2019年02月07日

「ちいさな独裁者」軍服だけで盲従する人々 ナチスの悪夢が蘇る狂気の物語

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 第二次世界大戦末期の1945年4月。敗色濃厚なドイツでは兵士の規律違反が相次いでいた。部隊を脱走したへロルト(マックス・フーバッヒャー)は、道ばたに捨てられた車の中に軍服を発見し、身に着けて大尉に成りすます。架空の任務である「ヒトラー総統からの命令」をでっちあげ、言葉巧みに嘘をつき、道中出会った兵士たちを次々と服従させていく──。

 「ちいさな独裁者」は、実在したドイツ人兵士ヴィリー・へロルトをモデルにしている。監督、脚本は西ドイツ出身のロベルト・シュベンケ。ドイツ映画「タトゥー」(02)で長編デビューした後、ジョディ・フォスター主演「フライトプラン」(05)でハリウッド進出。「RED レッド」(10)、「ダイバージェント NEO」(15)などヒット作を手掛けた。「ちいさな独裁者」は15年ぶりに故国ドイツで手掛けた作品だ。

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 終戦まで1カ月。混とんとしたドイツで、「軍服」の魔力にとりつかれた男の狂気が描かれる。ヘロルトはナチス将校の軍服を手にしたことで、大尉の権力も入手する。大き過ぎる軍服を着た小柄なヘロルトは、部隊からはぐれた一人の上等兵と出会う。上等兵はヘロルトの身なりで大尉と思い込み、同行を願い出る。ヘロルトは偽りの大尉になりすまし、道々で出会ったならず者の兵士たちを寄せ集め、「ヘロルト親衛隊」と称する。集団は権力を振りかざし、残酷な狂気へ突き進む。

 ドイツ映画「es エス」(02)を思い出す内容だ。「es エス」では、新聞広告で集められた被験者が疑似刑務所で看守と囚人に分けられ、2週間の実験が行われる。権力を手に入れた看守役は囚人役をいたぶり始め、死者を出す。1971年に米スタンフォード大学で行われた監獄実験をモチーフにしたもので、ヘロルトの行動もそれにつながる印象だ。

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 軍服姿のヘロルトは、兵士たちに「ヒトラー総統直々の任務だ」と宣言。高圧的な態度、巧みな言葉で兵士たちを支配する。疑われながらも数々の修羅場をくぐり抜け、最後は残忍に収容所の囚人たちを処刑し始める。

 戦時中の実話をもとに、人間の内部に潜む支配欲、残虐性をあぶり出した。軍服だけで盲従する兵士たちは、判断力を失った現代人への警鐘にみえる。ヘロルトの残虐行為は、ナチスが実際に行ったおぞましい犯罪の数々を思い起こさせるだろう。負の欲望にとらわれた凶器の物語は、毒気あふれるエンドロールへ続く。ナチスの悪夢に震え上がる作品だ。

(文・藤枝正稔)

「ちいさな独裁者」(2017年、独・仏・ポーランド合作)

監督:ロベルト・シュベンケ
出演:マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウ、ベルント・ヘルシャー、ワルデマー・コブス

2019年2月8日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。。

http://dokusaisha-movie.jp/

作品写真:(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

posted by 映画の森 at 15:51 | Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゆうばり映画祭ラインアップ発表、開幕作はキム・ギドク監督新作「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)

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 第29回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019のラインアップ発表記者会見が6日、札幌市内で行われた。開幕作は韓国のキム・ギドク監督の「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)。3月7日から10日の4日間、73作品を上映する。

 キム監督は韓国の「♯Me Too」運動により表舞台から姿を消しており、本作も欧州などの映画祭で上映されたものの、韓国では未上映となっている。退役軍艦が海から未知の空間に迷い込み、乗っていた多くの旅客が生存競争を繰り広げるストーリー。チャン・グンソク、韓国で活躍する藤井美菜、韓国映画の重鎮アン・ソンギ、オダギリジョーという豪華キャストも注目を集めそうだ。

 ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門は334本の応募の中から6本がノミネート。北海道出身の白石和彌監督ら5人の審査員により審査が行われる。ゆうばり常連の西村喜廣監督がプログラミングを担当する新設の「コアファンタ部門」は、ファンタ映画ファン必見のラインアップをそろえる。

 ゆうばり映画祭は、第30回を迎える来年、大幅な刷新を予定している。深津修一エグゼクティブプロデューサーによると、詳細は決定していないものの、冬季間の開催は今年で最後になるという。

 昨年のゆうばり映画祭で上映された後、全国的に人気が爆発した「カメラを止めるな!」にちなみ、今年のテーマは「ファンタを止めるな!」。開催日程が昨年より1日短縮となり上映本数やスクリーン数も縮小するなど、運営が厳しさを増すなか、身の丈に合った映画祭への模索が続きそうだ。

 雪景色がトレードマークの映画祭は大きな転機を迎える。

(文・芳賀恵)

・招待作品
【オープニング】 「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)キム・ギドク監督
【クロージング】「レゴ・ムービー2」マイク・ミッチェル監督
「アナと世界の終わり」ジョン・マクフェール監督

・作品写真
「人間、空間、時間、そして人間」(仮題)
(c)2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

・映画祭HP
http://yubarifanta.com
posted by 映画の森 at 15:10 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする