2018年09月08日

「1987、ある闘いの真実」チャン・ジュナン監督に聞く 民主化前夜のうねり「美しく純粋だった時代を振り返ってほしい」

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 韓国民主化闘争を描いた映画「1987、ある闘いの真実」が公開中だ。全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領(当時)率いる軍事政権下の韓国で、当局による大学生の拷問死に端を発した民主化運動のうねりを、キム・ユンソク、ハ・ジョンウら実力派俳優で描く意欲作だ。チャン・ジュナン監督は「作品があの時代を考える鏡になってほしい。美しく純粋だった時代を、振り返ってほしい」と語る。

 1987年1月。ソウル・南営洞警察のパク所長(キム・ユンソク)は、反体制派の取り調べを激化させていた。ある日、尋問の途中でソウル大学生が死亡し、慌てた警察は隠ぺいのため火葬を申請する。しかし、不審に思ったチェ検事(ハ・ジョンウ)が解剖を命令、拷問致死と判明。隠ぺいの動きを知った新聞記者らも真相究明に動き出す。大学生の死を機に民主化の動きが高まり、韓国全土を巻き込む社会運動に発展する。

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 監督との主なやり取りは次の通り。

 ──韓国では現在も、政治問題や負の歴史を映画で描くのは難しいのでしょうか。

 そうですね。朴槿恵(パク・クネ)前大統領政権下では、脚色を秘密裏に行う必要がありました。この映画の話が広まると、不利益を被る人が出るからです。生存者の話を聞く必要もありましたが、妨害を受けるかもしれないので、紙の資料をたくさん集めました。完成しても「公開できるだろうか」と思っていました。

 製作の過程で奇跡のような出来事がたくさんありました。朴前大統領の友人をめぐる疑惑が起き、政権が交代するまで、政治的にダイナミックな動きが続きました。出演した俳優たちも勇気を出し、一緒に作業する意志を表明してくれました。

 作品を完成させ、観客のもとに届けられたのは奇跡だと思います。私は迷信を信じませんが、上から何かが見守ってくれているのではないか、と思うことがありました。公開後、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は事件の遺族と一緒に作品を観たのですから。

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 ──日本では報道の自由が侵され始めていると言われます。この作品が日本へのメッセージと感じました。

 そうなんですか? 人がそれぞれ置かれた立場で、良心を守ることがいかに重要か、いかに大きな力を発揮するかが分かってもらえたと思います。そのことが歴史をどう作り、変えていくかを、この映画は伝えていると思います。

 ──監督は1970年生まれ。事件当時は高校生で、デモに参加するより、催涙弾が撃たれる中で授業に出ていたと聞きました。肌で民主化運動を知っている世代と立ち位置が違うことが、登場人物を描く時に関係しましたか。

 韓国国民は1987年、大統領を直接選挙で選ぶ権利を勝ち取りました。しかし、(民主派の候補は選挙に出られず)軍事政権をそのまま受け継いだ盧泰愚(ノ・テウ)氏が大統領になった。当時の人たちは、勝利を勝ち取った手ごたえと、敗北感を同時に感じていました。そんな時代に私は大学生活を送ったのです。私の大学にも、催涙弾を浴びて亡くなった学生はいました。不利益の真ん中に自分がいたわけではありませんが、十分にそれを感じていました。

 作品に芸術的な雰囲気が出過ぎなかったことで、うまく時代の空気をつかめたのではないでしょうか。あの時代、過酷な状況を生き抜いた人たちに「私は本当に厳しい中を生きてきたので、今も時代に閉じ込められている。映画はそこから解放してくれた」と感謝されました。ありがたいことです。

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 ──朴前政権でも反対派への圧力がありました。なぜ弾圧は起きるのでしょう。なぜ歴史は繰り返されるのだと思いますか。

 歴史は一歩一歩前へ進む時、多くの足跡を残し、後の人たちに影響を与えます。韓国は分断され、人々は戦争を経験しました。朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の独裁があり、金大中(キム・デジュン)元大統領の拉致事件があり、学生による民主化運動がありました。大きなエネルギーが足跡を残しながら、時代は今に至ります。

 1987年に大統領の直接選挙制が導入され、憲法裁判所が作られました。朴前大統領もここで審判を受け、法的に権利を剥奪されました。脚本を書いている時、市民による「ろうそく革命」が起きました。人々は民主化へ向けてまた半歩進んだのです。遅いかもしれないが踏み出せました。歴史が前に進んだと信じたいです。

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 ──人々は劇中で「あの日がくれば」という歌を歌っています。「あの日」は理不尽なことがない理想的な社会だと思います。監督は実現を前向きにとらえていますか。

 そう信じたいです。1987年当時は純粋でした。過酷な戦いを通して、独裁政権から権利を勝ち取りました。しかし、彼らが歌った「あの日がくれば」は、今も有効でしょうか。彼らはその後どう生きてきたでしょう。現在、マンションの値段が上がっているのは、運動の中心だった世代のせいではないでしょうか。

 私はこの映画が、あの時代について考える鏡のような役割を果たしてほしいと思います。鏡をのぞき込むことで、美しく純粋だった時代を、もう一度振り返ってほしいと思うのです。

(文・遠海安 写真・岩渕弘美)

「1987、ある闘いの真実」(2017年、韓国)

監督:チャン・ジュナン
出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、ソル・ギョング

2018年9月8日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://1987arutatakai-movie.com/

作品写真:(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED
posted by 映画の森 at 18:34 | Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする