2019年03月13日

第29回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭を振り返る 開幕作に波紋、斎藤工がサプライズ登場 最後の冬開催

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 北海道夕張市で開かれていた「第29回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」は10日、森田和樹監督の「されど青春の端くれ」をオフシアター・コンペティション部門のグランプリに選んで幕を閉じた。開幕作のキム・ギドク監督作品が韓国の「#MeToo」運動の余波で波紋を呼んだほか、予算削減でスクリーン数が減りメジャー作品も減るなど、開催環境は決して良くなかった。それでもファンタ映画ファンの思いに支えられ、約1万2000人を動員した。雪に囲まれた幻想的な映画祭は今回で冬開催を終了。来年からは夏の映画祭に生まれ変わる。


男子高校生の日常描く

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 オフシアター・コンペ部門は、白石和彌監督を審査委員長とした4人の審査員が6作品の中から受賞作を決定した。グランプリの「されど青春の端くれ」は男子高校生3人の青春と性を描くもの。荒削りだが画面の構図や映像表現が個性的な作品だ。白石委員長は「マイナス面も多いが、何かを爆発させたい思いがストレートに伝わった」と選定理由を説明した。

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 同作が初長編の森田監督は鳥取県出身、東京都在住の30歳。2年前に病気で2カ月入院し、一度は映画をやめようと思ったことも。「映画を作りたいという強い気持ちがあった。これからもっと頑張りたい」と喜びを語った。次回作は青春スプラッター映画を構想中という。

 北海道知事賞は太田慶監督の「桃源郷的娘」。老浮浪者が若い娘に恋をしたことで始まる「艶笑コメディ」。太田監督は日活の事務部門で働きながら映像制作を学んだ遅咲きの監督だ。審査員特別賞はムン・シング監督(韓国)の「赤い原罪」が受賞した。神の神聖性を否定し宗教界に刃を突きつける衝撃的な内容だが、シナリオ準備と理論武装のために10年間神学を学び牧師となったというビハインドストーリーも観客を驚かせた。

斎藤工がサプライズ登場
 斎藤工が9日、都内で主演作「家族のレシピ」の初日舞台あいさつを終えて空路夕張入りし、映画祭恒例の屋外イベント「ストーブパーティー」に参加。4月公開の「麻雀放浪記2020」でタッグを組んだ白石和彌監督、脚本家のはしもとこうじ氏とのトークショーに登壇し、氷点下の夕張に熱気を呼んだ。

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 自身の監督初長編「blank13」を2017年のゆうばりで初上映するなど「ゆうばり愛」が強い斎藤。今回の映画祭では「ふだんファンタ映画祭に来ない親子連れなどが見られる映画を上映したかった」と、子ども向けのプログラムを選定。自身がプロデュースしたアニメーション作品や、この日のために企画・演出・出演した「スーパーベジタブルブギ 北海道・北の国から編」を上映した。

 映画館のない地域に映画を届ける「シネマバード」(移動映画館)の活動の一環として、年内に北海道内で開催する計画も明かし、地元ファンを喜ばせた。

キム・ギドク作品が物議、#MeToo運動で
 2月6日のラインアップ記者会見のあと、ゆうばり映画祭は「#MeToo運動」の渦中に投げ出された。開幕作にキム・ギドク監督の「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)を選んだためだ。

D人間、空間、時間、そして人間(仮題).jpg

 キム監督は「韓国の鬼才」と呼ばれ、海外での評判は高い。しかし映画の撮影中に暴行やセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)があったとして17年に女優に告発され、罰金500万ウォン(約50万円)の略式命令を受けた。その後も正式な謝罪や反省がないとして、韓国の女性団体などが強く非難している。

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 家父長制の価値観が残る韓国の「#MeToo運動」は日本では想像もできないほど強力だ。抑圧されてきた女性たちの怒りが噴出し、政治家や芸能人、芸術家など著名人が次々に告発されている。この状況で同監督の作品を上映することは韓国では考えられないのだ。

 ゆうばり映画祭には韓国の女性団体「民友会」が抗議声明を出し、上映の取りやめを求めた。映画祭側は同会への返答文で監督を招待しないことを伝え、差別や犯罪を助長する作品は上映しないとの立場を表明。さらに「本作品は問題の映画とは別個のものであり、個人の行為と多くの映画人の力が結集された作品とは別の問題」と主張した。

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 この映画の上映に、参加者からも疑問の声が上がったのは事実だ。白石和彌監督はオープニングセレモニーの審査委員長あいさつで「MeToo運動の流れで大きな罪を犯した監督。なぜそれを上映するのかという公式のコメントが必要だった」と苦言を呈した。これに対し塩田時敏プログラムディレクターは「問題が起きると作品を公開しない、お蔵入りにするということは、そろそろやめたほうがいい」と私見を述べたあと「ゆうばり映画祭は罪を憎む。しかし映画は憎まない」として、映画を見た上で自ら考え、議論してほしいと訴えた。

 「罪」と「作品」は果たして別個に考えるべきなのか、「表現の自由」は「被害者の権利」に優先するのか――。ゆうばり映画祭の選択は一作品の上映という問題を超えて多くの問いを残した。

(文・芳賀恵)

【受賞一覧】
◇ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門
グランプリ 「されど青春の端くれ」森田和樹監督
北海道知事賞「桃源郷的娘」太田慶監督
審査員特別賞「赤い原罪」ムン・シング監督(韓国)
シネガーアワード(批評家賞)「されど青春の端くれ」森田和樹監督

◇インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門
グランプリ「極東ゲバゲバ風雲録」中島悠作監督
優秀芸術賞「ムーンドロップス」ヨーラム・エヴァー・ハダニ監督(イスラエル)
「5つ目の記憶」小野寺しん監督
「M&A」宮城伸子監督

◇ファンタランド大賞作品賞(観客賞)「いつくしみふかき」大山晃一郎監督


1:グランプリの森田和樹監督(右)と白石和彌審査委員長=芳賀撮影
2:グランプリ「されど青春の端くれ」=映画祭事務局提供
3:クロージングの集合写真=芳賀撮影
4:トークイベントに参加した(右から)斎藤工、脚本家はしもとこうじ氏、白石和彌監督=映画祭事務局提供
5:「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)=映画祭事務局提供
6:塩田時敏プログラムディレクター(オープニングセレモニー)=芳賀撮影
7:冬開催は今年で最後=芳賀撮影


posted by 映画の森 at 15:25 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする