2018年10月28日

「あいあい傘」25年行方不明の父、探す娘との再会物語 宅間孝行、劇場映画監督3作目

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 恋園神社がある小さな田舎町。年に1度の祭が近づいた日、さつき(倉科カナ)は25年前に姿を消した父の六郎(立川談春)を探しにやって来た。宿に向かう途中、偶然六郎を知るテキ屋の清太郎(市原隼人)と出会ったさつきは、「祭を取材したい」と嘘をつき、町を案内してもらう。父の暮らしぶりを知ったさつきは、父の新しい家族、妻の玉枝(原田知世)、娘(入山杏奈)に会いに行こうとする──。

 宅間孝行が主宰する劇団「東京テレソンデラックス」が07年に上演し、再演がなく「幻の作品」だった同名舞台劇の映画化。宅間自身が監督、脚本を担当している。

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 25年前。六郎は仕事で責任を押し付けられ、電車に乗り、小さな田舎町をさまよい歩き、恋園神社にたどり着いた。思い詰めた表情の六郎を見たお茶屋「恋園庵」の女将・玉枝は後を追い、そっと傘を差し出す。美しいモノクロ無声映画のワンシーンのようだ。六郎の過去が回想として描かれた後、舞台は今に移る。

 車にテキ屋道具を詰め込んだ清太郎は、カメラマンを名乗るさつきと知り合い有頂天。町で皆から慕われ、新しい家族と幸せに暮らす父の様子を知り、さつきに怒りと憎しみ、嫉妬が混じった複雑な感情がわきあがる。

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 テキ屋の男が美しいヒロインに一方的に思いを寄せ、物語が動き出す。山田洋次監督「男はつらいよ」シリーズを思わせる設定だ。寅さんの笑いの底には落語が流れているが、「あいあい傘」は舞台劇のハイテンションなリズム感が生きている。清太郎と仲間夫婦の台詞のキャッチボールが典型だ。さつきの本当の目的を知った清太郎は、六郎とうまく引き合わせようとする。

 宅間監督の劇場映画3作目。ワンカット、ワンシーンで人物の心の動きを丁寧に掘り下げていく。冒頭の白黒映像と対照的に感情の起伏の激しい舞台劇的なドラマが展開し、最後はしっとりした家族の話に着地させる。変幻自在な演出だ。

 さつきと六郎はなかなか会えないが、再会シーンは6分間の長回し撮影。父を前にあふれる感情を抑えた倉科。朴訥とした立川談春。2人の演技は化学反応を起こし、親子の思いがつながる名シーンに仕上がった。脇に徹した原田知世のしおらしさをはじめ、キャストの一体感が心地良い感動を生み出している。

(文・藤枝正稔)

「あいあい傘」(2018年、日本)

監督:宅間孝行
出演:倉科カナ、市原隼人、立川談春、原田知世、入山杏奈

2018年10月26日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://aiai-gasa.com/

作品写真:(C)2018映画「あいあい傘」製作委員会

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2018年10月25日

「旅猫リポート」愛する猫と別れの旅路 福士蒼汰、光る繊細演技

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 元野良猫のナナ(声・高畑充希)は、交通事故に遭ったところを心優しい青年・悟(福士蒼汰)に助けられ、飼い猫として5年間、幸せに暮らしていた。しかし、悟はある事情でナナを手放さなくてはならなくなり、一緒に新しい飼い主を探す旅に出る──。

 有川浩の同名小説を映画化。監督はフジテレビのホラードラマ「トリハダ」シリーズや「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」(16)の三木康一郎、音楽は「この世界の片隅に」(16)のコトリンゴ。

 「吾輩は猫である。名前はナナである」。夏目漱石の「吾輩は猫である」の書き出しになぞらえ、物語の幕が開く。ナナの心の声が随時差し込まれ、悟との道中がロードムービーのように描かれる。悟は過去を回想し、過去と現在が交差する構成だ。

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 ナナを手放す旅の最初の目的地は、悟の小学校時代の同級生・幸介(山本亮介)が働く実家の写真館。小学生のころ、二人は猫を拾い、悟が「ハチ」と名付けて飼い始める。一方で当時、幸せな悟の人生を左右する大変な出来事が起きる。

 次に向かった先は、高校時代の同級生の千佳子(広瀬アリス)と修介(大野拓朗)夫婦が経営するペンションだ。3人は高校時代に仲が良く、姉御肌の千佳子に悟と修介は淡い恋をした。しかし、ペンションの飼い犬とナナが大ゲンカ。最後に向かったのは、悟が子どもの頃から世話になっている伯母(竹内結子)の家だった。

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 起承転結の「起」をぼかして旅は始まる。旅の途中で悟の人生が振り返られ、ナナを手放す理由も見えてくる。行きつく先はまさかの着地点。予想もせぬ展開に驚き、涙があふれた。過去と現在を交差させ、悟の過去と今をしっかり伝えながら、感情移入するよう作られている。巧みな構成と演出だ。

 今年公開の「曇天に笑う」(18)で、天真爛漫で破天荒な主人公をエネルギッシュに演じた福士。今回は正反対。憂いと陰りのある繊細な演技に成長を感じた。ナナを擬人化した心の声が効果的で、高畑のユーモアある表現力は、陰の功労者といえる。猫好きでない人にもお勧めの心温まる感動作だ。

(文・藤枝正稔)

「旅猫リポート」(2018年、日本)

監督:三木康一郎
出演:福士蒼汰、高畑充希(声)、広瀬アリス、大野拓朗、山本涼介

2018年10月26日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://tabineko-movie.jp/

作品写真:(C)2018「旅猫リポート」製作委員会 (C)有川浩/講談社

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2018年10月18日

「デス・ウィッシュ」ブロンソン往年の名作「狼よさらば」、ウィリス主演でリメイク

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 犯罪都市・米シカゴで、緊急患者を診る外科医ポール・カージー(ブルース・ウィリス)。ある日、何者かが家に侵入し、妻ルーシー(エリザベス・シュー)は殺され、娘は昏睡状態になってしまう。進まぬ捜査に怒ったポールは銃をとり、犯人抹殺のため危険な街へ繰り出す──。

 チャールズ・ブロンソン主演、マイケル・ウィナー監督「狼よさらば」(74)のリメイク作品だ。「狼よさらば」はブロンソンのライフワークで、続編4本が製作される人気シリーズとなった。“一人自警団”カージーは、マーチン・スコセッシ監督「タクシードライバー」(76)、ロバート・ギンティ主演「エクスタミネーター」(80)など後続作品に多大な影響を与えた。

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 「デス・ウィッシュ」を監督したイーライ・ロスは、「食人族」(80)をモチーフにした「グリーン・インフェルノ」(13)、「メイク・アップ」(77)をリメイクした「ノック・ノック」(15)と、好きな映画のルーツをたどるように、影響を受けた作品をリメイクしてきた。今回も思い入れの強い1本だろう。

 オリジナルとリメイクはところどころ設定が異なる。建築家だったカージーは外科医に変更。男臭く武骨なイメージだったブロンソンは、「狼よさらば」で市民から自警団に変わる姿を繊細に演じ、俳優としての幅を大きく広げた。一方、「ダイ・ハード」のウィリスは一味違い、人間味あるカージー像を作り上げた。新しいキャラクターとして、カージーに頼り切りのダメな弟フランク(ビンセント・ドノフリオ)が登場。物語の絶妙なアクセントになっている。

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 オリジナルを覆っていた悲壮感と重苦しさを取り払い、シリーズ3作目「スーパー・マグナム」(85)あたりの大らかな乗りを目指した印象。カージーの戦いは動画撮影され、SNSを通じて拡散。街のヒーローとして神格化されていくところに、現代らしさが色濃く出ている。

 「自分の身は自分で守る」開拓精神がカージーを突き動かし、拳銃を手に街のダニの一掃にとりかかる。犯罪都市に現れたヒーローは、無力な警察を揶揄するようにも感じられる。現代に再現された痛快復讐劇だ。

(文・藤枝正稔)

「デス・ウィッシュ」(2018年、米)

監督:イーライ・ロス
出演:ブルース・ウィリス、ビンセント・ドノフリオ、エリザベス・シュー、ディーン・ノリス、キンバリー・エリス

2018年10月19日(土)、TOHO シネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://deathwish.jp/

作品写真:(C)2018 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
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2018年10月15日

釜山国際映画祭、政治介入めぐる対立解消 にぎわい戻り動員増

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 韓国の釜山市で開かれていた「第23回釜山国際映画祭2018」が10月13日に閉幕した。これまでの数年間、政権の映画祭への介入に反発して参加を拒否していた映画団体もすべてボイコットを撤回し、映画会社の主催するパーティーも復活。緊張が消えて賑わいを取り戻した10日間となった。動員数は約19万5000人と昨年を2000人ほど上回った。

開幕作はイ・ナヨン6年ぶり復帰作 脱北女性の物語
 開幕作は脱北した女性の過酷な半生を描いた韓国の「ビューティフルデイズ」(ユン・ジェホ監督)。主人公は中国で朝鮮族の貧しい男性に売られ子どもを生むが、家族を置いて韓国に渡る。14年後、成長した息子が彼女のもとを訪ねてくるが、母は酒場で働き、やくざのような男と暮らしていた。失望して中国に帰った息子は、母の残したノートを読んでその悲劇的な過去を知る、というストーリーだ。

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 6年ぶりのスクリーン復帰となるイ・ナヨンが脱北女性を熱演している。母親に複雑な感情を抱く息子役の新鋭チャン・ドンユン、売られてきた妻に深い愛情を注ぐ朝鮮族男性役のオ・グァンノクの演技も見ごたえ十分。監督が記者会見で「偏見を排除したかった」と語った通り、登場人物はみな弱さを持った人間で、悪徳ブローカーや母の韓国の情夫も絶対的な悪人として描かれてはいない。

 ユン監督は韓国とフランスで活動する映像作家。「ビューティフルデイズ」が長編劇映画のデビュー作となるが、製作準備の間にドキュメンタリー「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」(16)を発表している。「マダム・ベー」の主人公は出稼ぎのつもりで来た中国で農村の男性に売られ、脱北ブローカーとなり、韓国に渡る。脱北女性と家族の綿密な取材をもとにしたこのドキュメンタリーは、日本でも反響を呼んだ。

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 過酷な運命を受け入れてたくましく生きる女性と家族というテーマは劇映画の「ビューティフルデイズ」にも引き継がれている。苦難に満ちた人生にも、いつか「美しい日々」が訪れるという期待を込めたエンディングにほっとさせられる。

台風の影響も
 釜山映画祭では、週末に海雲台ビーチで俳優や監督のトークイベントが行われ、映画ファンが詰めかけるのが恒例。だが今年は台風25号の直撃が予想されたため、急きょメーン会場の「映画の殿堂」に場所が移された。

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 5日は「デッドエンドの思い出」のチェ・スヨン(少女時代)と田中俊介、「The Island」に出演したEXOのレンなどが登壇し観客の声援に応えた。朝から激しい暴風雨に見舞われた6日は「寝ても覚めても」の東出昌大らのイベントが中止になったものの、公開中の「ミス・ペク」のハン・ジミンとイ・ヒジュン、「暗数殺人」のキム・ユンソクとチュ・ジフンが登場。イ・チャンドン監督の「バーニング」出演のユ・アインとチョン・ジョンソのトークイベントも行われた。

中国の「雪暴」、韓国の「呼吸」が受賞
 新人監督の作品を対象にしたコンペティション部門の「ニューカレンツ賞」には、中国の「雪暴」(崔斯韋監督)と韓国の「呼吸」(クォン・マンギ監督)が選ばれた。

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 「雪暴」は台湾の張震(チャン・チェン)を主演に迎え、中国と北朝鮮の国境にある長白山(白頭山)でオールロケをした話題作。雪深い山中で警察と悪党が繰り広げるアクションが見ものだ。「呼吸」は刑務所から出所して清掃会社に入った青年が、過去に自分を誘拐して身代金を奪った女性と偶然出会う物語。「誘拐事件そのものではなく、その後の関係者の心情を描きたかった」というクォン監督は、自分の人生を台無しにした相手を許せるかと観客に問いかける。

 アジアの映画人の育成を目的の一つに掲げる釜山国際映画祭。賞を逃した作品もいずれも底力を感じさせるもので、監督たちの今後の活躍に期待がかかる。

(文・芳賀恵、写真・岩渕弘美)

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1:「ビューティフルデイズ」記者会見に出席したイ・ナヨン
2:「ビューティフルデイズ」記者会見後のフォトセッション =いずれも10月4日
3:「ビューティフルデイズ」作品写真=映画祭事務局提供
4:「デッドエンドの思い出」の出演者
5:「ミスペク」のイ・ヒジュン
6:「ミスペク」のハン・ジミン
7:「バーニング」のユ・アイン
8:「雪暴」作品写真=映画祭事務局提供
9:「呼吸」作品写真=映画祭事務局提供
10:「ビューティフルデイズ」トーク
11:「ミスペク」の出演者
12:「八個女人一台戲」の(左から)サミー・チェン、スタンリー・クワン監督、ジジ・リョン
13:「比悲傷更悲傷的故事」の劉以豪(ジャスパー・リウ)
14:「比悲傷更悲傷的故事」の出演者
15:「祈る男」出演者ら
16:「辺山(ピョンサン)」の出演者ら
17:「暗数殺人」のチュ・ジフン
18:「暗数殺人」の出演者ら
19:「バーニング」のトークイベント

posted by 映画の森 at 17:50 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月11日

「アンダー・ザ・シルバーレイク」奇抜な脚本、オフビートなノリ ロスを騒がす不条理サスペンス

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 “大物”になる夢を抱き続け、気が付けば職もなく、家賃まで滞納しているサム(アンドリュー・ガーフィールド)。隣に住む美女サラ(ライリー・キーオ)に一目ぼれ。デートの約束を取り付けるが、翌日サラは忽然と消えてしまう。もぬけの殻になった部屋を訪ねたサムは、壁に書かれた奇妙な記号を見つけ、陰謀の匂いをかぎ取る。おりしも大富豪や映画プロデューサーの失踪や謎の死が続き、真夜中になると犬殺しが出没。街を操る裏組織の存在が噂されていた──。

 クエンティン・タランティーノが絶賛したホラー映画「イット・フォローズ」(14)のデビッド・ロバート・ミッチェルが、監督・脚本を担当した最新ネオノワール・サスペンスだ。

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 ロサンゼルスの北西部に位置する町・シルバーレイク。カフェの窓ガラスいっぱいに「犬殺しに気をつけろ」と警告のような文言が書かれ、主人公のオタク青年サムが店内から見つめている。爽やかな日常が、非日常に変わる不安な幕開け。光り輝くロサンゼルスの表の顔とは、別の裏の顔があぶりだされる。

 一目ぼれしたサラの失踪を皮切りに、サムは次々奇妙な出来事に巻き込まれる。暗号解析、都市伝説、サブリミナル効果──オタク知識を生かしながら、ロスの大物たちの死や失踪、犬殺しなどに、大きな陰謀が渦巻いていると気付く。

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 独自性あふれる奇抜な脚本に、オフビートなノリ。くせのある登場人物に知的好奇心をくすぐられる。不条理な悪夢のような物語は、偉大な過去の作品群の影響を受けている。ヒッチコックの「裏窓」(54)、スコセッシの「アフター・アワーズ」(85)、リンチの「ブルーベルベット」(86)。現代に合わせたポップカルチャーを随所に混ぜ込み、複雑怪奇にしたような作品だ。

 リッチ・ブリーランドの音楽は、ヒッチコック作品を多く手がけた映画音楽家バーナード・ハーマンのスコアを思わせる。クラシカルな弦楽を基調にした重厚なスコアで、悪夢のような不安感を醸し出す。

 「ハクソー・リッジ」(16)、「沈黙 サイレンス」(16)、「ブレス しあわせの呼吸」(17)など、出演作が目白押しのガーフィールドが、ひとくせあるオタク青年に。プレスリーの孫娘で「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15)のキーオら、キャストの魅力も手伝い、ミッチェル監督の才能が開花した。目ざとい映画ファンは注目のサスペンスだ。

(文・藤枝正稔)

「アンダー・ザ・シルバーレイク」(2018年、米国)

監督:デビッド・ロバート・ミッチェル

出演:アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオ、トファー・グレイス、ゾーシャ・マメット、キャリー・ヘルナンデス

2018年10月13日(土)、新宿バルト9ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/underthesilverlake/

作品写真:(C)2017 Under the LL Sea, LLC

posted by 映画の森 at 15:41 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする