2019年04月10日

「多十郎殉愛記」巨匠・中島貞夫監督、20年ぶり長編は“ちゃんばら時代劇” 光る高良健吾の役者魂

1.jpg

 幕末の京都。貧乏長屋に住む清川多十郎(高良健吾)は、親が残した借金から逃れるため長州を脱藩し、無為な日々を過ごしていた。かつて名うての侍だったが、今は鬼神のような剣の強さを持て余す毎日。何かと世話を焼く小料理屋の女将・おとよ(多部未華子)の思いに気付きながらも、孤独を貫こうとしていた──。

 東映映画の巨匠・中島貞夫、20年ぶりの長編作品は、ちゃんばら時代劇だ。1970年代に犯罪アクションの傑作「狂った野獣」(76)、ヤクザ映画大作「やくざ戦争 日本の首領」(77)のほか、多くの実録ヤクザ映画を監督。「にっぽん’69セックス猟奇地帯」(69)など一連の風俗ドキュメンタリー作品も手がけるなど、オールマイティーな監督だ。

 数々の作品を世に送り出した後、「極道の妻たち 決着」(98)を最後に監督業を離脱。後継の育成に力を注いでいたという。84歳での新作「多十郎殉愛記」には、教え子で「海炭市叙景」(10)を監督した熊切和嘉が“監督補佐”として名を連ねている。

2.jpg

 東映忍者もの「くノ一忍法」(64)でデビューした中島監督にとって、古巣の「東映京都撮影所」で撮ったちゃんばら時代劇「多十郎殉愛記」は、原点回帰と受け取れる作品だろう。「くノ一忍法」に出演した三島ゆり子、斬られ役で有名な福本清三、地回りの親分役の堀田眞三、医師役の野口貴史ら、監督作品の常連俳優が顔をそろえた。

 京都見廻組に目をつけられた多十郎は、腹違いの弟・数馬(木村了)とおとよを守るためにおとりとなる。一人で溝口蔵人(寺島進)率いる抜刀隊と見廻り組を敵に回し、30分間に渡る壮絶な大捕り物がクライマックスに用意されている。長屋を背景に多十郎が大勢の敵と繰り広げる殺陣、大八車を使った捕り物シーンは、勝新太郎主演「座頭市」シリーズを彷彿させる。竹やぶを使ったざん新な殺陣は、往年の時代劇ファンのツボをくすぐるだろう。

3.jpg

 肉体と剣術だけで戦い続ける多十郎の姿は、昨今のCG(コンピューター・グラフィックス)を駆使したアクションと正反対。ちゃんばら時代劇の真骨頂、活劇の醍醐味だ。立ち回りの最中、多十郎が人質を取り立てこもるシーンがある。監督の青春犯罪映画「ジーンズブルース 明日なき無頼派」(74)の立てこもりシーンを思わせる演出で、今も体の中に変わらぬ70年代の魂が息づいているのか。93分と短めな上映時間に加え、あっさりとした幕引きも、かつて2本立て興行がメインだったブログラム・ピクチャーを思い出させる。

 生と死をかけた見事な殺陣。ふんどし姿で男の色気を醸し出した高良の役者魂。意志の強さと母性を合わせ持つ演技の多部。いずれも小池一夫原作「子連れ狼」など、70年代の劇画から飛び出したようだ。中島監督の健在ぶりと、衰えぬ「活動屋魂」に改めて感服する作品だ。

(文・藤枝正稔)

「多十郎殉愛記」(2019年、日本)

監督:中島貞夫
出演:高良健吾、多部未華子、木村了、三島ゆり子、栗塚旭

2019年4月12日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://tajurou.official-movie.com/

作品写真:(C)「多十郎殉愛記」製作委員会

posted by 映画の森 at 00:04 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする