2018年09月13日

「ダウンレンジ」見えない敵に狙われる6人、恐怖の底へ 北村龍平監督、冴えわたる演出

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 大学生6人が車で山道を走っている途中、タイヤがパンクする。それはアクシデントではなく、銃撃が原因だった。しかし、気付いた時にはすでに見えない何かの射程に入っていた──。

 「VERSUS」(01)で長編デビュー後、「あずみ」(03)、「ゴジラ FINALWARS」(04)などを手がけ、ハリウッドに拠点を移した北村龍平監督。「ミッドナイト・ミート・トレイン」(08)、「NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ」(12)を経て日本に戻り、実写版「ルパン三世」(14)を監督した。

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 「ダウンレンジ」は、「この世界の片隅で」を製作した真木太郎と組み、米国で撮影した最新インディペンデント作品だ。「ダウンレンジ」とは射程圏内を意味し、軍人は「戦闘地帯」として使う言葉だ。

 起承転結の「起」をばっさり割愛し、幕開け1分足らずで観客を物語へと引き込む。人っ子一人いない田舎の一本道。6人を乗せた車のタイヤがパンクする。男女3人ずつの関係性は見えてこない。タイヤ交換を担当した男は、銃撃が原因だと知った瞬間、頭を撃ち抜かれて絶命。銃口は残る5人を狙い始める。

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 1970年代、ベトナム戦争が泥沼化し、米国も不穏な空気に包まれた。映画界にも影響を受け、スティーブン・スピルバーグ監督のテレビ映画「激突」(71)、ジョン・ブアマン監督「脱出」(72)、トビー・フーバー監督「悪魔のいけにえ」(74)など、縄張りに踏み込んだよそ者に狂気の刃が向けられる作品が次々と作られた。時は流れて現在。「ダウンレンジ」はトランプ時代の不穏な空気を汲みとり、進化した作品といえる。

 落ち度がない6人は殺人鬼のテリトリーを偶然通りかかり、標的にされてしまう。1人目の犠牲者からほぼノンストップで殺人ゲームは続く。携帯電話の電波は入らず、外部と連絡が取れない孤立無援。姿の見えない相手から何とか逃げ延びようと、若者たちは知恵をしぼり、運にかける。

 物語が展開する場所は限られ、究極のワン・シチュエーション・スリラーといえる。回転するカメラワーク、銃弾の標的、えげつないスプラッター描写、たたみかけるショッキング演出。原点に戻ったかのような演出が冴えわたり、観客を恐怖のどん底へ落とし込む。衝撃のラストまで爽快感すら感じる仕上がり。北村監督の健在ぶりを知らしめる注目作だ。

(文・藤枝正稔)

「ダウンレンジ」(2018年、日・米)

監督:北村龍平
出演:ケリー・コンネア、ステファニー・ピアソン、ロッド・ヘルナンデス=ファレラ、アンソニー・カーリュー、アレクサ・イェイムズ

2018年9月15日(土)、新宿武蔵野館で2週間限定レイトショー。作品の詳細は公式サイトまで。

http://downrangethemovie.com/

作品写真:(C)Genco. All Rights Reserved.

posted by 映画の森 at 23:37 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月11日

「500ページの夢の束」ダコタ・ファニング演じるオタク女子、バスで数百キロを行く 「スター・トレック」愛あふれる異色ドラマ

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 「スター・トレック」が大好きで、関連知識は誰にも負けないウェンディ(ダコタ・ファニング)。趣味は自分で「スター・トレック」の脚本を書くことだった。自閉症の彼女は唯一の肉親の姉・オードリー(アリス・イブ)と離れて暮らし、ソーシャルワーカーのスコッティ(トニ・コレット)の協力でアルバイトを始めた。ある日、「スター・トレック」脚本コンテストがあると知り、ウェンディは渾身の1本を書き上げる。しかし、郵送では締め切りに間に合わず、愛犬ピートと一緒に、ハリウッドまで数百キロの旅に出る──。

 家と職場を往復するだけの「スター・トレック」オタクの女子が、一世一代の長距離移動で目的を達成する物語。監督は障害者の性を描いた「セッションズ」(12)のベン・リューイン。「I am Sam アイ・アム・サム」(01)、「宇宙戦争」(05)など子役でキャリアをスタートさせたダコタ・ファニング。幼い頃が絶頂期で、最近は妹のエル・ファニングの活躍に押され気味。今回は個性的で強烈なキャラクターとして我々の前に帰ってきた。

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 ウェンディは人前では非常に口数が少ないが、脳内ではずっとしゃべり続けている。その様子は主人公のモノローグで表現される。心を許した相手のみと視線を合わせ、他人からは目をそらせる。

 単調な生活の中で、唯一の楽しみはテレビで「スター・トレック」を見て、自分なりの脚本を書くこと。コンテストを知って早速執筆にとりかかり、無事完成するが、郵送では間に合わない。家があるオークランドから製作会社があるロサンゼルスまで、3日かけてバスで届けようとする。勝手に付いてきた愛犬ピートとの道中は、予想通りトラブル続き。多くの人を巻き込んでいく。

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 米国では国民的人気のSFドラマ「スター・トレック」がモチーフなので、「スター・トレック」の設定や登場人物、専門用語を知らないと楽しみが半減するかもしれない。一方、前作「セッションズ」で障害者の性を描いたリューイン監督は、社会的弱者である自閉症者の厳しい現実もきちんと描いている。

 脚本を届けるウェンディは、困難なミッションに立ち向かう「スター・トレック」のクルーのようだ。ウェンディが唯一しっかり視線を合わせる意外な相手、姉オードリーを「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(09)に出演したイブが演じるなど、どこまでも「スター・トレック」愛があふれ、異色なハートフルなドラマとなった。

(文・藤枝正稔)

「500ページの夢の束」(2017年、米国)

監督:ベン・リューイン
出演:ダコタ・ファニング、トニ・コレット、アリス・イブ

2018年9月7日(金)、新宿ピカデリーほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://500page-yume.com/

作品写真:(C)2016 PSB Film LLC

タグ:レビュー
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2018年09月08日

「1987、ある闘いの真実」チャン・ジュナン監督に聞く 民主化前夜のうねり「美しく純粋だった時代を振り返ってほしい」

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 韓国民主化闘争を描いた映画「1987、ある闘いの真実」が公開中だ。全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領(当時)率いる軍事政権下の韓国で、当局による大学生の拷問死に端を発した民主化運動のうねりを、キム・ユンソク、ハ・ジョンウら実力派俳優で描く意欲作だ。チャン・ジュナン監督は「作品があの時代を考える鏡になってほしい。美しく純粋だった時代を、振り返ってほしい」と語る。

 1987年1月。ソウル・南営洞警察のパク所長(キム・ユンソク)は、反体制派の取り調べを激化させていた。ある日、尋問の途中でソウル大学生が死亡し、慌てた警察は隠ぺいのため火葬を申請する。しかし、不審に思ったチェ検事(ハ・ジョンウ)が解剖を命令、拷問致死と判明。隠ぺいの動きを知った新聞記者らも真相究明に動き出す。大学生の死を機に民主化の動きが高まり、韓国全土を巻き込む社会運動に発展する。

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 監督との主なやり取りは次の通り。

 ──韓国では現在も、政治問題や負の歴史を映画で描くのは難しいのでしょうか。

 そうですね。朴槿恵(パク・クネ)前大統領政権下では、脚色を秘密裏に行う必要がありました。この映画の話が広まると、不利益を被る人が出るからです。生存者の話を聞く必要もありましたが、妨害を受けるかもしれないので、紙の資料をたくさん集めました。完成しても「公開できるだろうか」と思っていました。

 製作の過程で奇跡のような出来事がたくさんありました。朴前大統領の友人をめぐる疑惑が起き、政権が交代するまで、政治的にダイナミックな動きが続きました。出演した俳優たちも勇気を出し、一緒に作業する意志を表明してくれました。

 作品を完成させ、観客のもとに届けられたのは奇跡だと思います。私は迷信を信じませんが、上から何かが見守ってくれているのではないか、と思うことがありました。公開後、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は事件の遺族と一緒に作品を観たのですから。

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 ──日本では報道の自由が侵され始めていると言われます。この作品が日本へのメッセージと感じました。

 そうなんですか? 人がそれぞれ置かれた立場で、良心を守ることがいかに重要か、いかに大きな力を発揮するかが分かってもらえたと思います。そのことが歴史をどう作り、変えていくかを、この映画は伝えていると思います。

 ──監督は1970年生まれ。事件当時は高校生で、デモに参加するより、催涙弾が撃たれる中で授業に出ていたと聞きました。肌で民主化運動を知っている世代と立ち位置が違うことが、登場人物を描く時に関係しましたか。

 韓国国民は1987年、大統領を直接選挙で選ぶ権利を勝ち取りました。しかし、(民主派の候補は選挙に出られず)軍事政権をそのまま受け継いだ盧泰愚(ノ・テウ)氏が大統領になった。当時の人たちは、勝利を勝ち取った手ごたえと、敗北感を同時に感じていました。そんな時代に私は大学生活を送ったのです。私の大学にも、催涙弾を浴びて亡くなった学生はいました。不利益の真ん中に自分がいたわけではありませんが、十分にそれを感じていました。

 作品に芸術的な雰囲気が出過ぎなかったことで、うまく時代の空気をつかめたのではないでしょうか。あの時代、過酷な状況を生き抜いた人たちに「私は本当に厳しい中を生きてきたので、今も時代に閉じ込められている。映画はそこから解放してくれた」と感謝されました。ありがたいことです。

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 ──朴前政権でも反対派への圧力がありました。なぜ弾圧は起きるのでしょう。なぜ歴史は繰り返されるのだと思いますか。

 歴史は一歩一歩前へ進む時、多くの足跡を残し、後の人たちに影響を与えます。韓国は分断され、人々は戦争を経験しました。朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の独裁があり、金大中(キム・デジュン)元大統領の拉致事件があり、学生による民主化運動がありました。大きなエネルギーが足跡を残しながら、時代は今に至ります。

 1987年に大統領の直接選挙制が導入され、憲法裁判所が作られました。朴前大統領もここで審判を受け、法的に権利を剥奪されました。脚本を書いている時、市民による「ろうそく革命」が起きました。人々は民主化へ向けてまた半歩進んだのです。遅いかもしれないが踏み出せました。歴史が前に進んだと信じたいです。

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 ──人々は劇中で「あの日がくれば」という歌を歌っています。「あの日」は理不尽なことがない理想的な社会だと思います。監督は実現を前向きにとらえていますか。

 そう信じたいです。1987年当時は純粋でした。過酷な戦いを通して、独裁政権から権利を勝ち取りました。しかし、彼らが歌った「あの日がくれば」は、今も有効でしょうか。彼らはその後どう生きてきたでしょう。現在、マンションの値段が上がっているのは、運動の中心だった世代のせいではないでしょうか。

 私はこの映画が、あの時代について考える鏡のような役割を果たしてほしいと思います。鏡をのぞき込むことで、美しく純粋だった時代を、もう一度振り返ってほしいと思うのです。

(文・遠海安 写真・岩渕弘美)

「1987、ある闘いの真実」(2017年、韓国)

監督:チャン・ジュナン
出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、ソル・ギョング

2018年9月8日(土)、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://1987arutatakai-movie.com/

作品写真:(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED
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2018年09月03日

「MEG ザ・モンスター」ジェイソン・ステイサム、巨大ザメに立ち向かう 王道の動物パニック映画、ベテラン監督で質高く

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 大陸から200キロ離れた海洋研究施設の探査船が、未知の海溝を発見した。しかし、喜びもつかの間、船は消息を絶つ。潜水救助のプロ、ジョナス・テイラー(ジェイソン・ステイサム)は助けに向かった先で、常識を超えたモンスター「MEG」と遭遇する──。ジェイソン・ステイサム主演、ジョン・タートルトーブ監督の海洋パニック映画「MEG ザ・モンスター」。「MEG」(メガロドン)は、約200万年前に実在した巨大ザメを指す。

 サメの恐怖を描いたパニック映画の元祖は、スティーブン・スピルバーグ監督「ジョーズ」(75)だ。その後、続編が作られたが、質の低下でシリーズは一旦終息する。その後、サメ映画ではレニー・ハーリン監督の「ディープ・ブルー」(99)がスマッシュヒットした。2000年代に入るとCG(コンピューター・グラフィックス)技術の進歩により、サメ映画は安くで作られ、ビデオ映画の定番となった。「メガ・シャーク」など多くの亜流も撮られ、サメ映画はすっかりチープなバッタ物扱いに成り下がった。ところが、ここにきて本命といえる「MEG ザ・モンスター」の誕生だ。

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 巨大サメに立ち向かうジョナスには、「エクスペンダブルズ」(10)などアクション映画で大活躍するジェイソン・ステイサム。タートルトーブ監督は「クール・ランニング」(93)、「ナショナル・トレジャー」シリーズなど、ドラマから娯楽アクションまで幅広いジャンルで活躍。ベテラン監督の起用で、近年のサメ映画では群を抜いたクオリティーに仕上がった。

 幕開けで未知の海溝の発見、巨大生物の恐怖が手際よく描かれる。ジョナスの決断は誤解を招き、仲間と亀裂が発生。ジョナスは現場を去る。「クリフハンガー」(93)などアクション映画で定番の「主人公が冒頭で挫折を味わい、一度は現場から去る」描写だ。後に新たな困難に立ち向かうため、ジョナスは現場に復帰する。お決まりのプロットで潔い構成だ。

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 技術の進歩で「描けないものはない」とされる最近のハリウッド。さすがに体長23メートルの巨大ザメは、あまりに大きく現実味に欠けるが、相手がステイサムならこのぐらいの大きさが必要だろう。ステイサムは元水泳の飛び込み選手。多くの水中アクションをスタントなしで挑み、貫録を見せつけた。

 乗り物のデザインは、リアリティーと未来志向を融合させ、隠し味になっている。ハイテクの結晶が古代生物にかなわない構図で、巨大ザメの不気味さを印象付ける。往年の動物パニック映画のセオリーを受け継ぎながら、実写とCGで王道のドラマを描く。バランス感覚がいい快作だ。

(文・藤枝正稔)

「MEG ザ・モンスター」(2018年、米国)

監督:ジョン・タートルトーブ
出演:ジェイソン・ステイサム、リー・ビンビン、レイン・ウィルソン、ルビー・ローズ、ウィンストン・チャオ

2018年9月7日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://warnerbros.co.jp/movie/megthemonster/

作品写真:(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., GRAVITY PICTURES FILM PRODUCTION COMPANY, AND APELLES ENTERTAINMENT, INC.

posted by 映画の森 at 11:30 | Comment(0) | 米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする