。踏んでいくステップが台湾はショートカットで、上がいいといえば下が動きます。結果が出せなければだめだけれど、あきらめもつきます。台湾に救われたなあ、と思いますね。

(文・写真 遠海安)

「バオバオ フツウの家族(原題・親愛的卵男日記)」(2018年、台湾)

監督:シエ・グアンチェン(謝光誠)
出演:エミー・レイズ(雷艾美)、クー・ファンルー(柯奐如)、蔭山征彦、ツァイ・リーユン(蔡力允)

2019年9月28日(土)、新宿K's cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://baobao.onlyhearts.co.jp/

作品写真:(C)Darren Culture & Creativity Co.,Ltd.
posted by 映画の森 at 11:00 | Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする