2019年05月21日

「貞子」中田秀夫監督、14年ぶりに貞子の恐怖を描く 「リング」シリーズ原点回帰

1.jpg

 心理カウンセラーの秋川菜優(池田エライザ)のもとに、記憶喪失の少女が入院してくる。少女は、1週間前の公営団地放火事件の容疑者・祖父江初子(ともさかりえ)が、人知れず生み育てた子供だった。少女と真摯に向き合う菜優だったが、次第に周囲で奇妙なことが起き始める──。

 鈴木光司原作の映画「リング」シリーズ最新作「貞子」。「リング」(98)、「リング2」(99)、ハリウッド版「ザ・リング2」(05)の中田秀夫監督が14年ぶりに貞子の恐怖を描いた。原作は鈴木の「タイド」だが、映画版はほぼオリジナルストーリー。

 「そのビデオ映像を見た者は7日後に死ぬ」。都市伝説「呪いのビデオ」の恐怖を描いた「リング」シリーズ。時代が進み映像技術は進歩し、ビデオは姿を消して動画配信へ変化。「撮ったら呪われる」に変わった。さらに「見た7日後に死ぬ」もなくなり、一度貞子に見入られた者は死から逃れられない。呪いの「新ルール」のもとで物語は展開する。

2.jpg

 注目すべきは中田監督の帰還に加え、「リング」、「リング2」で貞子の呪いを逃れた佐藤仁美が、同じ倉橋雅美役で20年ぶりに登場したことだ。「リング2」で雅美は呪いから逃れたものの、精神を病んで病院に幽閉された。今回は雅美のその後が描かれる。高校生だった雅美は中年になり、病院の心理カウンセラー・菜優に執着。ストーカー患者として現れる。新作が旧作とリンクする仕掛けだ。

 さらに、貞子と対になる少女(姫嶋ひめか)が登場する。放火事件で助かった少女は、貞子と同様に戸籍がなく、名前も言えぬ記憶障害。怒りの力で物を動かす超能力・テレキネシスを持っていた。怒りの念力で人を殺す子ども時代の貞子を彷彿させる。ここ数年の「リング」シリーズの焦点は、貞子の恐怖に特化していたが、久々にその原点になる超能力者が現れた。

3.jpg

 少女が暮らした公営団地の部屋は、放火事件後にネットで心霊スポットと名指しされた。一攫千金を目論む菜優の弟でユーチューバーの和真(清水尋也)は、肝試し動画を撮るために放火現場に無断侵入。しかし、無人の部屋で自撮りする和真の背後に、髪が長く白いドレス姿の貞子が写り込んでいた。その後、和真は行方不明となり、菜優は和真の相談相手だった石田(塚本高史)と弟の行方を探す。

 98年にスタートした「リング」シリーズは、続編「らせん」(98)、映画版続編「リング2」と展開。前日譚「リング0 バースディ」(00)、ハリウッド・リメイク版3本も派生させながら、最近では「貞子3D」シリーズや「貞子vs伽耶子」(16)などイベント的な作品も生まれた。いわば貞子の独り歩き状態だったが、今回の「貞子」は中田監督が本領発揮。時代を象徴するSNSを物語に取り入れながら、派手なCGを使わず、アナログ的な王道演出。観客を恐怖に陥れる正統な作風だ。

 物語の根底に流れるのは家族愛だ。「リング」では家族の呪いを回避するため主人公があがいた。「貞子」では呪いで行方不明となった弟を救うため姉が苦しむ。一方、超能力を持ってしまった少女の苦しみと悲しみ、貞子生誕の地・伊豆大島の洞窟内“賽の河原”のクライマックスも必見。長きに渡る「リング」シリーズが本道に戻り、原点回帰を試みた作品である。

(文・藤枝正稔)

「貞子」(2019年、日本)

監督:中田秀夫
出演:池田エライザ、塚本高史、清水尋也、姫嶋ひめか、桐山漣

2019年5月24日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://sadako-movie.jp/

作品写真:(C)2019「貞子」製作委員会
posted by 映画の森 at 14:03 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月20日

パク・ヘイルがデビュー秘話、全州国際映画祭で「青春がテーマの詩を読み、演技を続けると決めた」

@上映後Q&A−1.jpg

 韓国・全羅北道全州市で5月2日から10日間「第20回全州国際映画祭2019」が開かれ、国内外の長短編275本が上映された。今年は韓国映画が作られ始めて100周年。これを記念して映画祭は「100年間の韓国映画」のセクションを設け、過去の映画を上映して監督や出演者をゲストに招いた。映画デビュー作「ワイキキ・ブラザーズ」(01)が上映されたパク・ヘイルはイム・スルレ監督とともに登壇し、撮影時のエピソードを明かした。

@上映後Q&A−2.jpg

デビュー作「ワイキキ・ブラザーズ」18年ぶり凱旋
 「100年間の韓国映画」セクションは1990年代以前の「20世紀」部門と2000年代以降の「21世紀」部門からなる。「21世紀」部門では2000年から2010年までに製作された14本が紹介された。その1本が、ナイトクラブでの演奏で生計を立てる中年バンドマンの悲哀を描いた「ワイキキ・ブラザーズ」(01)。第2回全州映画祭のオープニング作品で、今回は18年ぶりの「凱旋」となった。

 パク・ヘイルはこの作品でイ・オル演じる主人公ソンウの高校時代を演じた。イム監督によると、高校生のソンウ役のキャスティングに悩んでいた時、事務所のスタッフがソウルの演劇街・大学路の舞台に立つパクを“発掘”した。当時パクは23〜24歳。監督は「演劇ならともかく、カメラの前では年齢はごまかせないだろうと思った。しかし演技はうまいし、実際に会ってみると肌がとてもきれいだった(笑)」と起用の経緯を回想した。

@上映後Q&A−3.jpg

 パクは監督の話に照れ笑いしながら、「音楽が大好きだった高校時代を思い出し、バンドメンバー役の他の俳優と一緒に2カ月間スタジオにこもって練習した。この映画は今も常に(俳優としての自分の)土台になっている」と懐かしそうに振り返った。


「演劇を始めたけれど、お金にならない。やめようと思うこともあった」
 また、観客から若い頃の夢について尋ねられると「音楽が好きだったが才能がなかった。演劇を始めたけれど、まったくお金にならない。やめようと思うこともあった。ある時、青春をテーマにした詩を読んで、演技を続けることを決めた。それが今につながっている」と、悩み多き日々があったことを告白した。

A映画祭メーン会場.jpg

 イム監督が「理想と現実のギャップについて語ろうとした映画」と話すように、作品のテーマは社会のレールから外れたアウトサイダーの人生。何もかも思い通りにいかない人の焦りと諦念を淡々と描きながらも、生活に追われて夢と輝きを失ってしまう人に向ける視線は温かい。俳優の熱演も見どころで、無名時代のファン・ジョンミンやリュ・スンボムも現在の活躍を予告する演技を見せている。

Cワイキキスチール2.jpg

 「ワイキキ・ブラザーズ」は興行的に成功したとは言えないが、観客や評論家からは高い評価を受けた。1990年代までの多くの韓国映画が強いメッセージ性を備えていたのとは対照的な、作家主義的な感性が人々の心をつかんだのだ。韓国映画の歴史において2000年代前半という時代は「多様なジャンル映画が花開いた時代」といえる。この時期は教育機関で映画を学んだ人や芸術家、作家といったさまざまな人材が映画界に参入した。同時期に製作システムが確立してきたこともあり、韓国の映画産業は急激な広がりをみせた。

 今回、映画祭でこの時代の映画を再見し、発想力の豊かさに改めて驚かされた。特定のジャンルに偏りがちな商業映画へのアンチテーゼとしての映画祭の力を再認識した。

(写真・文 芳賀恵)

写真
1〜3:上映後の質疑応答に参加する(右から)イム・スルレ監督、パク・ヘイル=5月3日
4:映画祭メーン会場
5:「ワイキキ・ブラザーズ」場面写真=映画祭事務局提供

posted by 映画の森 at 21:27 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月10日

「ラ・ヨローナ 泣く女」ジェームズ・ワン製作、「死霊館」に通じる「最恐」ホラー

1.jpg

 1970年代の米ロサンゼルス。不可解な死を遂げた子の母親が、不吉な警告を発する。無視したソーシャルワーカーのアンナ(リンダ・カデリーニ)と子供たちは、ある女の“泣き声”を聞いてしまう。その日を境に数々の恐ろしい現象に襲われることになる──。

 製作は「死霊館」シリーズのジェームズ・ワン、監督は今回が長編デビューのマイケル・チャベス。「ラ・ヨローナ」は、スペイン語で「泣く女」を意味する。

 「死霊館」(13)で始まったワンのホラー映画は、同作に登場する人形を題材にした「アナベル 死霊館の人形」(14)など派生を続け、今回もその1本といえる。メキシコの怪談に登場する呪われた「泣く女」がモチーフだ。

2.jpg

 ヨローナの原点から話は始まる。村一番の美女がスペイン人と恋に落ち、子供二人を授かった。幸せは続かず、男は裕福なスペイン人女性のもとに去る。美女は嫉妬に狂い、夫最愛の子ども二人を溺死させる。美女は我に返り、後悔に苦しみ、泣きながら川へ身を投げる。

 時は移って現代。ヨローナの涙は枯れず、わが子を探してさまよっていた。ロサンゼルスのアンナは、虐待の疑いがある女性パトリシアの家で、クローゼットに閉じ込められていた兄弟を救う。パトリシアの行為は、ヨローナの呪いから逃れるためだった。事情を知らないアンナの救助で、最悪な事態が起きる。兄弟が川で水死体で見つかったのだ。アンナに怒り狂うパトリシア。やがてヨローナの呪いはアンナの子二人に向けられる。

3.jpg

 ジェームズ・ワンのヒット作「死霊館」シリーズと、底辺でつながっている。中盤にヨローナの呪いに苦しむアンナが教会に相談に行くと、「アナベル 死霊館の人形」に登場したペレス神父(トニー・アメンドーラ)が登場。アンナに悪魔ばらいにたけたラファエル神父(レイモンド・クルツ)を紹介する。

 ヨローナは狙った子供に執着する粘着系で、執念深さは日本ホラー・キャラ「貞子」を彷彿させる。泣き声とともにプール、バスタブなど水のある場所ならどこでも出現。家ごと破壊しかねぬパワーで家族に襲いかかる。最終的には悪魔ばらいに頼ることになり、神父はヨローナの一騎打ちに臨む。

 チャベスの語り口は、デビュー作らしからぬうまさ。ショック演出の間合いも良く、ホラー監督として期待できる逸材だ。ワンも手腕を買っているようで、20年公開の「死霊館」シリーズ3作目の監督に抜擢したという。「ラ・ヨローナ 泣く女」は、ワンが送り出す「最恐」ホラーだ。 

(文・藤枝正稔)

「ラ・ヨローナ 泣く女」(2019年、米国)

監督:マイケル・チャベス
出演:リンダ・カーデリニ、マデリーン・マックグロウ、ローマン・クリストウ、レイモンド・クルツ、パトリシア・ベラスケス

2019年5月10日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://wwws.warnerbros.co.jp/lloronamoviejp/

作品写真:(C)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
posted by 映画の森 at 15:22 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする