2018年11月21日

「恐怖の報酬」ウィリアム・フリードキン監督、不遇の傑作を執念の修復 製作から40年を経て日本劇場公開

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 南米奥地の油井で大火災が発生した。祖国を追われてきた犯罪者4人は、報酬1万ドルと引き換えに、消火用ニトログリセリンの運搬を引き受ける。2台のトラックに分乗し、道なき道を300キロ。密林の奥へと進んでいくが、待ち受ける彼らの運命は──。

 イヴ・モンタン主演、H=G・クルーゾー監督の仏映画「恐怖の報酬」(53)を、「フレンチ・コネクション」(71)、「エクソシスト」(73)のウィリアム・フリードキン監督が、1977年にリメイクした作品。同年の全米公開で興行的に失敗し、日本をはじめ米以外は、監督の了解なしに約30分カットされた短縮版が公開された。

 オリジナル版は数十年間、権利者不明となっていたが、フリードキン監督が執念で音声を5.1chリマスター、映像も4K修復。121分のオリジナル完全版として2013年、ベネチア国際映画祭で披露した。その後、作品は世界の映画祭を巡回し、いよいよ日本で劇場公開されることとなった。

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 70年代に大ヒット作を連発したフリードキン監督が、乗り乗っていた時に興行的に失敗。不本意な評価を受けた不遇の作品だが、改めて完全版を見ると監督が「1コマも修正する気はない」と豪語するように、監督の名に恥じない名作である。しかし、オリジナル版は公開時期が悪かった。77年がスティーブン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」、ジョージ・ルーカス監督の「スター・ウォーズ」が公開。「SF映画元年」と呼ばれた年で、リアリティー主義の「恐怖の報酬」の苦戦はうなづける。

 メキシコの殺し屋、イスラエルの爆弾テロ犯、フランスの不正取引をした投資家、アメリカのマフィア。世界各地を舞台に、脈略もない短い4つのドラマが順番に描かれ、各地で訳ありになった4人が流れ着くのが南米・ボルヴェニール。4人は米石油資源会社が経営する製油所に紛れ込み、労働者として働いていた。

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 監督は4人の素性と背景を、持ち味のリアルで切れ味鋭いド派手演出で描いていく。彼らは母国を離れて南米に逃げざる得なかった。高額な「報酬」と引き換えに、少しの衝撃で大爆発するニトログリセリンを運搬することに。過酷な運命を選択する過程が描かれる。

 ニトログリセリン運搬用のトラックを整備する工程を、セリフを使わず短いカットでつないでいく。ジェームズ・キャメロン監督の「エイリアン2」(86)など、後の監督たちに影響を与えたかっこいい手法だ。

 見どころなんといっても、密林の悪路を一瞬も気を抜かず、トラックを走らせる場面。雨と風が吹き荒れる悪天候の中、朽ち果てる寸前のつり橋をトラックが渡る。進路をふさぐ巨大な倒木。男たちは困難に立ち向かいながら走らせる。

 音楽はドイツのプログレッシブ・バンド、タンジェリン・ドリーム。シンセサイザーで作った無機質なスコアは、その後のジョン・カーペンター監督作品の音楽にも影響を与えたようだ。色のり濃厚な4Kレストアに加え、迫力の5.1chサラウンドで蘇った「恐怖の報酬 オリジナル完全版」。フリードキン監督の狂気が充満した名作だ。

(文・藤枝正稔) 

「恐怖の報酬」(1977年、米)

監督:ウィリアム・フリードキン
出演:ロイ・シャイダー、ブルーノ・クレメル、フランシスコ・ラバル、アミドウ、ラモン・ビエリ

2018年11月24日(土)、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開。

作品の詳細は公式サイトまで。

http://sorcerer2018.com/

作品写真:(C)MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.
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第31回東京国際映画祭 コンペ受賞作を中心に振り返る

P1000207 「テルアビブ・オン・ファイア」ヤニム・ビトン、サメフ・ゾアビ.jpg 「三人の夫」フルーツ・チャン、クロエ・マーヤン.jpg

 11月3日まで東京・六本木を中心に開催された「第31回東京国際映画祭」コンペティション部門の受賞作品を中心に、映画祭を振り返りたい。

【東京グランプリ/東京都知事賞】&【最優秀脚本賞】

「アマンダ」(フランス) 監督:ミカエル・アース

 パリで起こったテロ事件で姉を失った24歳の青年ダヴィッドと、残された姉の娘、7歳のアマンダの、心の崩壊と再生の物語。なにげない日常の幸せな描写と対比させるように、事件後の苦しみと喪失感にさいなまれる主人公を描く。テロを被害者家族の視点で見ており、不穏な世界情勢が生み出した作品だ。

【最優秀監督賞】&【最優秀女優賞】

「堕ちた希望」(イタリア)監督、脚本:エドアルド・デ・アンジェリス

 ナポリ北西の海沿いの街が舞台。妊娠した娼婦を人身売買組織に渡す仕事をするマリアは、希望がない荒れた街で年老いた母の世話をしている。マリア役のピーナ・トゥルコが図太い生命力を感じる演技。根底には「聖母マリア」や「処女受胎」といったキリスト教の教えを深読みできる。

【最優秀芸術貢献賞】

「ホワイト・クロウ」(イギリス)監督:レイフ・ファインズ

 ソ連のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの生涯を、英の名優レイフ・ファインズが3本目の監督作として描いた。1950年代のソ連。貧しかった少年時代、レニングラードでの修業時代、西側への亡命劇。ヌレエフを演じた現役ダンサーのオレグ・イヴェンコのダイナミックな踊り、手に汗握るスリリングな逃亡劇。隅々まできめ細かく行き届いた演出だ。

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【観客賞】

「半世界」(日本)監督:阪本順治

 地方の炭火焼職人・鉱(稲垣吾郎)と、突然町に帰ってきた元自衛官の瑛介(長谷川博己)、二人の中学の同級生・光彦(渋川清彦)。40歳を目前にした男3人の物語。芸術家肌やインテリ系の役を得意とする稲垣が、中学生の息子を持つ炭火焼職人。人間くさいおじさん役で新境地を開拓した。長谷川が心に闇を抱えた男を好演。渋川がガス抜き的でうまい。阪本監督の「大鹿村騒動記」(11)と通じる土着的なドラマだ。ラストにデビュー作「どついたるねん」(89)を思わせるカットを持ってきた。監督自身の折り返し点的作品かもしれない。

 このほかおすすめは、せりふを使わず映像と音楽と効果音だけでつづった独創的な「ブラ物語」(独・アゼルバイジャン)、人気ドラマ制作現場を通じて、中東情勢をコミカルに描いた「テルアビブ・オン・ファイア」(ルクセンブルク・仏・イスラエル・ベルギー)。香港のフルーツ・チャン監督が描いた「三人の夫」は、セックスを大らかに描きつつ、共有すべき物を独占しようとする某国を風刺したような刺激的作品。1本でも多く日本で一般公開されることを願うばかりだ。

(文・写真 藤枝正稔)

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